悪夢(仮)
書き途中です。
虫注意。
ナイトメアに遭遇し、その目を見た途端、そこは地獄へと変わった。
これは、状態異常の恐怖なんて生温いとさえ思った、悪夢の一部始終である。
バトルでも無ければ、重要な事も含まれていない。
何の話かって?読み飛ばしたい人の為の前置きだよ。
虫が嫌って人が多いんだ。もちろん俺も含めてな。
…
足元がグニャリとしたので見ると、そこには針葉樹の葉が堆積していた。
「?!」
懐かしい感覚だが、全く持って歓迎できない。
爺さんの家のある山奥で何度も体験した。こういう場所でのこの感触は、蟻塚である。
飛び退いたが、飛び退いた先も同じ感触。さらにその先も・・・
「うぉぉおおお?!」
巣を荒らされた赤蟻が、俺の身体に這い上がってくる。
逃げる、逃げる、逃げる。
岩場を見つけたので、駆け上る。
最悪だ。
ざわざわと、風がそよぐような、蟻の犇く音がする。
あんな小さな生き物でも、大群となればこんな音が出るのだと、関心しつつもゾッとしたものだ。
・・・・・。
そう、これは俺の体験を元に見せられている幻覚である。
足元の感触に我を忘れた一瞬、俺はリーフレッドではなく、子供の頃の 松崎 良伸 に戻っていた。
そこまで忠実に再現してくれんでもいい。
そして、至る所で噛み付いている赤蟻を払う。
払っても、払っても減らない。
幻覚だと分かっていても、嫌なものは嫌なのだ。
俺の、現在の状態異常は、おそらく幻覚である。
さっきまでは、錯乱、もしくは恐怖も付いていたんじゃないかな?
下手をしたら、睡眠が付いている可能性があるが、睡眠はダメージの入る攻撃を食らえば50%の確率で目を覚ます筈だ。だから大丈夫。
問題は、現在の状況がゲームと著しく違う事だ。
ゲームでは、幻覚状態になっても、状態異常に表示されるだけだった。
幻覚の効果は、行動不能になり、その他の状態異常に掛かり易くなる、というものだ。
また、幻覚状態中、ナイトメアのスキルによって味方を攻撃してしまう上に、幻覚と混乱もしくは錯乱が付くとランダムで味方を攻撃する事もあった。
が、幻覚の内容を見る事は無かったのである。そして、モニタからナイトメアが消える事も無かった。
今、俺は、ナイトメアを見失っている。
『帰らなきゃ。』
俺は、焦る。こんな時間まで山にいたのは初めてだ。
早く帰らないと、じいちゃんに怒られる。
いや、待て。
しっかりしろ、俺。幻覚に引っ張られるな。
俺はもういい大人だし、じいちゃんはもう亡くなった。
ここは異世界である。
・・・異世界?そんな馬鹿なと。
それこそ幻覚でも見てたんじゃないのか?早く帰らないと、家族が心配する。
食いついていた蟻も見える範囲にはいなくなったし、家に帰って着替えよう。
ざわ。
嫌な音がした。蟻塚を踏み荒らした時にした音だ。
全身が強張り、総毛立つ。
ざわ。
まるで、意思を持っているかのように、それは大きなうねりとなって・・・・。
「・・ヒッ!」
俺は息を呑む。岩場の下に、無数の蟻の集団が、塊になって蠢いているのが見えたからだ。
そして、それは俺に襲い掛かる。
「うわぁあああああああああ!!」
俺は叫び、逃げた。
逃げて、逃げて、逃げて・・・。
足を滑らせ、崖から転落する。
…
夢、か。
酷い夢だった。
これに似た夢は見た事があったが、何度見ても、夢の中にいる間は夢だと思わないんだよな。
悪夢だったら、すぐに目を覚ますことができたらいいのに。
夢だと気付いた場合のみ、夢をある程度コントロールできる事に気付いてからは、悪夢を見た後に「気付いていれば・・」と思うようになった。
コントロールできる夢は楽しい。毎回、割と自由に空を飛ばせてもらっている。
・・・え?夢をコントロールできたら、まず飛ぶだろ?・・俺だけか??
「・・ヨシ君?」
隣で寝ていた彼女を起こしてしまったようだ。すまない。
・・今、何時だ?スマホはどこだろう・・
ベッドの下に置いてある筈だが・・
あったあった。8時45分?・・明るいから、朝か。
ん?メールが来てるな。
[アイ:今から行くね]
[アイ:いつものコンビニ]
[アイ:もうすぐ着く]
俺は、マナーモードにしている事が多いので、こうやってメールを見逃してしまう事が多々ある。
スマホは持ち歩くようになったが、ガラケーは持ち歩かない事も多かった。ケータイ不携帯。よく友人にからかわれたものである。
「ごめん、メール見てなかったわ。」
もう合流してるから問題ないよね?
そう思ったんだけど・・・
「メール?」
なんだろう、この違和感は。
なんだろう、この焦燥感は。
「私、メアド知らないけど?」
どういう事だ?
「・・・アイって、誰?」
「えっ。」
水村、お前の事だろ?そう思った時に、メールが一通入る。
[アイ:着いたよ]
ガチャン。
入って来たのは、バイト先の可愛い後輩、アイ。
そして、横にいるのは同級生の水村。
特徴のよく似た2人は、確かに似ているけど、こうして並んでみると、わずかな違いに気付く。
同一人物だと思い込んでいたら、別人だった。知らない間に、俺は二股をかけていたのか・・・?
「どういう事?」
「どういう事?」
・・・どういう事だ???
水村とアイは、水村アイではなかったのだ。
どういう事なのか、俺が一番教えてもらいたい。
「私は電話番号しか知らない。」
「私はメアドしか知らない。」
何これ。どうして?
どう責任を取ったらいいんだ?どうやったら責任を取れるんだ?
俺は、どっちを選んだらいいんだ?
そもそも、区別が付かない人間を、俺は本当に愛しているのか?
「信じてたのに。」
「最低。」
選ぶとか、そんな事を言っている場合じゃない。
俺は2人を両方とも失う――。
…
ボリボリ。
俺は、痒みを感じて頭を掻く。
そこで、目が覚めた。
畳に敷かれた布団。
和式の部屋に当たり前のように存在するカーテン。
勝手知ったる実家である。
・・・ゆ、夢か。ビックリした。
そうだよな。俺が付き合ってたのは水村アイだ。水村とアイじゃない。
何故こんな夢を見たんだろう。
それにしても、頭が痒い。というか、あちこち痒い。
痒みで目を覚ますくらいだから、相当なものだ。
バリバリと掻き毟り、そして妙な感触に気付く。
瘡蓋?虫刺されでも掻き毟ったっけか?
その固い感触のものを、爪で摘んで見る。
この粒みたいなものは・・・・・・・蟻?
ゾクリ。
俺は、痒みを感じた耳の穴に小指を突っ込む。
蠢く粒。そして、引き抜いた小指には・・黒くて小さな・・・・・
耳の中で、何かが犇く音がする。
一匹や二匹じゃない、それこそ巣の規模の蟻が、俺の頭の中に・・・
「うぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!?!!?!?!!」
…
バリバリ・・
気が付くと、頭をナイトメアに食い付かれていた。
幻覚の効果が切れたらしい。
寝ていたのだとすれば、最悪の目覚めだ。
虫の夢とか、嫌がらせ以外の何物でもない。
コイツ・・・・・絶対に許さない。




