ギルディート、厄介事に首を突っ込んだと気付く(仮)
書き途中です。
教会は敵地である事に半信半疑だった俺達だが、母さんは確信を持っていた。
新しい院長が、水を飲ませてもらえずに喉が潰れた母さんに向かって、「予定が早まったけど、さっさと死んでもらわないと困るのよね。」と囁いたんだって。
それは・・・恐ろし過ぎるだろう。
なので、敵地でいつまでも話している訳にはいかない。
家族だけしか居ない小部屋だが、別れを告げるのが終われば埋葬の為に、教会の人達が入ってくる。
俺達は、話し合った結果、錯乱した俺が母の死体を持って逃走したという事にするという事で話が付いた。
とにかく、何だかよく分からないことを喚き散らしながら、教会から一目散に逃げろと。
追っ手があるかもしれないので、とにかく撒くつもりで行き先を悟られるなと。
ディアレイの宿で落ち合う、という事になった。
喋っている間に、上の兄から高級そうな回復薬を受け取ってみるみる元気になっていった母さんは、まだ皺だらけではあったが、声に張りが戻って来ていた。
自分で持っていた姿を隠す魔道具を使って隠れて移動するんだそうだ。
俺は、母さんにリフレから預かった万能薬を2つ渡した。
これがいくらになるか分からないが、蘇生薬とかいうヤベェ薬を使ってしまった後だ。
億か兆か知らんけど、もう俺に恐れるものは無い。
いや、ちょっと恐れた結果の2つだったりする。全部渡したら、さすがに返せるものも返せなくなる。
「これは・・・。」
「何があるか分からないから・・・持っていてくれ。」
声が固くなり、震える。
蘇生薬はもう・・伝説級というか、洒落になってないが、これも相当な代物だ。
いくらするか想像も付かない。
だが、これだけは言える。俺なんかが一生働いて返せるような価値の物じゃない、と。
俺の声と表情で、母さんはもちろん、兄達も察したんだろう。
「お前、まさか身を売ったのか?!」
「早まるな・・!!家族で力を合わせれば、きっと何とか・・・・・・・何とか・・。」
何とか、何だよ?!最後まで言ってくれよ!!
「くっ・・・お前の犠牲は忘れない。さぁ、早く行くんだ。」
母さんまで酷くない?!
俺達は、小声で打ち合わせをした後、喧嘩している演技をして・・
「何が冒険者として頑張ってる、だ!ボロボロだったじゃねーか!心配かけやがって!」
「ろくに連絡も付かずに、こんな日にはノコノコ現れやがって!!!」
演技だよな?これ?!
ドタバタと殴りあって・・いや、マジで痛い!
ちょっと!ステータスが上がっても痛みがなくなる訳じゃないんだぞ!!!
「くそ・・、絶対仕返しをしてやるからな!!覚えてろよォ!!!」
俺は捨て台詞を残して、教会から走り去ったんだ。
さて、ここからディアレイに行くには、まず幾つかの町を経由してノルタークに行くだろ。
それから・・・。
活気の無い首都の店は、閉まっている所も多く、「引っ越しました」などの張り紙がしてある店がちらほら。
それでも、品揃えは多少悪くなっていても、やっている店が多くて助かる。
ノルタークも大概だったが、ここもまた酷いな。
これからの事を考えてながら買い物をしていると、変な感じがした。
尾けられている?
俺は、ギルドに入り、依頼を見ながら尾行者を探った。さすがに建物に入っては来ないか。
いい具合に輸送系の依頼が溜まっている。問題は、俺の荷物が目一杯だって事だ。
ギルドのカウンターには、外に声が漏れない魔道具が使われているらしいが、PTメンバーなど、近くに寄ってきた奴には聞こえてしまう為、声を潜める。
「リフレ・・・いや、リーフレッドって名前の奴がリーダーのクランは無いか?」
って聞いたらあった。できたのは・・つい最近かよ。
『夜明けを呼ぶ翼』って・・・スザクの事だよな?!
一瞬、格好いいと思ってしまったけど、コッコ鳥の事だよな?!?
謎の組織でも構成してるのかと思ったが、まぁ・・所属している団体が1つとは限らないしな。
本拠地がノルターク、リーダーがリーフレッド、そしてクラン名がスザク・・じゃなかった、『夜明けを呼ぶ翼』。
間違いなく、あいつのクランである。
特定は、本名を知っている人間以外には難しいだろう。
よく考えられて・・・ないだろうな。あいつ、すごく深く考えているように見えて、何も考えてない事があるからな。
用途は・・・倉庫用っておい。・・・おいおいおい、しかも、加入制限が付いてねーじゃねぇかよ?!
