カクシカ(仮)
書き途中です。
しばらく進むと、ティティが顔をしかめて振り返った。
「警戒。濃い、血の匂い。・・何かいるのかも。ちょっと時間が経っていて、臭い。」
腐敗というほどでもないが、異臭がするという。
しばらくすると、たしかに嫌な匂いが漂ってきた。
なんだろう、翌日の刺身パックの香りとはちょっと違うが、それに近しい・・・・――。
「何だ、これは・・・。」
「酷い。」
「・・・一体、ここで何があったんだ?」
そこは・・・ナイトメアと戦った跡地だった。
そこら中に時間が経って茶色く変色した血液が飛び散り、蝿のような昆虫が寄って来ている。
俺のスキルを食らった木々が、まるで爆散したかのように残骸を晒している。
血の匂いに誘われてやって来たのか、それまで遭遇しなかったベアが3体で喧嘩をしていたので、仲良く俺達の経験値になってもらった。
それにしても、嫌な匂いだ。我慢できない程ではないが、すでに腐り始めてるのか?早すぎね??
てか、都合よく土に還ったり、浸み込んで無かったことにはならないんですね。そうですよね。
時間が無かったので、そのままにして町に戻ったけど、やっぱり後処理をした方が良かったか。
「ギルドに報告に戻った方がいいだろう。」
「暗黒洞窟に行ってからでも遅くはないんじゃないかしら?」
「この光景を生み出した元凶と鉢合わせしたらどうするんだよ?!」
ヤバイ、なんか揉めてる。
確かに何かものすごい虐殺系モンスターが通った後みたいに見えなくもないけど!
ギルドに報告する必要ないから!
あと元凶には既に鉢合わせしてるよ!
深刻にならないで!えーっと、どう切り出したもんかな・・・。
「・・・朝、嗅いだ匂いと同じ、獣の匂いがする。」
「う?」
ティティさんが俺をクンカクンカしてくる。
伸長差もあり、俺の胸から腹にかけてをめちゃくちゃ嗅いでる。
せめて、背面に回ってくれませんかね?ちょっと、微妙に絵面がヤバイと思うんだが、どうだろうか?
俺が両手を挙げて固まっていると、その状況に気付いたローグリアムがティティを引き離してくれた。
そして、少し考えると、それはもう穏やかな笑顔で言った。
「・・昨日の夜から今朝にかけて、どこで何をしていたか教えてくれるね?」
それは、まるで取調室にいる熟練の刑事さんのようだった。
・・すべて話すのでカツ丼ください。
「・・・・・。」
「――・・という訳で、急いでノルタークに戻った訳だ。それで今に至る、と。」
斯々然々、というやつである。
ざっくり話したが、一応は黙って聞いてくれた。
途中から呆れたような視線になっていったが、別に変な話はしてないつもりだ。
ちなみに見せられた幻覚についてはここでは触れていない。
「ははは、一匹でも悪夢と呼ばれるダークホースを群れで討伐、か。
冗談なら笑えないが、現実となると笑えてくるな。ははははは。」
ははは、って乾季のサバンナ並みに乾いた笑いだけどな。
大袈裟だな。悪夢はナイトメア一匹だけだろ?
ダークホースの持ってるスキルは、恐怖の状態異常を与えるだけのものの筈だ。
随分と誇張されているみたいだな。
「幻覚の中に引きずり込まれたのに、幻覚の中でボコボコにするとか・・何それ格好いい・・。」
違うからな?何度も攻撃したけど、効いてなかったからな?
順を追って話した筈なのに、アーディの頭の中で、既に改変が起きている。
駄目だコイツ、早く何とかしないと。
「味方に攻撃をさせるスキル・・。怖いわね。その場に居合わせなくて良かったと思うわ。」
全員、正体不明の破壊痕ではなく、俺とナイトメア(とダークホースの群れ)との戦闘痕だと知って少し安心した様子であったが、それでも周囲の惨状に慄いていた。
ここまで来れば、暗黒洞窟までは直ぐなのだが、現在、問題に直面している。
今しがた倒した、ハイランドベア3匹。そして、売るに売れなかったダークホースの群れ。
俺の荷物が重量限界で、ちょっともう持てないんだよね。
で、急ぎで解体ショーを始めた訳だ。
俺は穴掘りが終わったので。周辺を片付けている。
具体的には、先ほど、血で汚れた土を穴に放り込んでいるんだが、せっかく掘った穴をほとんど埋めてしまい、怒られたところだ。
現在、別枠で穴掘りをしている。
「・・しょ、っと。」
ちなみに、ダークホースは肉も食えるらしいが、人を食い殺すモンスターだと思うと、ちょっと抵抗がある。が、意外にも高級食材だった。
本来なら革も高く売れるらしいが、状態が良くないと苦情をもらった。
ナイトメアに至っては、相当、頭に血が昇っていたらしく、バラバラである。
深夜で半分寝ていたのか、記憶が曖昧なんだけどな。
「群れを率いるボスの目撃情報があってな。これを狩りに行った警備隊が壊滅したんだ。
生き残りはいたんだが、精神を病んでしまった。諸々の事情で、それなりの懸賞金が掛けられていた筈だ。」
懸賞金か・・。“人喰らい”に“海の蟲”に、“森の悪夢”。
片っ端から狩っているような気もしないでもないというか・・・。
「まさかと思うが、この辺の主を狩りつくすつもりなのか?」
んなわきゃーない。
「偶々(たまたま)だ。」
特に“人喰らい”なんかは、ましゅまるとの散歩をしなかったら遭遇すらしなかったと思う。
それに、ゲームならともかく、敵対していない相手を狩るって事は、できるだけしたくない。
襲い掛かって来たからこその討伐である。
「偶々遭遇したからという理由で狩れるものではないんだがな・・。」
「遭遇したら、普通はこっちが死ぬよな。」
「脳筋。」
「リフレなのよ。」
何故だか後半、悪口には聞こえないのに悪口を言われたような気がした。




