幻想戦・前半(仮)
書き途中です。
ナイトメアとの戦いは、熾烈を極めた。・・・主に、俺の精神面でだ。
見せられた幻覚から立ち直って、ナイトメアに攻撃を仕掛けようとしたら、また同じ状態異常にかかった。
今度のは、ミーティングがある事を忘れていて、課題も知らず、資料も無いまま望む羽目になったり。
何故かズボンを履き忘れて出掛けていたり。食べていた果物から虫が出て来たり。叔母の葬式をしたり。
一度は夢で見た事のあるような内容だった。
・・・夢だよ?
さすがにミーティングで課題も資料も不明なんて事は無いし、ズボンを履き忘れた事は無いよ。願望も無い!
そして叔母は殺しても死ななそうな程度には元気な筈である。異世界に来て一ヶ月にもなるので、元の世界がどうなっているのかは分からないが。
ちなみに、食ってた食べ物から虫が出てきた経験は割とある。
紙コップ自販機で買ったジュースに蟻が入ってた事もあったな。・・・俺は蟻に呪われてるのか?
高校時代の悪夢。
忘れられていたってのに・・・・・。掘り起こして来るんじゃねーよ。
あとは、俺の暗黒歴史が次々と。
状態異常を脱した瞬間があった気もするが、よく覚えていない。
多分、脱した瞬間、また掛かるのを繰り返していたんだと思う。
いや、もうやめてくれ。俺の(精神的)ヒットポイントはとっくにゼロよ。
最終的には、クィーンフォレビーの大群に襲われた。もちろん、幻覚であったが。
後から考えれば、クィーンが大群って明らかにおかしい訳だが、その時は必死であった。
幻覚から覚め、気が付いたら、周囲に甚大な被害を齎していた。
仲間と来なくて正解だったと思う。
それにしてもコイツ、俺のトラウマを的確に攻撃して来やがる。
「ぶっ殺!!」
す、が言えなかった。
その赤い目を見たとたん、地面が突如として底なし沼・・いや、米ぬかのようにぐにゃり沈み、俺は幻想の世界へ旅立ったのだった。
「糞ったれが!!!」
俺は、温厚な性格だと自負しているが、悪態もつきたくなるというものだ。
この幻覚、掛かってしまえば幻覚だと認識できなくなるから性質が悪い。
どうにかして意識を保とうとしたが、レジストは失敗。
虫の大群に追い掛け回されたり、巨大な虫に集られたり、遺跡の恐怖再び、といった感じであった。
懐かしのゲロポリームと愉快な仲間達が出現し、再戦が実現する。俺が絶望に苛まれた頃、場面が切り替わった。
・・・あれは戦車?!どこかを砲撃してる。
戦闘機がいくつも空を駆け巡り、戦車の砲撃に加わる。
ここは、戦場?!
戦争なんてテレビでしか見た事がない。
治安が悪いと言われている場所には行った事があるが、紛争地域まではさすがに無い。
難民・・と言うには明らかに物騒で、しかし兵士と言うには身なりの怪しい人達が、銃を構えたまま、ものすごい形相でこちらに向かって来る。
「ひえぇ?!」
慌てて両手を上げたが、あちらさんは問答無用とばかりに引き金を引いた。
爆音。瓦礫が砂煙を立てて粉砕される。
さすがに攻撃されては両手を上げて突っ立っているというわけにも行かず、俺は転がるように瓦礫の山に突っ込んで伏せた。
「何だこれ?!・・・何だよこれ??!?」
とにかく逃げる。
銃を持った集団が、ぶっ放しながら追ってくるのは恐怖だ。
振り返って様子を見たいが、そうしたとたん、俺の身体は穴だらけになるだろう。
俺以外にも、両手を上げて降伏した人が何人かいたが、ミンチにされていた。
酷い。何故、こんな簡単に殺すんだ?民間人っぽいのが殆どだったぞ?
俺が狙われている時点で。軍人とか民間人は関係無いのか。
そこへ・・・爆撃音。悲鳴。もしかして、奴らが爆撃されたのか?
だが、爆音と共に俺の周辺に土煙が舞う。
振り返りたいが、状況の把握は大事とはいえ、命を懸けてするべきじゃない。
俺と一緒の方向に逃げる羽目になった奴が、向こうを振り返った瞬間に頭を粉砕されていた。
まっすぐに逃げると弾に当たりやすいという話を聞くので、身を低くして、できるだけ開けていない・・無事な建物のある所と右へ左へと入り込んでいく。
銃撃音が遠ざかり、大丈夫そうだと判断。
建物の隙間から後方の様子を窺う。
・・・いた!!まだいたよ!!
俺を探しているのか?周囲を見渡しながら分散して建物の中を捜索している。
とにかく、距離を取らねば。
・・・と、瓦礫の山の一部が、ぽっかりと口を開けているのに気が付く。
周囲の状況から、逃げ回るのも限界があると判断。
あの穴なら・・俺なら入り込めるか?
危険はあるだろうが、じっくりと考えている間にも状況は刻々と変化をする。
ベストな選択なんぞ、できる訳が無い。周辺を見回し、その暗い穴に滑り込む。
・・・・・。
俺の身が完全に隠れたところで、少しの安堵。
隙間が深くて助かった。
そう思った瞬間、怒りを帯びた声で異国の言葉が聞こえ、銃撃音が鳴り響いた。
怖い。見つかりたくない一心で、とにかく、奥へと進む。
その穴は思ったよりも深いところまで掘られていた。
人工的なものであった。防空壕と言うには、あまりに粗末な安全地帯。
そこには、怪我をした難民が数名おり、俺に向かって何かを言ったが、俺は両手を上げて応える事しかできなかった。
何語かもわからない。
後から思うに、体の小さな俺がギリギリ通れる隙間を、この人達が通れるとは思えない。
それに、妙に明るいのも不自然なのだが、それはあくまで幻覚だからであろう。
と、爆撃音が聞こえ、地面が揺れる。
パラパラと小さくはない土砂が落ちてくる。
これはこれで恐ろしい。
崩れて生き埋めになるかもしれない、恐怖。
ここは日本じゃないので、生き埋めになったらアウトだろう。
目の前で、落ちてきた壁の破片らしき大きな石を頭に受け、立っていた男が崩れ落ちた。
人が簡単に死んでいく。ただただ、恐ろしかった。
「何だよ・・・これ・・・」
それしか言える事は無く。俺は土の壁に身を寄せて蹲った。
そして、大きな爆撃音と共に、その安全地帯は崩れ去ったのだった。
・・・ハッ!
暗闇の中に浮かんだのは、ナイトメアであった。
現実に、頭が追い付いてくる。
なるほど、こいつの仕業か。酷い目に合わせやがって。
まだ現実に戻れていない事など知る由もなく、俺は、討伐の為に大剣を握り締めたのだった。




