ギルディート、妖精の扱いに油断は禁物と気付く(仮)
書き途中です。
さて、宿に付いて部屋に行く。
輸送依頼中は、宿を断られる事も多く、今回は運が良かった。
生態が違うという妖精はともかくとして、ミーアカンクの籠はちゃんと見ていないといけない。
トイレ用の土台を置き、籠を設置すると、ミーアカンクは安心したように匂いを嗅ぎはじめた。
餌も与える。雑食で、果物や木の実、虫なんかを好むんだってさ。
依頼人に渡されたのは木の実だったが、毛艶が良くなるようにとか言う事で、そこそこ良いもの・・それこそ人間が食っても美味いと感じるような木の実を食わせていやがる。
値段にすると、過去の俺よりよっぽど・・・なんだろう、このイラッとくる感じ。
そういえば、餌を高級なものにして育てた家畜というやつが美味いって話を聞いた事があるな。
こいつも、もしかして・・・・・。
いや、今の俺はもっと美味いものを食えてる。平常心だ、平常心。
それよりも、だ。
「お前は何も食べないのか?」
『うん、今は平気ー』
ミーアカンクと妖精を、ドアを開けただけではすぐに見えない位置に置いている。
見られたら騒ぎになる。依頼人よろしく「夜光虫だ」とのたまったところで、「そうか」と見逃してくれたりはしないだろう。
この国における人の括りに入っていない亜人の扱いは、法整備が進んでいるとはいえ、まだまだ追い付いてない。
俺の立ち居地はグレーゾーン。良くて珍獣連れ、悪ければ誘拐犯の扱いを受けるだろう。
「俺は飯を食って来るけど、何か欲しい物は無いのか?穀物とか、フルーツとか・・。あと肉とか・・。」
念のため、肉もあると言ったが、多くの書物での妖精は肉なんぞ食べない。
が、旅人の食事に付き合ったりもするらしいから、何も食わないという事も無いんじゃないだろか?
『この瓶にはトイレが無いからね。大丈夫、僕は低燃費だから。』
低燃費って何だろう?
多分、食べなくても大丈夫と言いたいんだと思うけど・・。
「食っておいて『トイレに行かないと出ちゃう』とか言えば出られるんじゃないのか?」
『それをやって、大変な事になった仲間を見たからね・・・。
しかも、その後は暫く放ったらかし。出口のない瓶の中であれは・・うん、きついかな。』
妖精の目が何も映してない。強いて言うならば深い闇を映していた。
大変な事にって、・・ああ、出ちゃったのか。
そして放置か・・。それって監獄よりきつそうなんだが。
監獄にだってトイレはあるって言うしな。
「まぁ大丈夫ならいいけど、ギリギリになってからじゃなくて早めに言えよ?
こっちだって色々と事情があるんだから、すぐに聞いてやれると思うな。・・事によっては準備もあるだろうしな。」
トイレなら・・逃げられないように紐でも付けたらいいのか?
ともかく、しばらくは心配が要らないらしいコイツの事より、まずは自分の食事だ。
俺は、この宿独自のシステムだとかいう食券を持って、一階の食事スペースへと移動した。
宿の食事は、可も無く不可も無くってやつだ。
・・・リフレが使ってたんだけど、使い方は合ってるよな?
コランダの小麦亭みたいな、素朴なのに手の込んだ美味さがある訳でもなく。
ディアレイの木漏れ日の揺り篭みたいな、閃きと創意工夫を織り込んだ珍しさがある訳でもなく。
ノルタークの大衆食堂みたいな、量がある訳でもない。
そこそこの味の飯が、そこそこの量食える。
ケチって2,000Dより安い宿に行くと、パン屋に並べてあって硬くなったから値引きしたようなパンやら、冒険者から安く買い取ったような謎の肉やら、その辺で毟った雑草じゃないのかって草やら出て来る事があるから、それを思えば天と地だ。
そういう宿に限って、大して値引きもしてない癖に、何かするとすぐに追加料金が発生して、場合によっちゃ2,000Dより高く付くという罠が存在するのでホント怖い。
そういう事の無い、ちゃんとした宿に泊まれるという、何でもない幸福を噛み締めた。
そして、部屋に戻ると瓶が床に落ちていた。
中で、妖精が目を回している。
「お、おい!おい、大丈夫か?!」
『むぅ・・・。頭と耳がいたい・・・。ガンガンするぅ・・・』
おお・・無事、ではないが、ちゃんと生きてるみたいだな。
冷静になってみると、この部屋に誰かが立ち入る訳はない。
もし第三者が妖精を見つけて、ちょっかいを出すとしたら、瓶ごと運んで行くだろう。
つまり。
「お前、脱走するつもりだったな?」
『・・・当たり前じゃなーい?』
確かに、夜光虫として扱われるなら実験や薬の材料だ。
そうでなくとも、夜光虫という名目でコッソリ運ばれている妖精の行き先に良い予感はしないな。
「・・・事と次第によっては協力してやらんでもない。事情を聞かせてもらおうか?」
『ふふふふふふ。聞いちゃう?聞いちゃう???』
こちらに近付くようにハタハタと飛んで見せ、くるりと宙返りをする。
瓶はそんなに広くないというか、かなり小さいというのに器用な事だ。
『本当に聞いちゃうの?・・・後には戻れなくなるよ?』
「じゃぁやめる。」
『えぇ~。そりゃないよー。』
凄んでいる風をみせて、ニヤニヤを抑えきれずにいたので、からかってみた。
瓶の内側をペチペチ叩いているが、微動だに・・いや、音すらしない。
さっきは、よくビンを倒せたな?
そういえば、妖精って悪戯が好きなんだっけか?
コイツの口から出た言葉は、話半分で聞いた方がいいのかもしれない。
今日の誤変換。微動だ煮って。どんな煮付けだよ。