あいつの危機管理能力は大丈夫か?倉庫用なんだよな?!持ち出されたら困るんだよな???
何だあいつ、ゴミでも預けているのか?
加入申請を出して、制限が無いのですぐに受理される。
早速、クラン金庫に入ってるアイテムを見てみた。
結構な金額の金と金塊が入ってた。・・アホかよ?!
・・・あとこの蜜蝋樽って何だ?
とりあえず、今度会ったら、奴には「クラン名とリーダーの名前が言える」程度の制限は付けておけと言っておく事にしよう。
あと、メンバーにも引き出し制限な?!中身を見たら何一つロックが掛かってねーんだもん、びっくりだよ。俺、今すぐ全額持ち出せちゃうよ?
いや、履歴は残るし、犯罪者として捕まる事もあるからやらないけどさ。
ここに預けるのは不安だが、ごまんとあるクランから、このクランを探し出すのは難しいだろう。
ある程度の情報があれば絞る事ができるが、「制限の掛かってない金を預けてるクランに加入をしたい、教えてくれ」と言われて素直に情報を渡すような組織なら、ギルドだって機能しないだろうからな。
・・・だよな?
「ええい、ままよ!」
俺は荷物を軽くして、輸送系の依頼を2つ受けた。
俺の依頼を調べて追ってくるかもしれないが、それは計算づくだ。
適当な依頼で移動して、依頼中に振り切れるなら振り切る。
その先のギルドでも依頼を受けて、偽の手がかりを置き・・・それを3段階くらい掛けて振り切るつもりだ。
まずは、依頼人の下に向かう。
一件目の依頼は、ペットの販売業者だとか言って、珍しくもない小動物だった。
ミーアカンク。こんな物を金を払ってまで欲しがる奴がいるんだから、世の中どうなってるんだか。
これが冒険者に依頼されるのは、ガスカンクがミーアカンクを助けにやって来る事があるからだ。
っつっても、ミーアカンクの生息地帯からは外れてるから、比較的安全な依頼といえる。
問題は2件目だった。
依頼人はローブとマスクで素性を隠していた。
輸送依頼ってのは、だいたい生物などの、クラン金庫に入らない物を運ぶものだ。
っつっても、普通は小物の単体だったりする。
依頼では夜光虫の輸送の筈だったんだけど・・・
「妖精?」
「何を言ってるんだ?これは夜行虫だぞ。ちょっと珍しい外見をしているけどな。
これをノルタークに運んで欲しい。」
ビンの中の夜光虫(?)が、胡乱げな目で俺を見やる。
その羽はほのかに光を纏い、細く白い手足が、軽そうな素材の服から伸び、その髪の毛は、少々癖がありながらも柔らかそうで・・・。
どう見ても虫なんかじゃないよな?ものすごく、きな臭くなってきた。
「クルジネに運ぶって話じゃなかったのか?依頼と違うんだけど。」
「その辺は、事情が変わったんだよ。ほら、依頼表にサインしてやったぞ。」
「おれはクルジネ方面に用があったから受けたんだけど・・・?
いや、ノルタークにも用があるから、断ったりはしないけどさ。」
断ろうとした瞬間、“断ったらヤバイ。”そんな予感がして、曖昧に濁す。
すると、
「ふむ・・・。まぁいい。クルジネに寄ってから、ノルタークに行ってくれ。
何、逃がしさえしなければいいし餌も不要だ。そうそう死ぬもんじゃねぇから大丈夫だ。
期限は8日だったが、延ばしてやろう。12・・いや16日でどうだ?」
と返って来た。
より一層、怪しい。
輸送依頼ってのは、期日の迫った大事な物だから腕の立つ冒険者に頼むもんだ。
間違っても期限を延ばしたりなんかしない。それくらいなら自分で運べばいいんだ。
相手は生き物だから、日が延びるほどにリスクが高まる。
冒険者に預けているうちに死んでしまいました、じゃ話にならないだろ?
普通は、ここで向こうから断りを入れて来るか、ごねる筈だ。
だが、俺は馬鹿な振りをして誤魔化す。
実際、それがどういう事を指すのかまでは分からないしな。
「それで減額されるんだろ?俺が欲しいのは期限じゃなくて金なんだよ。」
「金もちゃんとくれてやるさ。届きさえすればいいんだ、届きさえすればな。
何なら前払いでどうだ?・・と言いたいところだが、その虫が届かない事には金を出せないんだよな。」
誤魔化せた。
相手の口調からは、俺を侮っている様子が感じられる。
俺は、この注意事項と夜光虫の届け先である住所を受け取り、とりあえずクルジネへと向かう事にしたんだ。




