何処へ行こうというのかね?(仮)
ふ・・また金にならない仕事をやってしまった・・・
書き途中です。
休憩を終え、俺達のPTは移動を始める。
ハイランドグリズリーが出てきた時や、敵が複数現れた時以外は、俺の出る幕なんて無かった。
時間を食うから俺が出るだけで、俺がいなくても十分対処できた気がする。
隠してはいるものの、ブリジットがヒーラーだと知っているだけで、安心感もあるしな。
まぁ、マリッサとアーディはそれを知らないんだけどな。
「おい、ちょっと待て。俺達は一体、どこに向かってるんだ?」
「私に聞かないでよ。付いて行くので精一杯なのに。」
「・・・何処に向かってるのかしら?」
ローグリアムが今更聞いて来たんだが。
そりゃ高原フィールドの奥って言ったら、暗黒洞窟だろう?
ってか、俺以外に目的地を目指している人がいないってどうかと思うよ。
「暗黒洞窟って、あの暗黒洞窟か?」
「その『あの』の意味は分からないが、向かってるのは間違いなく暗黒洞窟だ。」
「まさか、入ったりしないよな?」
アーディは期待半分、不安半分といった様子で聞いてくる。
さすがに、ちょっとこのメンバーを連れては・・・厳しいものがあるな。
「暗黒洞窟前でお昼休憩、そのまま帰れば暗くなる前に戻って来れるだろ。」
俺は、入るとも入らないとも言ってない。
金策には丁度いい洞窟だし、ちょっとだけ入るのもありだとは思っている。
帰る時間が少し遅くなるくらいで、少し暗くなった頃には町に着けるように帰ればいい。
だが、他の奴が付いて来るなら話が変わってくる。
1人か2人ならフォローのしようがあるが、全員で一緒にというのはキャパシティオーバーだ。
俺だって、うっかり回復を切らせば死ぬダンジョンなのだ。
町で復活するゲームとは違う以上、慎重に動かなくてはならない。
「ちょっと遠過ぎないか・・・?」
既に遅れつつあるブリジットを横目に見ながら、ローグリアムが俺に問う。
んー、まぁ帰還の札が馬鹿みたいに高いから、ほいほい使えないもんな。
ゲームでは、遠出した時や、ダンジョンから戻る時は、基本的に帰還の札などのワープアイテムを使っていたが、行きはもちろん、帰りも徒歩なので、ものすごい時間が掛かるのだ。
「昼過ぎでも着かなかったら、休憩して引き返せばいい。
ただ、俺は目的地をそこに設定していたし、全員そこに向かってると思ってただけだよ。
そこに行かなければいけない理由も無いし、目的地が変わったところで問題も無い。」
単なる思い込みというやつなんだが、まぁ、他に目的地を決めて動いてる奴はいなかった訳だし、別に俺は悪くないよね?
「そこで、お前の仲間達が待機してたりするのか?」
数瞬の間、何の事だか分からなかったが、おそらくクランメンバーであるニコフロノフの事を指しているのだろう。
ギルドの諜報がお仕事だからな。色々と情報を持ってたり、探りを入れてくるのは仕方がない。
「さぁな。今日は特に待ち合わせもしていないから、いるかどうかは分からないな。」
存在するかどうかも分からない相手だけどな。
もちろん、待機なんてしている筈はない。中身は俺だし。
「もしいたら、紹介してくれるのか?」
「いたら、な。」
いない相手を紹介できないし、俺とニコフロノフは同一人物なので、同時に存在する事はできない。
つまり、永遠に紹介できる機会は無い訳だが。
・・・もしかして、接触任務でも背負ってるのか?
うん?
今、全員が俺に注目してた気がする。
気のせいだったか???
喋ってるのが俺達だけだったせいだよな?
と、進行方向からハイランドラビットが姿を現す。
襲って来た訳ではない。ノンアクティブのモンスターだ。
ゲームではそこら中にいたが、現実のこの世界では、人前に姿を現す事は稀なんだそうだ。
俺達に気付いたハイランドラビットが、素早いステップで駆け抜ける。
うん、この人の群れに気付かずに飛び出して来たあたり、間違いない。
「気を付けろ。何かに追われて――。」
「ていっ。」
スキル:斬首
出会い頭に、思いっきりスキルを叩き込んだった。
というか、スキル自体は反動で動けなくなる時間があるので、それを減らす為にも軽めに振るったのだが、正面衝突にも等しい状況だ。
相手が速度の乗った状態で向かって来たので、俺が吹き飛ぶところだった。
咄嗟に体勢を整えたところ、自分が思った以上の効果が出てしまったのだ。
急所にクリティカルヒット。続けて同じ切り口に振り下ろす。
ザスッ
・・・ハイランドグリズリーだ。凶暴そうな面しやがって。
喰らい付かんばかぎの形相で倒れたが、今度は苦しめずに倒せたようだ。
単に倒すだけなら連撃スキルでも叩き込めばいいが、素材が駄目になるんだよな。
速度と瞬間火力の両立を目指すと、単体スキルで一撃必殺を目指すより、軽く当てて通常攻撃で止めを刺した方が確実だ。
まぁ、今回は上手いこと急所に当たったので、追撃は要らなかったかもしれないが、臨機応変に動くのが苦手な俺は、決めた通りに動いてしまったのだ。
今更、思考の柔軟さが身に付くとは思えないので、まぁこれでいいかなと思っている。
「・・・余計な心配だったようだ。まぁ、注意勧告は大事だよな?」
「そうよ。例外もいるけど、大事な事よ。」
うん、ごめん。
譲っても良かったんだけど、目の前だったし・・・なんか出る幕が無くて手持ち無沙汰だったというか・・・。
「返り血を躱してもう一撃って・・・それ、どうみても細剣じゃないよな?」
素早さが売りのアーディにしてみれば、重量武器でヒラヒラ動く俺が不思議に見えてならないのだろう。
AGL(敏捷性)が高いから身軽に見えるんだろうけど、機能的な技術による応酬ではなく、単なるステータスによるごり押しである。
蝶のように舞い、蜂のように刺す事ができるんではなく、ただ馬力が違う・・戦闘機みたいなもんなのだ。
プン、と振るうと、僅かに付いていた血液が吹き飛ぶ。
「大剣だな。その大きさの剣は、普通は両手で扱うと思うんだが・・・。」
長剣を両手で扱うローグリアムにとっても、この重量武器は不思議でならないのだろう。
何しろ、ロマン武器だからな。
両手で使った方が威力は出るんだけど、俺に剣の技術は無いし、そのせいか範囲が狭くなるんだよな。
なので、普段は片手を添えるだけか、反射的に振るう場合は完全に片手な事もある。
なんとなく潜在意識的なもので、俺は両手が塞がるのが嫌なのかもしれないな。
「・・・デカくて重いから、射程も攻撃力もあって防御もできるし、便利だよ。」
適当な事を言ったら、見渡す限り全員の頭が左右に振られた。
・・・・・もちろん、ただの軽口だよ?




