飯屋を求めて(仮)
RPGの勇者が如く、マリッサを後ろに引き連れて町を進む。
まぁ勇者は鶏を頭に乗せたり、子犬を腕に抱えたりはしていないのだろうけれども。
ちなみに、預かり所で金を払ってトイレの躾をお願いしたせいか、それともスザクが先頭に立ってトイレを使用したせいか、トイレの理解は早かった。
俺が抱えて歩いているのは、人に踏まれたり逸れたりしないように、だ。
それに、理解は進んでいるだろうが、それ以外の場所で粗相をしないとも限らないしな。
この町のトイレは有料なせいか、時々異臭のする場所があったりする。
金の無い輩が勝手に無料トイレ化させている、不潔な場所である。
そんな所で、トイレを学習されては困るのだ。
俺は、大いに目立っていた。
頭にはデカイ鶏を乗せ、抱えている子犬も中型犬程の大きさ。
以前に、ストリートパフォーマンスの真似事をしたせいで、俺を大道芸人だと勘違いしている人もおり、面白がってマリッサの後ろを更に追尾する子供達なんかもいたりする。
店に入る度に、その人ごみはリセットされるが、「なんだ、大道芸をしに来たんじゃないのか」という空気はやめていただきたい。
俺は大道芸人ではないので。
マリッサは、俺が誰かと接触するのを期待しつつ、休みの暇潰しでもしているのだろう。
これで隣を歩けばデートの気分でも味わえそうなものだが・・残念ながら対象年齢ではないのと、俺達の間にそんな空気は無い。
「そろそろ飯の時間だな。」
「できれば、そんなに高くない所がいいわ。」
とまぁ、こんな感じである。
俺は、別に男のプライドだとかそういう変な拘りで奢ろうとは思わないし、マリッサも「ここは男が奢るところでしょ」とか言い出す気配も無い。
何を言ってるのか?と思うだろう?たまにいるんだよ、そういう奴。
それほど親しくも無いのに、飯を食う時に男がいたら、女性は無料だと思い込む、不思議な価値観の持ち主ってのは。
そして、一定数「ここは男が出すところだろ」と言う男もいるので、常識の食い違いというやつなのかもしれないが、飯を食う度に支払いをしていたらこっちの身が持たない。
事実、そういう無駄な男気を見せる奴に限って、平気で友人に借金の申し込みをしたりする。
あと、ローンが好きだったりもする。
ローンは便利だと思うが、欲しい物があったら金を貯めて買った方がお得である。一般常識だよな?
しかし、無駄な男気のせいで、貯める事ができないのだ。
「もうちょっと考えて使え?・・な?」俺は何度もそう言ったんだが・・。
ぶっちゃけ、俺は一括支払いの方が男気があって格好いいと思う。
それに、どうせ奢るなら親しい人に奢りたい。他人みたいな奴に奢って散在とか、馬鹿げてると思うんだけどなぁ・・。
まぁ、その話はいい。
マリッサが飯を奢られる立場に甘んじる気が無いって話だったよな。
こっちの世界では危険はあるものの、金策は簡単だし、金に余裕もある。
それにマリッサには世話になっているから、一食や二食、奢っても構わないのだが、何も無い時に奢られても困るだろうから、折を見てだな。
「つっても、適当な店に入るか、最初にギルディートに教えてもらった店くらいしか思い付かないんだが・・。」
「ああ、あそこね。悪くはないのよ。」
ハズレを引かない程度に新規開拓したかったらしいマリッサの目論見は外れるが、あそこならメニューも豊富だし、味もいい。
価格帯は幅広く、安く済ませようと思えばそれが可能だし、ちょっとした贅沢だってできる。
まぁ、そう何度も足を運んでいる訳ではないので、メニューを見た感想と、実際に食べた時に感じた雰囲気での話だ。
前に酒がどうのって話していた気がしたが、何だったっけな・・・?
そうそう、この町限定か、異世界だからか不明だが、水の持ち込みは許容されてるみたいだ。
マリッサは自分で“水”を用意できるので、何なら喫茶店や屋台でも問題無い。
異世界とくれば屋台だろ!!と思い、探した事もあるのだが、屋台の殆どは別の町に行ってしまったとの事。
湖の集落、ゲームで言うところのセーフティゾーンになら屋台が残っているかもしれないが、避けた方が良いという話だ。
腐りかけの材料を使っている可能性とか、ぼったくりに遭う可能性とか、屋台の外側しか残っておらず、営業してないとか・・諸々の事情で、だ。
「マリッサはお勧めの店は無いのか?」
逆に聞いてみる。
「・・・お勧めの酒場ならいくつかあるわ。」
それは遠慮しておく。
「だったらいい店があるぜ!」
なんか通行人の少年が親しげに話しかけてきたので、軽く挨拶を交わす。
うん?こいつ、見覚えがあるぞ。えーーっと、確か初日に絡んで来た・・・・・。
[エディ]・・そうか、そんな名前だったな。トマスの方は覚えてたんだけどな。
マリッサがセット装備を求めて、店にケチを付けて回った時に物申してきた、ドワーフの少年(?)である。
年齢を知らないから、見た目の話な。
「私達が探しているのは武器屋じゃないのよ?」
マリッサが窘めるように言う。
こういうところ、冗談なのか、本気なのか分からないんだよな。
二人の打ち解けた様子を見るに、あれからも何度か会ったのだろう。
スイバ-シリーズの開発にあたって絡みがあったとか、そういう感じなのかもしれない。
「だいたいの流れは聞いてたから知ってるわ!!飯屋だろ。
安くて美味い店を知ってるんだ。量も普通にあるぞ。」
「――だと言うのだけど、どうするのかしら?」
普通に俺に振ってきた。
そりゃ地元民のお勧めする店だ。悪意が無いなら外れって事は無いだろう。
観光地へ行ったら、“観光客にお勧め”の店の他に、よく行くお店ってのがあるかと聞くといい。
そういう店は、外観が悪かったり、主人が無愛想だったりと、お客様向けではなかったりするかもしれない。
最初に答えるには、「人様に紹介するのは・・」と些か抵抗がある事も少なくないのだが、「観光客にお勧め」の店を聞いた後だと、ついでとばかりに教えてくれる場合がある。
もし教えてくれたらお勧めメニューを聞いて足を運ぶべきだ。絶対に美味い。
「ぜひ案内してくれ。」
エディはニカッと悪ガキのような笑みを浮かべ、「こっちだ」と鍛冶屋の多い通りへと連れて行く。
こんな場所で大丈夫か・・・?そんな路地に入って行く。
不安半分、期待半分。俺達はエディお勧めの店へと突き進むのであった。




