更に連日、引篭もる
宿の部屋というプライドスペースを得て、俺は検証に力を入れていた。
アイテムを出し、手に持った状態でCCすると、CC後のキャラの手にそのアイテムがあることがわかった。
当たり前といえば当たり前なのかもしれないが、キャラのアイテムボックスに収納されてしまうか、アイテムを床に落とす可能性も考えていたので、それを思うと便利と言える。
翌日は晴れたので、購入した食器や水タンクを洗い、水タンクに水をいっぱいまで入れた。
深めの鉄鍋に購入した調理を入れてもらった。
調理道具としてではなく、こういった使い方が出来ると気付いていれば・・・。
もうちょっと買ってきても良かったかもしれない。
雨の日。その翌日。そして翌々日。
CCのついでに、レベルが低くて小さなペットをこっそり召喚して餌を与えている。
とはいえ、餌になりそうなアイテムがほとんど無い。
空腹状態の確認程度だ。こいつも空腹・・・。すまない。
屋内でできる検証や、必要なアイテム受け渡しは思い付く限り済ませた。
特にメインキャラのアイテムボックス軽量化は徹底的に行う。売りたいアイテムを1つにまとめてサブ鯖の大剣キャラに渡した。
外に出るのは井戸に水を汲みにいく時ぐらいだ。
人の気配は徹底的に避けた。
宿の女将さんだけは・・宿代払わないといけないし。飯も作ってもらってる。
昼間、宿にいないので気楽である。
トントントン。
「リフレー。遺跡にいくわよ。」
ノックと共に、部屋に訪ねて来たのはマリッサだ。
噂とか聞いていないんだろうか。
そういえば、スコップとか買った方が良かったかな。忘れていた。
遺跡には興味があるが、ダンジョンがどうなっているのかを一目見たいだけだったりする。
レベル帯が50~70だったかな。そのレベル帯だと、持てる荷物の枠が少ないので50までは上げてくのが定石の倉庫キャラぐらいしか、該当するレベルのキャラはいない。
一度掘り起こされた遺跡が何故また埋もれているのかは知らないが、自力で掘り出してまで入りたいかと言うと微妙だ。
そんな気力も無いし、観光に行く気分でもない。
「・・・・・。」
・・・・・・・・。
トントン。トントントン。
ノック音が響く。
自分を呼びに来てくれたマリッサに何らかの返事をすべきか否か。
放置も悪い気がするが、“あの件”に関して触れられるのは嫌だ。
「結界の誤作動なんて事故なのよ。気にする事じゃないわ。」
うん?・・・結界の誤作動?何の話だ?
「kwsk。」
「え?」
思わずボソッと口を出てしまったが、聞こえたらしい。
居留守が使えなくなってしまった。
いや、母親から俺がいることを聞いていたかもしれないから、元々使えてなかったのかもしれないが。
「悪い。その件についてkwsk教えてくれ。」
俺が尋ねると、マリッサが説明をしてくれる。
「武装解除の結界で、装備が強制的に解除される仕組みの事よ。
この辺は大きな町じゃないから、1つ前の基準の結界が使われているわ。
たかが服でも、装備と見なされれば強制的に解除されたことは稀にあったらしいの。」
そんな解釈をされたらしい。
俺には好都合だが、結界にとっては風評被害である。
正さないといけないのだろうが、俺の精神衛生上、正したくない。
CCについては、考えるまでも無く常識外だろうから隠しておきたいしな。
「そうなのか。」
しかし、稀にということは頻繁にある事でもないだろうし。
マリッサは慮って隠しているのだと思うが、アウターはともかく、下着の装備まで解除されてしまった、なんて事例は無いのだろうと想像がつく。
ん?だとしたら、俺は常にノーパンだと思われてるんじゃなかろうか?それは困る。
しかし、下着を穿いていない人、と思われるのは避けたいが、「俺は下着を穿いてます!」とか触れ回るわけにもいかない。
そんなアグレッシブさがあるなら宿に引篭もったりしないし、そもそもそんな奴は変態である。裸ぐらいでめげたりしなさそうだ。
それはさておき、一応、過去に似たような事例があるというのなら、少しは気分が軽くなるというものだ。
「貴方の装備が異常なのは、みんな知ってる事なのよ。」
・・・・・。
その裏に「全裸事件もみんな知ってるけど。」という真意も見え隠れしているが。
あと「異常」って何だ。異常者みたいで嫌なんだが(被害妄想)。
気にしない!気にしないとしよう!
いや、俺めっちゃ引きずるタイプだけどな!
一旦、切り替えたと思ったら、数日おきにぶり返すから!
よし、切り替えた!切り替えたぞ。遺跡に行こう!
あ、ちょっと待って。服が無い。下着の替えは余裕があるけど、洗濯物が溜ってるんだ。
こんな事なら、使い捨てるつもりで服を買ってくれば良かった。
そういえば、みんな洗濯物ってどうしてるんだ?やっぱり川か?
それをマリッサに尋ねようとした時だった。
「リィ~フ~レ~く~ん。
ここに居ると聞いたぞ、コランダの町の英雄(笑)リフレ君。
俺と模擬戦をしろォ~~~~!!!」
どこかで聞いた覚えのある声がした。
そのキャラを作ったような喋り方といい、間違いない。
なんでこんなところに・・・?
「あなた、何者なの?リフレはこれから私と遺跡に行くんだけど。」
「あァ?!デートかよ?いいご身分だなァ!」
何やらマリッサと揉めだす。
双剣キャラの性格的な問題もあり、マリッサに危害が加えられたらとマズイと思い、そわそわしていたが、口調のわりに常識的な奴のようだ。
自己紹介・・・どうしてこの町に来たのかを述べ、自分が何者なのかを説明している。
時折、変な煽り文句が入るのを除けば、特に問題はなさそうに思える。
とりあえず、俺はそっとドアを離れ、窓から外に降り立った。
ちゃんと出入り口の無い窓を選んだし、誰か通らないようにチェックもしている。安全第一。
うん、2階からだと言うのに、割となんでもなく降りられたわ。
撒こう。そう決めて、東の門に一歩踏み出す。
と、同時に宿の出入り口のドアが開いた。
双剣キャラが鋭い眼光を宿してこちらを見ている。
俺、音たてたか?
ちゃんと気を使って窓を開けたし、そっと出てきたぞ?
俺は、背中にうっすらと冷たい汗をかきながら、真っ直ぐに門へと向かうのであった。