ある組織の動揺2(仮)
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「その“イレギュラー”の動きは?追えたのか?」
“イレギュラー”。
そう仮称された冒険者は、我々の監視対象となっている。
が、問題は、奴がギルドの保護対象になってしまったという事だ。
これ以上、計画を邪魔されないうちに、灰尾竜と名付けられた組織に全力で潰せと命じた結果、返り討ちに遭ってしまった。
おそらく、組織はギルドに解体されるであろう。
だが、奴が潰そうとしているのは、それだけではなかった。
「・・・“人喰らい”を殺ったのは間違いなく奴だよ。
ノルタークでは、知る人ぞ知る有名人から、知らぬ者が居ない英雄に変わりつつある。」
飼い慣らしたモンスターや地形を利用した経済封鎖さえも、解かれようとしていた。
「焦る事もあるまい。飛竜は計画を後押しする為のものだった筈だ。
もともと地形の問題で、あそこには大型の生き物が居ないというのがおかしかったのだ。
討伐態が何度も敗れて人の行き来が無くなった今、生態系も変わった。
すぐにまた新たなモンスターが住み着くさ。」
「お前は!前回の報告を聞いていなかったのか?!」
空気がギシリと音を立てた気がした。
「奴は!水中で自由に行動できる魔道具を開発させたんだぞ!
そして!すでにドワーフは廉価版の生産を始めている!この意味が!!わからんのか!!?」
「落ち着け。前回の報告では、彼は白頭との会談の為にアズルビアに行っていただろう。
忙しくて報告書に目を通す時間が無かったと、最初に言っていたではないか。そうだろう。」
そう、たった一回の報告会の欠席だけで、全く情勢を飲み込めていない程に、状況は大きく変わってしまったのだ。
「おそらく、明日の討伐が成功すれば、ドワーフ達はサファルラ岩礁地帯の海底を工事して、船が進めるようにしてしまうだろう。」
「なっ?!」
そうなった時。それを想像すれば言葉を詰まらせるしかない。
腕のある船乗り達しか通れなかった海の道が、モンスターにさえ捕まらなければ、誰でも通行できるようになる。
そうなれば、モンスター騒動の前のように・・いや、それ以上にノルタークは発展し、国の経済は潤う。
つまり、戦争のきっかけが消えて無くなってしまうのだ。
「戦争に“理由”は必要だ。事を急ぐ必要があるな。」
ようやく全体で情報を共有し、認識が一致したところで、だ。
「残念な事に、“イレギュラー”の情報は殆どが不明だ。
首都付近で“イレギュラー”らしき人物の情報が挙がったが、これは全くの別人と考えられる。」
別人の根拠、そして“イレギュラー”の情報。
いくつが挙げられた情報を聞いているうちに、短気な男がついに声を荒げた。
「つまり、何も分かってねーって事じゃねーか!!!
『お人好し』だの、『金持ち』だのはまぁいい。
『知り合って間もないらしいドワーフの女を大事にしている』のも分かる。
何だよ『頭の上のコッコ鳥を痛め付けると激怒する』って。
だから何なんだよ?!コッコ鳥を食わないように気を付けろってか?
俺達が知りたいのは、その男が『何処から来た』『何者』で、『何を目的』にしているかだろう?
そいつのペットの話なんてどうだっていいんだよ!
『コッコ鳥の色が赤くなったようだ』とか真面目な顔して報告してんじゃねーよ!」
男は“尾”と同じ位置にある下部組織、“爪”を纏める者だ。
幹部の1人ではあるものの、頭の下に翼・腕とされる組織があり、その更に下である。
発言した者が上の“腕”であった為に、劣等感が刺激されたようだ。
前例に倣い、彼を“切り裂く者”という意味で“リッパー”と呼称しようとしたが、本人が頑なに拒否した結果、確か・・“ザンエイ”と呼ばれていたな。
切り裂く影という意味らしいが、影と呼ぶにはこの男、口うるさくて目立つ。
幹部としては低いポジションである為、それをコンプレックスに感じているようだが、そもそもの話、そのような性格だから上に上がる事ができないのだと誰もが思っている。
まぁ、男の言うことは最もだ、と思える程度には情報が酷かったのも事実ではあるが。
「情報が少ない以上、何が重要になってくるかは分からない。
共有を怠ったが為に後で痛い目に遭うよりも、分かっている事をすべて報告して今度の舵取りを決めた方がスムーズに事が運ぶ。
何しろ、これは想定外なのだから。」
「情報が少ないのは誰のせいだと思ってるんだ!
大体、お前の持っている情報は本当にそれで全てなのか?何か隠しているんじゃないだろうな?」
収拾が付かなくなる前に、どうにかすべきだろう。
「静かにしろ!和を乱すな!」
「でも考えてみろよ!ここまで上手くいかないのはおかしい!
逆にいうと、ここまで上手く阻まれるのには理由がある筈だろう?!」
一瞬、シンと静まり返った。
確かにそうだ、と思ってしまった為である。
それが、こいつを喋らせた。喋らせてしまった。
「俺達にと敵対する組織を確認できなかったって報告したのは誰だ?敵対する組織など存在しない?
じゃぁ何で。何でいきなり回復薬だの聖水だのを持った冒険者が現れるんだ?
それだけじゃない。何でそいつは“人喰らい”を倒した?
そして、水中呼吸のできる魔道具を開発して、将来的には海中の討伐や工事も可能?
金にするだけなら他にいくらでもクエストがあるし、道楽にするだけなら、他にいくらでも遊びようがあるだろう!
その上、相手の情報が掴めない?
情報の掴めないような新顔が、ポッと出て俺達の策を次々と食い破ってるってのか?
そんなの、どう考えたって・・・。」
この先を言わせるのは不味い。そう思ったが、遅かった。
「この中に裏切り者がいるって事じゃねぇか!!!」
「黙れ。」
遅かったのだ。
裏切り者、と聞いた瞬間、視線は交錯した。
ある者は無意識に、そしてある者は意識的に。
数瞬の間を経て、視線は穏やかな笑みを浮かべる“ハクビ”に、集中したのだった。




