勝負
「だとしたら、どうすんだァ?」
そう答えたこの男は、双剣キャラだ。
ストーリー上は、性格に二面性を持ち、猪突猛進の戦闘狂かと思えば、冷静な判断力を備える理性も備え持っている。
この返答ではプレイヤーかそうでないかの判断ができない。
プレイヤーだと仮定する。
“プレイヤーらしき”俺を見て、とりあえず接触しようとしたが、「プレイヤーか?」と聞かれたことで慎重になったのだとしよう。
“なんだオメーはよゥ?見かけねぇ顔だなァ!!”
無いな。“とりあえずの接触”でそれはない。あれは全力で絡んでた。
あるいは、最初、俺をプレイヤーだと認識していなかったとする。
・・・だとしたら、あんな絡み方はしてこないだろう。
プレイヤーって事はなさそうだ。
だとしたら見かけない顔の奴を当たって、端から喧嘩を吹っかけている、というのが妥当か。
MOBかよ!
「用は無い。」
大剣キャラの上位交換と言われたこいつは、魔法剣士としても付与術師としても使え、高火力かつ範囲攻撃も可能なので、わりと人気なキャラクターである。
大剣もロマンだが、双剣だってロマンだ。俺も持ってる。
ただ、ゲームでは現在地・・・青の大陸エルフォルレのフロウラン共和国と、大剣キャラの出身である赤の大陸アズルビアの王国ヒルシュテンダム、今現在は関係ないが、黄の大陸サルトルドのポルティスタ連邦が常に三つ巴の戦争中だ。
それに絡んで、大剣キャラのストーリーの中で、双剣キャラの所属する傭兵団と大剣キャラの所属する傭兵団が対決するのだが。
双剣キャラが、大剣キャラの所属する傭兵団の団長(恩師)を殺すシーンがあり、若干のトラウマを背負っている。
自分が今、大剣キャラなせいもあり、あまり関わりたくない。
「おい待てよ。なァ。その情報の手掛かりを見つける術がある、っつったらどうする?」
左右の耳を交互に動かすな!双剣キャラのイメージが崩れる!
おそらく、「プレイヤーでは無い」と判断した事が伝わったのだろう。切り口を変えてきた。
それにしても、“見つける術”ねぇ。
「興味がある、と言ったらどうするんだ?」
その情報を持っている、とか手掛かりを持っている、では無いあたり、何も知らないのだろう。
展開は読めたが、あえて誘いに乗ってみる。
耳がピョンと立ったぞ!
「タダで渡すわけにゃァ、いかねぇなァ!」
なんだこれ。すごく嬉しそうだ。
こいつ、こんなキャラなのか?
戦いに生きる、時に残酷で冷淡な傭兵はどこに行ったんだ?
「・・・。何をすればいい。」
目が輝いている。
耳がピコピコしている。
鼻歌でも歌いだしそうな顔をしていやがる。
「模擬戦だ!俺と模擬戦をしてくれ!!!」
模擬戦か。
いきなり殺し合いとかが始まったらどうしようかと思ったが、割と常識的なんだな。
「模擬戦をしろ!」じゃなくて「してくれ!」なあたり、とっさに素が出たような感じがする。
絡む為にキャラを作ってる感もあるしな。大方、誰かの真似でもしているんだろう。
コイツがレベルいくつなのか分からないが、模擬戦なら付き合ってやってもいいかな。
「今度な。…じゃ、そういうことで。」
今日はそろそろ帰らないといけない。
あ、帰りに容器があればカレーライスを持ち帰れるか聞こう。
・・・・・。
服を掴むな。そこは腕とか肩にしろよ。
切なそうな顔をするな。耳を震わすな。
・・・なんだよ。
「俺と勝負だァ!」
とても面倒くさそうな奴に捕まったと思いました、まる。
勝負。勝負ねぇ。
「じゃぁわかった。」
俺は、服を掴んだ手を振り払いつつ、条件を切り出す。
「これからノルタークに着くまでに、俺を捕まえるか、追い抜いたら直ぐに勝負してやる。スタートは門からだ。」
耳がシャキッとなっているので、やる気になったらしい。
ノルタークなら闘技場もあったはずだし、丁度いいだろう。
ギルドを出る前、何やらギルド内が騒がしくなっていたが、こちらの面倒はなんとか片付けるので咎めないでほしい。
名前も知らない双剣キャラだが、ついて来てるな。
俺の方が足が早いとして、門を出た瞬間が勝負だろう。
スタートした瞬間に捕まってはたまらないので、ちょっと距離を取って置きたいが、向こうも逃がさんとばかりに一定の距離を保っている。
門から外に出る。スタートだ。
俺は一気に踏み出すと、ちらりと背後を見た。
おっ、あちらさんも割りと速いか?
様子を見つつ、走る、走る、走る。
向こうも全力でついて来る。
俺は、ある程度距離を取ったのを確認し、徐々に速度を上げた。
・・・。
そして奴の姿が豆粒のようになり、米粒のようになり、砂粒のようになって・・・。
振り切ったみたいだ。
惰性で走っていたところでノルタークが見えてくる。
コランダと違い、人通りが適度にあるので、俺に気付いた人が驚いた顔をして振り返る。
すまない。驚かせるつもりじゃなかったんだ。
奴が意外と粘ったので、予定よりも遠くまで来てしまった。
そして大回りに森を走り抜け、岩場のフィールドの北側を南東に抜けた。
双剣の奴は今頃、ノルタークに着いたかな?
そこに俺はいないけどな!
悪いが、今日は時間が無いんだよ。今度と言ったら今度だ。
どうしてもって言うなら、そこで居もしない人物を探し続けるがいいさ、ハハハ。
コランダの西側の平原に到着。
ここまで戻ってきたら、コランダは目と鼻の先だ。速度を緩める。
さすがに距離が遠いと疲れる!
日が傾いてきてるよ。
マップに捕らえた頃。麦畑と風車の町コランダが、西日を受けて輝くように俺を迎えてくれた。