蜂蜜を樽に
コランダに戻ると、広場に樽が並んでいた。
また何か催し物があったらしく、後片付けが始まっている。
「おお?リフレじゃないか!遅かったな。ほとんど片付けてしまったぞ。」
このオッサンは飲んだくれの人じゃないか。外で遭遇するとは・・明日は雨かもしらんね。
何の事かと尋ねたら、昨日持ち帰った蜂蜜を樽に詰めていたらしい。
俺のアイテムボックスに入っている分も詰める予定でいたのだが、全て詰め終わっても俺が戻らないので片付けを始めていたようだ。
周辺は、作業が終わったせいか、特に甘い匂いがするというわけではない。
作業が終わってしばらく経ったのか。そういえば、マリッサ達が作業をしてた時も匂いがしなかったな。
蝋燭みたいに火を点けたり、熱を加えないと香らないものなのかもしれない。
「ものすごい勢いで街道を抜けていったという話じゃったから、もう戻ってこないのかと思ったわぃ。」
マリッサの爺さんだ。
酒の分は確保できてるんだろうな?
「まさか。宿も取ってますし、・・あ、今日の分はまだ払ってなかった。
東の遺跡も見に行ってないので、しばらくはこの町にお世話になるつもりです。」
あ、作業の手が止まってる。邪魔したかな?
撤収気味だった広場に人が集まってくる。
主に自警団と主婦っぽい面々だ。子供達もちらほらと。
「見ろ。リフレの為に、面白いものを作ったんだ。受け取ってくれぃ。」
そう言って隊長さんが取り出したのは・・・黄色っぽいプラスチック?で出来た樽だった。
サイズは小さめ。
[蜜の樽]
いや・・素材が知りたいんだが。
箍と栓の部分は植物系素材に見えるが、それ以外がプラスチックに見える。
これは一体・・・。
「使い込んだ酒樽ばかりだったから、蜜蝋を加工したのさ。これなら、味が変わらないからねぇ。」
おっ、魔道具屋のおばあさん。
もしかして、わりと若い?腰も曲がってないんだが。
しかし、プラスチックじゃなかったのか。ちょっと残念、かな?
「ま、温かい場所に置くと溶けるから、それだけ注意だけどねぇ。」
溶けるのかよ!怖いな。
くれるというので受け取っておく。
そしたら次々と人がやってきて、礼を言ったり挨拶をしたりしながら、1人1つづつ蜜蝋の樽を渡してきた。
どこから出した!ってアイテムボックスか。
いや、そんな風に渡されると断れないじゃないか。
「残りは酒樽に入ってる。巣を触るのも嫌ってんだから、詰め替えてあった方が便利だろう?
こっちが新しい樽。こっちは使った事がある樽、こっちの方は使い込んだ樽だな。
一応、しっかり洗って乾燥の魔道具で乾かしてある。」
乾燥の魔道具?!何それ、欲しい!
この人は・・[アスタ]さん。多分、自警団の人かな。
ってか、これもくれるの??多過ぎない?
いや、この作業をしてくれただけで助かるから、いくつか持って行ってよ、っつったら。
俺の今持ってる蜂蜜の中から分けてもらうって。
じゃぁ、ありがたくもらっておこう。
みんな、今日一日、俺のために作業をしてくれていたらしい。
知らなかった。普通に出かけてしまった。すまない。ありがとう。
で、残ってる古びた樽に蜂蜜を入れようとしてるけど、そんな樽で大丈夫か?
俺が戻ってきたので、片付け始めていた道具やら樽やらがまた出てきた。
残りの蜂の巣を出せって。OKOK。
アイテムボックスの中から・・・・・・。
あ、このキャラ、サブだった。
CC:リーフレッド
「ファッ!?」
「?!」
「「っ!?!」」
「!?!?!?」
涼しい風が俺の股間を通り抜けた。
・・・・・俺は、全裸だった。
一瞬、頭が真っ白になり、まず、“隠せ!”それが頭を占める。
とっさに体勢を変え、うずくまるようにそれを隠した。
そしてフリーズしかけた思考が戻った瞬間、再び混乱する!
まずは対処だ。考えてる場合じゃねぇ!!
えっとCC!
CC:リーフレッド!
違う!変わってねぇ!
CC:リーフレッド(サブ)!!!
・・・・・。
服を身に纏ったのを確かめる。うん、何も問題ないな。
ほっと胸と撫で下ろしたのも束の間、凄まじい羞恥心が体中を駆け巡る。
人が羞恥で死ぬことがあるとしたら、俺は死んでいただろう。
ちょっと顔を上げると、みんな、こっちを見て固まっている。
「ぅあああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
俺は、手で顔を覆い、全力で逃げ去った。
思考停止の合間に、思い当たる事があった。
昨晩、体を洗う為に脱いだじゃんか?
今まで着てた服は汗っぽいし、着るの嫌だからって買い物する事にしたじゃんか?
清潔な服を身につけたキャラにCCしたじゃんか?
どうして忘れちゃうんだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
俺の馬鹿ぁぁぁあああああ!!!!!
宿は、ものすごく甘い匂い包まれていた。
テーブルと椅子が隅に避けられていたので、蜜蝋の樽の作業現場だったのだと思われる。
普通なら、心温まる場面なのだろうけれども、今は心に痛い。
「うわぁあああああ・・・・!!!!」
俺は宿の部屋で悶えていた。
地図がそのまま置いてあったので、使っていいという事だろう。
しばらくして、女将さんが来たので料金を払った。
これを忘れたら客じゃないからね。
それ以降、全力で引き篭もった。
明日から、どういう顔をして外に出ればいいって言うんだ・・・。
とりあえず、メインに服を着せておこう。
もう絶対に裸でCCしない。絶対にだ。
俺は固く心に誓った。
ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....(夜なので消音モードでお送りしています)。
涙が出てきた。
・・・・・家へ(逃げ)帰りたい。
本当に。どうしてこうなってしまったんだか。