捕り物(仮)
書き途中です。
悲鳴が上がったのは、俺が炎に包まれた時だ。
俺はほとんど聞こえていなかったが、周囲の人は逃げ出し、遠巻きに物陰に隠れるようにして、割と多くの野次馬達が残っている。
爺さんはともかくとして、近くに残っているマリッサやフェンでさえ、大きく距離を取っていた。
気持ちは分かるけど、何この疎外感。
不死鳥の羽。
効果は、炎のエフェクトと共に、所持しているキャラクターをHP・MPが半分の状態で蘇生させる便利アイテムだ。
実際には、消えた命の火を無理やり点火させるような、心身ともに非常にきついアイテムであった。
通りでHP・MPが半分になる訳だと納得である。
呪術師の爺さんが謎のアイテムを取り出したので、咄嗟に蹴り飛ばすと、即座にマリッサが回収した。ナイスアシストである。
爺さんはナイフを取り出して襲い掛かってくる。なんだ、こいつ速いぞ。
このナイフ、物騒な黒いガスを纏っていて、ヤバイ匂いしかしない。
蹴り飛ばして誰かに当たれば大惨事を招きそうだ。
なので腕を掴む。
「なんか出た!」
ふざけている訳じゃない。本当に何か出たんだ。この黒ガス、一体何でできてるんだ??
アクセサリーか何か、身に付けられるタイプの魔道具を所持していると思われる。
布のように見えたが、さっきの手のような物騒な気配を感じた。
迂闊に手を出したらどうなる事やら。
正直、一杯一杯である。
ちなみに、不死鳥の羽は、PKKキャラが60枚程持っていたので、各キャラに分配してある。
と言うと、大して高価じゃなさそうに思えるだろうが、俺がこれだけ持っているのはイベントで手に入れたからだ。
イベント後の値下げや投げ捨てもあり、そこそこの数を手に入れることができた訳だが、正攻法で手に入れるのは少し大変だったりする。
暗黒洞窟を進んだ先にあるダンジョン内に生息する、不死鳥を倒すと、低確率でドロップするアイテムなのだ。
とても便利に見えるが、HP・MP共に半分、補助魔法の効果も切れる為、高難易度の場所で死亡すると、いくら持っていてもあっという間に使い切ってしまう事になる。
それに、ソロでない限りは味方に回復してもらえばいいので、需要もそんなに無い。
それに、多少の余裕があるとはいえ、ほいほいと消費していいものではない。
補助魔法の込められている超・聖水を一口飲み、体が光に包まれる。
もう少し飲みたかったが、これがギリギリだ。そこまで余裕は無い。
MPを回復させるスキルは存在しないので、自然回復に任せる事になるが、これでHPはある程度回復した上に時間回復も付く。
呪いが付いていたら効果は消えるし、敵からの魔法攻撃・物理攻撃は共に効果が半減する。
とはいえ、躱し続けるだけでは追い詰める事はできない。
さて、どうするか。
困っていると、衛兵が集まってきた。
逃げ出した誰かが呼んだらしい。
「ちぃっ!」
爺さんが逃げようとする。
「逃がすか!」
とは言うものの、この爺さんを止めようとすれば、あの黒いガスが現れる。
だが、ヘイトの関係か標的はマリッサになったが、さすがに命を狙われたとあっては穏便に済ましてやるつもりは無い。
あのガスが現れるまで、数瞬の時間が掛かる。ならば、その前に距離を取れば良いのだろう。
難しいのは加減だが、ステータスも高そうだし、何とかなるだろう。
「食らえ!」
「へぎょっ!?」
・・・・・あら?
顔面に拳がクリティカルヒットした爺さんは、枯れ葉のように宙を舞った。
レベルが高い訳じゃなく、AGI特化型だったのね・・・。そういえば、3桁はかなり珍しいって言ってたな。
心配した黒いガスは、ひらひらと虚しくその背にへばり付いて、一緒に吹き飛んで行ったのだった。
そして。
俺は衛兵のオッサン達に囲まれたのである。
「いや、襲われたのは俺達ですけど?!」
「確かにそういう目撃情報だったが、俺達が見たのは、哀れな老人が虐待されている所だったからな。
連れの嬢ちゃんが挑発をしていたという話もある。ちょっと一緒に来てもらおうか。
なに、話を聞かせてもらうだけだから、な。」
言われてみるとその通りである。
身に付けていた魔道具が壊れたのか、それとも発動に条件があるのか、気絶した爺さんから黒いガスは出て来なかった。
爺さんも武器を振り回していたのは事実なので一緒に連行されたが、心なしか俺に対する扱いよりもソフトである。
マリッサなんてエスコートされている感じだというのに、俺は左右にがっちり、背後にも武器こそ抜いていないが、明らかに戦闘要員といった風情の男が警戒している。
この待遇の差は一体何なんだろうね!?
後から聞いた話だが、事情聴取中にギルドの監視員が状況を説明して、俺達の無実が証明されたらしい。
その日、俺達があっちにウロウロ、こっちにウロウロしたおかげで、爺さん以外の不審者・・俺を監視する者達が大量に釣れ、捕縛及び監視の対象になったそうだ。
爺さんが持っていたのは即死の魔道具。
こちらは遺跡産と思われる。つまり、過去に失われた技術でできた代物なのではないかと。
複数存在する可能性は薄い。
仮に生産できたしてもコストが高く付く上にデリケートな物なので、壊れているし量産も難しいそうだ。
いくつかあったとしても、おそらく、それほどの数は現存していないという話であった。
あんな物が数を揃えられた日には、蘇生薬がいくつあっても足りないので、本当にそうなら安心である。
他に、若さを吸い取る魔道具、受けた攻撃を返す魔道具など、多数の怪しい品物を押収。
爺さんは、呪病に何らかの関わりがあるとの疑いで拘束を受けている。
まぁ、そんな新事実など、その時の俺が知る由もなく・・。
「火達磨になった男がいるという話だったが?」
「確かに俺の事だけど!あれは何でもないんです!」
ややこしい事になっていた。
街中で攻撃魔法が使えないという事はアイテムという事になるのだが、見た目が派手過ぎた。
爆発物を持ち歩く、テロリストのような扱いである。
正直、不死鳥の羽の情報は隠しておきたいと思ったのだ。
数が多くないし、物が物だけに、狙われる可能性がある。
それに「あいつは無茶な事をさせても生き返る」なんて思われたら、変な仕事が回って来かねない。
結局、危険な攻撃を躱す目くらましという事にしておいた。
「もうちょっと安全な目くらましは無いのかね?!」
「あれくらいじゃないと、敵が怯まないんですよ。大丈夫です、安全です。燃え移ったりしませんので。」
別に、怯ませるのが目的ではない。ただの仕様である。
しかしエフェクトと言っても通じないし、本当に大変だった。
結局、これで半日が潰れてしまった。
マリッサは俺より早くに解放されたらしく、フェンを抱えて待っていてくれていた。
「すまんな。巻き込んでしまった上に待たせて。」
「リフレとのレベル差や、出自の分からない怪しさから、多少の危険は覚悟をしていたわ。
想定内・・という訳ではないけれど、構わないのよ。それよりも、庇ってくれてありがと。」
思ったよりも取り乱していない様子で良かった。
それよりも、いつもより距離感が遠い感じがするんだが・・。
近付いてみるも、付かず離れずで一定の距離を保たれる。
「・・・また急に燃え出したりしないわよね?」
ちょっと酷くないですかね?!




