ギルディート、人の心はままならないと気付く(仮)
書き途中です。
遺跡に侵入し、しばらく潜んだ後、古いローブを被って出る。
訪れる者も無く、モンスターの巣窟と化しているかもしれない、という前情報の割には、穏やかなものだった。
おかげで、襲撃を気にせずに、しっかりと着替えをできた。
フードを被り、髪や耳を隠す。あとは、オッサンにバレないように遺跡を出て身を隠すだけだ。
「おかえり。早かったね?」
「なんで入り口で待ってるんだよ!!!」
着替えて、これまでの衣服と変わったのにも関わらず、ごく自然に、何の躊躇もなく声を掛けてくるあたり、俺だと確信されている。
普通は、たとえ何日も訪れる人がいなくとも、特徴が変わってたりするだけで声を掛けるのを躊躇うってもんだ。
しっかし、こんな待ち伏せみたいな形でお出迎えとは、ロープを脱いで叩き付けたくなるくらいには予想外だった。
こういう場合、隠しても無駄だ。降参してフードを下ろす。
頑なに招待を隠そうとして、「怪しい人物だ」と衛兵を呼ばれてもまずいからな。
「オッサン、“世界の認識”が見えるんだな?」
世界の認識。
生きとし生けるもの、そして建物やその辺に転がっている小石に至るまで、すべて物に「世界がどう認識しているか」という名前が付く。
それが見えると、大概の人物の名前なんかは確実に分かるから、ローブなんてほとんど意味が無くなってしまう。
俺には[ギルディート]と付いている筈だし、オッサンには・・・。
目を細めると[管理人]という認識が付いている事がわかった。
普通は自身の名前が付く筈なんだが、稀にこういう事がある。
仕事上の付き合いしかなく、誰からも名前で呼ばれない場合なんかがそうだし、他にも色々な原因がある。
特に大きい町の衛兵なんかが起こしやすい現象で、仕事着に身を包めば[衛兵]となったりする。
町や通行人など、大多数の人にそう認識され続けると、世界さえも同じように名前ではなく職業を認識するようになってしまうのだ。
もちろん、不特定多数に負けないくらい、周辺住民にしっかり名前を認識されている肉屋のオッサンとかは、ちゃんと名前だったりするし、何かの拍子に職業から名前に切り替わったりもする。
つまり、このオッサンは名前で読んでくれる身内も無く、この寂れた地で、ひっそりと管理人をやってきたという事なんだろう。
うん?待てよ?
となると、オッサンは自分を[管理人]と認識し続けてるって事になる訳だけど・・・?
「君、面白いね。何を考えてるのか手にとるように分かるよ。」
「・・・いや、きっとそのうち良い事があるさ。」
いい年のオッサンだし、天涯孤独は辛いだろうな。
その後、色々あって、簡単な事情をオッサンに説明する羽目になった。
つっても、詳細を語る訳にはいかないかた、ところどころ暈してだけど。
「・・という訳で、俺が遺跡に入ったままって事にして欲しいんだ。」
「オジサンとしては、お客さんの個人情報は一切話したりするつもりはないんだけどなぁ?」
ここで目撃証言が無いのは、正直きつい。
「それに、嘘をつくのはどうかと思うよ?相手にもよるけど、お兄さんとは初対面だしねぇ?」
正直に「ここには寄ったけど、すぐに何処かに行った」と証言されるのも不味い。
どうやら、詳しいことを暈した事が気に食わなかったらしい。
かといって、オッサンに金を握らせて頼むというのも、何か違うような気がした。
別にケチったって訳じゃないんだぜ?
それをやろうとすると、勘でな。嫌な感じというか、なんか不味そうな気がするんだよ。
おっさんの気持ちも分かる。
宿屋のスタンスってやつで「お客さんの情報は渡せない」と言った方が面倒が無くて良い。
俺が凶悪犯だった場合、追っ手に偽りの情報を伝えるのは共犯の扱いになるだろうし。
逆も同じだ。俺が悪者に追われてたら、助けてやりたいって思うのが人の性質だろう。
・・・状況によっては金に流されるのも人の性だとは思うが、このオッサンからは、そういった感じはしないんだよな。
ここらの森はよく間伐されて薮や蔦で視界が悪いという事もなく、少人数しか通らないはずの道も荒れている様子じゃない。
建物も、中を見た訳じゃないし、古くて綺麗とは言えないけど、ちゃんと手入れはされてるんだろう。
金にがめつかったら、こんな場所とっくに放棄してるだろうしな。
俺とは親しい訳でも無いから信用も無いし、それは追っ手にしても同じだ。
どっちかに協力して、協力した相手が悪者だったら後味が悪いだろ。
だから、暗に「お前が何者なのか、状況はどうなっているのか話せ」と言っている訳だ。
この軽い態度からは想像も付かないが、言動に人の良さがにじみ出ている。
だけど、下手に話すと色々と面倒だ。
オッサンが「知り過ぎる」事も不味い気がする。
あくまで第三者として証言してくれるだけでいいんだけど、そう都合良くは行かないか。
生き残るために他人を利用する。そんな“当たり前”の事が、何故かできなくなっている自分に驚く反面、それも悪くないなと苦く笑う。
「なぁ、オッサン。聞くと後に戻れなくなる事ってあるんだぜ?」
「オジサン、後戻りは苦手だけど、頭をからっぽにして無かった事にはできるよ。
それに、聞かないってのは無いね。人間、もともと後ろに進むようにできてないからね。
でも進むなら任せてよ。たとえ火の中水の中、水鉄砲と泥舟くらいは用意してあげるよ?」
それ、助ける気ないだろ?!
凄んで見せた俺に対して、オッサンの態度はどこまでも軽くて、いい加減だった。
ここで綺麗事を並べられても不信感を持つだけだが、これじゃぁ却って不安だよ。
うーん、どうするべきかなぁ?




