幻想戦・中半(仮)
書き途中です。
姿を見せたナイトメアに、剣撃を叩き込む。
その黒い影は、霧のように揺らめいたが、手応えがまるで無い。
なんだこいつ?!
その憎たらしい面を見ても状態異常に掛からないのは、相手のMPが尽きたからか。
どのみち、回復する前に倒してしまわないといけない。
だが・・これ、効いてるのか???
ゲームでは何度も戦ったが、現実ではこれが始めてである。当たり前の話だが。
なので、手ごたえが無いのが当たり前なのかどうか、分からない。
同然、どんな相手も同じように戦っていたし、所詮はクリックゲームである。手応えの違いなんて分かる筈もない。
加えて、フィールドボスなのでHPを含めてステータスが高い。簡単には倒せないのだ。
スキル:千斬乱衝
叫び声すら上げやがらねー。・・余裕かよ?!
と、その黒い霧を周辺に広げ、月明かりでよく見えていた周囲が、真っ暗になる。
これも幻覚の一種か?
身構えると、先程とは比べ物にならないくらい、ものすごい数のダークホースに囲まれていた。
だが、所詮は幻影。狙うのはあくまでナイトメアだ。
「痛っ?!あっ、ちょっ、うぐ、ぬぁあ!!」
・・と思ったのだが、数の暴力で蹂躙される。
周辺の木が殆ど残っておらず、高原フィールドは黒い草原と化していた。
斬っても、斬っても沸いて出る。
倒したはずのダークホースが次々と起き上がる。
こいつら、アンデッドなのかよ?!
そこに、悲鳴が響いた。
俺の、ではない。
「マリッサ?!」
何故、こんな所に?
ダークホースの大群に踏みつけられ、すでに重症である。
HPポットを飲ませようとしたが、気だるそうにして飲もうとしなかったので、直接ぶっ掛ける。
「リフレ・・・。」
マリッサに事の次第を聞くと、町から出て行くギルディートを見かけて追い掛けたのだと言う。
「なかなか追い付く事ができなくて、見失ったのよ。
帰ろうと思ったのだけれど、道に迷ってしまったわ。」
ギルディートを追って?
というか、ギルディートは首都から戻って来ていたのか?
何をしに町の外へ・・・?
そういえば、ギルディートは俺の後をよく追跡して来たな、と思い出す。
「ギキキキキキキィ!」「キキヒヒィン!!」
ダークホースに囲まれ、マリッサが青ざめる。
そして、聞こえてくる戦闘音。
だが、敵影が濃すぎて、全く見えない。
「ぐっ。この・・」
数が多すぎる。
斬っても斬っても背後を取られる。
戦うほどに追い詰められる。マリッサを担いで脱出する他、無い。
・・・・・。
戦闘音に近付く。
マリッサの話が事実であれば、ギルディートがいるに違いない。
戦力にするにせよ、守るにせよ、合流した方が良いに決まっている。
だが、その決断は遅かったようである。
そこには、折れた剣と、無残な礫死体が1つ。
その装備に見覚えがあった。
「・・?!アーディ??」
千切れ、砕かれ、踏み荒らされた遺体。
もはや誰であるかを示すのは、その装備と髪の色くらいだ。
そんな馬鹿な。
あの野次馬根性なら付いて来てもおかしくない、か。
だが、焦る事は無い。俺には蘇生薬がある。
ズブリ、と。
アーディは黒い地面に沈んだ。
いくらアイテムがあっても、対象がいなければ使うことができない。
「てんめぇえ・・・!」
ナイトメアを睨むと、その口に赤いものが挟まっていた。
「コケェ・・・!!」
「?!・・スザク!!」
いつの間に・・と焦っていると、取り返す間も無く、その口が閉じられる。
バクリ。ほとんど丸呑みに近い状態。容赦なく咀嚼され、羽毛が飛び散る。
「ぐぅっ・・・!」
飛び掛りたいのを堪える。
何しろ、手遅れであるし、マリッサを抱えたままで戦闘はできない。
助けられない命よりも、確実に助けらるマリッサを優先する。
欲をかけば取りこぼす。この数の暴力に抗う術は無いのだ。
「・・・・っ。スザク・・・。アーディ・・。」
だが、そう簡単に割り切れるほど、俺の心は強くない。いや、どちらかというと・・・
「あっ・・あれ!あそこ!」
マリッサがバタバタと暴れる。
なんだ、どうしたとその指し示す方向を見ると、どこかで見た長髪のエルフ耳が見えた。
膝を付いてはいるが、生きている。
「ギルディート!!」
奴はそれなりに強い。普段の言動はアレな事もあるが、仲間想いだし、回復させれば戦力になる筈だ。
何より、それなりに気心の知れた仲間を失う訳にはいかなかった。
だが、合流するよりも早く、数の暴力が俺達を襲う。
回復薬を投げる?
ダークホースに阻まれ、届かない。
ならば。
CC:クランベール
スキル:回復!!
届かない・・・!?嘘だろ?!
これは、以前にコランダで、死んでしまったボーラに回復が効かなかったのと同じ現象である。
すぐに蘇生のスキルを使おうとしたところで、足がもつれて無様に転んだ。
「ぐぅうっ。」
巻き添えを食らったのは、マリッサだ。
地面に転がる。
それよりもギルディートは・・・
血だらけの骸が、暗い地面に飲み込まれていくのが見えた。
「うぁあああああああ!!」
また、助けられなかった。
泣きたい気持ちと怒りがごちゃ混ぜになるが、泣き喚いている場合じゃない。
堪える。冷静に、今すべきことを考えろ。
そして、転がされたマリッサが俺を振り返る。
俺が転んだのは、背丈が急に縮み、体が軽くなったせいで、マリッサを背負った身体のバランスが悪くなったというのが原因である。
移動しながら歩幅が変わったせいもあるだろうし、ステータスの変化・・特にSTR(腕力)が下ってしまったせいもあるだろう。
移動速度も落ちた。キャラクター特性もある。
「・・・リフレ・・?なの・・・?」
つまり何が言いたいのかというと・・マリッサにバレた。
だが、緊急事態だった。その覚悟も、全く間に合ってない訳だが。
「・・・。ああ。俺だ。」
「・・・どうして。」
気まずい沈黙だが、今は説明どころじゃない。
「後で話す。それより、切り抜けるぞ!」
スキル:銀光の加護
スキル:森羅の守護
2人を補助魔法が包み込む。
俺は、背の近くなったマリッサの腕を引き、掛け出したのだった。




