戦略無き撤退(仮)
書き途中です。
これはクーリングタイムが必要と判断し、自分の部屋に逃げた。
ティティが「まだ話は終わってない」と俺を引き止めにかかったが、その後ろからブジリットが羽交い絞めにしていた。
まず、認識にズレがあるし、俺の気持ちと考えも伝えた。それが浸透するだけの時間は必要だろう。
それにしても、参った・・・・・。
鍵を掛けると同時に、どっと疲れが押し寄せる。
まだだ。ちゃんとスザクの根桶を出してやらないと、また至近距離で朝鳴きを聞く羽目になる。
・・・おい、枕元に座ってるんじゃないよ。お前の寝床はこっちだ。
まったくもう・・・。
俺は、ベッドに座って一息吐く。
ブリジットか。悪い子ではない。可愛いし。
ただ、付き合いも短いし、俺に恋心らしいものは涌いて来ていない。
いや、これから育んでいけばいいのかもしれないが、その前に、前提を履き違えている可能性がある。
ブリジットは、俺と付き合いたいと思っているのだろうか?
ティティと、そしてその勢いに押された俺が勘違いしている可能性は十分にある。
所詮はお礼のお食事なのだ。
異世界に来て、元の世界では出来なかった嫁さんをと夢想しないでもない。
だが、これまでの経験が言っている。勘違いも甚だしいと。
好意を寄せてくれているのは確かだとして、その好意が恋愛感情であるとは限らないのだ。
本人が自分の感情を勘違いしている可能性すらあるからな。
それに別の問題もある。
ここにいる俺は「俺だ」と言えるのだろうか?
この身体は20代。だが単に若返ったという訳じゃない。身長もあるし、肉の付き方、いや骨格からして違う。
俺の人格が転写されただけの別人と言っていい。
事実、キャラクターチェンジで全く違うキャラクターに変わる事ができるのだし。
そんな偽りの俺が、パートナーを見つけて、果たして真に幸せにする事が出来るのか?
俺自身は幸せになれるのだろうか?
過程は飛ばすが、それを考え出すと、「俺は何故この世界に来たのか?」という、未だ答えの出せない問題に行き着く事になる。
ちょっと考えたら答えが出せる、というような問題じゃない気がする。
だって考えてもみろよ。ある日、突然この世界に来たんだぜ?逆も考えられると思わないか?
この世界で幸せな家庭を築き上げました、と思ったら、ある日突然、元の世界に戻されました。
・・そうなれば、嫁はどうなる?子供は???
飛躍のし過ぎかもしれないが、恋人を作るという事はそういう事だと思っている。
責任も取れないのにやることやって放っぽり出すなんて下衆な真似だけはしたくないからな。
それに、そうなれば俺の精神状態はボロボロになるだろう。
色々あったので磨耗している感は否めないが、木っ端微塵に粉砕されてしまうかもしれない。
愛すべき家族との予期せぬ別れとか、恐ろしすぎる。
そこまで家族と別れるのが辛いのかは、正直わからない。結婚に夢を見過ぎているという自覚はある。
どうせ結婚するなら、それくらい幸せになりたいしな。
保留だ、保留。
取り留めのない事を考えても、睡眠時間が無駄に削られていくだけである。
人は寝ている間にそれまでの出来事を脳内で処理して、自分の経験を補填したり、理解を深めたりするとか言う。
答えの出ない事は、寝て処理してしまおう。
俺は、いつも通り明かりを蝋燭からトーチに切り替えてから眠りに就いたのだった。
・・・ちなみに夢は見なかった。俺の脳味噌、仕事しろ。
翌朝。いつも通りに身支度を整えて飯を食っていると、探索メンバーが集まり始める。
ティティが睨み付けてきているが、気にしない。気にしても仕方がない。
「・・昨日は、準備不足を感じたわ。なので、色々補充をして来ようと思うの。」
時間もない事だし、俺が持ってるやつで・・・と思ったが、呪術師を釣る作戦だったな。
探索はついでである。ここで探索を優先すれば本末転倒というやつである。
「じゃぁ、集合場所はここって事で・・・・。」
「がるる!」
「・・一緒に買い物に行こうか。」
マリッサ達と待ってるから行っておいでと言おうとしたんだが、ティティに唸られて修正した。
えーと、マリッサさん達のフォローは任せてもいいのかな?
「リフレが行くなら私達も一緒に行くのよ。・・・何かしら?」
アーディを連れて合流してきたマリッサに、ティティが射殺さんばかりの視線を送った。
ブリジットと引っ付けたいティティにとってはお邪魔虫にみえるのだろう。
「その横のボサボサ頭の面倒を見ないといけないでしょ。」
「アーディは水でも掛けときゃすぐに目を覚ますわ。
それぞれ買い付けたいものもあるだろうし、全員で動いたほうが合理的なのよ。」
ティティがガリ、と歯を噛み合わせる。
一方のマリッサは、ティティが怒っているは分かるものの、それが何故なのかまでは分からず、首を傾げている。
まぁ、そうなるだろうな。
「早く行って。今すぐ。」
「待ちなさいよ。買い物と比べたら、ほんの少しの間じゃないの。」
これは、どうする方が正解だろうか?
迷っているうちに運ばれて来た朝食に付いていたグラスを掴み、アーディの顔面に目掛けて水をぶつけるマリッサ。
「うぎゃぁああ?!」
「もう少し、朝に強くなりなさい。貴方の為に樽を買ってたんじゃ、お金がいくらあっても足りないのよ。」
そういえば、水って普通に金が掛かるんだよなぁ。
俺ならともかく、マリッサには結構な負担だったのだろう。
それにしても・・食堂で水を掛けるのは可愛そうだと思うぞ。いじめかよ。




