ギルディート、振り回された数日を思う(仮)
書き途中です。
※注:シリアス注・・・あれ???
その男には名前が無かった。
少なくとも、その時にはそう見えた。
[???]
名前の決まっていないものに付く文字だ。
世界の認識には法則性があって、「名前が付いている事が一般的な種族」は、名前が決まるまで[???]なんだ。
世界の認識ってのは、個人の認識の集合体みたいなものだって、元気な頃に母さんが言ってた。
もっと難しい話をされたんだが、覚えちゃいない。
で、個人の認識には本人のものも含む訳で、本人が「俺は○○だ」と認識していれば、いずれ世界に認識されて[○○]になる筈なんだ。
つまり、この男には名前が無く、自分の名前を認識していないって事になる。
人と関われば渾名の1つも付くと思うんだけど、名前の決まっていない赤ん坊以外の[???]って初めて見たんだけど?
こいつの名前が???なのか?・・・んな訳ないだろう。となると、記憶喪失か・・・?
世の中には名前を奪うモンスターがいるというし、ともかく困っているに違いない。
「なんだオメーはよゥ?見かけねぇ顔だなァ!!」
舐められても困るし、冒険者相手ならこれくらいが丁度いい。
最近、俺の中で流行っているガノッサスの真似をしてみた。・・・・見事なスルー。
その後も話し掛けようと思ったが、ギルドで仕事の話をしてる時に割ってはいるのは駄目だと思って待った。
聞いてると、教会の奴らみたいな話し方をしやがる。体が痒い。・・比喩ってやつだ。
むず痒くなるような喋り方をする奴だというのが第一印象。
そして、高難易度ダンジョンの暗黒洞窟からのドロップ品を持って来て、ものすごい額で売り払っていた。
・・・困ってねぇじゃん!!!ってかその金、端数だけでもくれねぇ???
とか言える筈も無く、俺はひたすら待った。
困ってたら助けてやろうかと思ってたけど、目的が変わったんだ。
こいつに傭兵団に入ってもらって、助けてもらおう、と。まぁ・・やる事は一緒だけどな。
暗黒洞窟のドロップ品を持ってるって事は、這う這うの体で逃げ帰ったとしても、それなりに腕が立つ・・いや、かなりの腕という事になるのかもしれない。
10人を超える集団で入って、出てくるのは片手で数えられる程度・・全滅しても不思議ではない場所だからな。
俺も行った事はないけど。
そう思って声を掛けてみたが、反応するキーワードがあるみたいだけど方向性が分からないし、何を言っても手ごたえが無い。
なんとか勝負に持ち込んだが・・・。内容が「かけっこ」ってガキかよ!
だいたい、俺は長距離移動系の依頼を受けるくらい、足には自信があるんだぜ。
俺に勝てる訳・・・装備は立派だな?でも足は・・ はっや!!!何あいつ、はっや!!!!!
えっ、ちょっと待て、俺も本気出す・・・ ってあいつも本気出したァ?!?
あれ、人間の出せる速度なのか?おかしいだろ?!倍速とか言うレベルじゃないぞ?
何者だアイツ。ってか、むしろ何だあれ。
しばらく全力で走ったが、追い付くどころかあっと言う間に見えなくなった。
しかし、しかしだ!!
奴はノルタークにいるのだから、探せば会えるだろう。
ガノッサス傭兵団の本拠地はノルターク。ここに住んで長い俺の情報網を舐めるなよ?!
一晩で見つけ出して、もう一度勝負を挑んでやるぜ!って思ったら、結局、あいつは町の手前で道を逸れてどこかへ行ってしまった事が判明した。
目撃情報が無い訳だ。情報収集だけで丸一日潰したよ。
あの野郎・・・・・。これで俺が諦めると思ってるのか?!それが大間違いだって教えてやるぜ。
完全に火が付いた俺はガノッサスに事情を話した。アーディを貸してもらおうと思ったんだ。
が、ガノッサスは「最近、忙しくて構ってやれなかったからな」と、自ら俺と来てくれる事になった。
最近の冷たい態度が嘘みたいで、ものすごく嬉しかった。
奴はディアレイに戻ったんじゃないかと思って調べたが、空振り。
目撃情報は、俺がディアレイに居た日のものしか無かった。
が、変な客という事で印象に残っていたらしく、ちょっと調べれば出るわ出るわ。
ってかコイツ、どんだけ買い物してんだよ!?
まさかのコランダか・・?と思ったが、さすがにガノッサスを連れて行く訳には・・と悩む。
が、付き合ってくれるとの事なので、向かってみた。
他にそこそこの規模の町っつったら候補はあったものの、離れ過ぎているし、逆方向だ。
これから行くとなると数日を要するし、いつまでもガノッサスを連れまわすのはまずい。
ガノッサスは傭兵団のリーダーだからな。
コランダにいなかったら諦めよう。・・・諦めるのか。俺の根性を見せてやるつもりだったんだけどな。
でも、さすがにコランダって事は・・・。何も無い町だし、拠点にするには不便すぎる。
ちょっと情報収集して、ガノッサスに謝って帰るところまでイメージしつつ、コランダに向かった。
思えば、コランダに来るのは始めてである。わざわざ行く必要のある場所じゃないからな。
そして、のどかな風景を横目に情報収集。
居 や が っ た 。
しかも、結構な有名人だった。
英雄だなんだって話やら、町人の前で裸になって寝込んでいるという話やら、訳の分からない噂で溢れていたが、巨大な剣を持つ、ボーっとした兄ちゃんっつったら誰にでも通じた。
「リフレなら[小麦亭]に泊まっているよ。」
しかも、名前付いてんじゃねーか?!付いたのか?この短時間に???
あーでも確かにリフレって顔してるわ。よく分かんねーけど!
ともかく。
「勝負だ!!」
正面から駆け出す俺の襟首を掴んだのはガノッサスだった。
「アホ、このまま行けば十中八九逃げられるぞ。」
ガノッサスの作戦はこうだ。
おそらくリフレは逃げ出す。だから、仲間が居ないと見せかける。
コランダの主な出入り口は2つある。話し掛けて「ノルターク」もしくは「ディアレイ」を意識させ、逆側に逃げるよう誘導する。
そして、町の出入り口でガノッサスが待ち構え、捕獲するというものだ。
なるほど・・確かにあの速度で逃げられると厄介だ。
逃げる前提で作戦を組んだ方がいいかもしれない。
しかし、実際あった事も無い奴の行動を、こうまで読めるなんて、さすがだな。
読み通り、リフレは逃げ出し、ガノッサスの強力なタックルを食らって、倒れ・・・倒れねーのかよ?!
ガノッサスがギリギリと締め付けているが、表情や態度を見た感じ、余裕そうだった。
これは強引に振り払われた場合、ガノッサスでも厳しいって事か?
だが、話し掛けて気を引いてくれている今がチャンスだ。
「っしゃーァ!捕まえたぞ!」
初めての邂逅からようやく、俺はリフレを捕まえる事ができたんだ。




