高原でモーニングティーを
さて、PTが前衛に偏っているのには理由がある。
端的に言ってしまえば、後衛が不足しているからである。
もちろん、この場に限ったことを言ってるんじゃなく、冒険者全体での話だ。
呪病の流行で、まず教会のヒーラーさんが倒れたり、隠れたりしてしまった。
それにより、回復スキルの使える補助職は引っ張りだこで、単独でも依頼が山のようにある。
元々、他人に掛けられる回復スキルの使い手というのは少なく、需要が間に合ってないとのこと。
次に魔法使いだが、傭兵クランなどに囲われており、好き勝手に依頼を受けることができない者が多いらしい。
それ以外にも、冒険者稼業を休んでいる魔法使いは多いと見られている。
というのも、MPが減っていく病の流行により、特にMPの消耗が激しい魔法職は、避ける傾向にあるようだ。
MPが減っていく呪病に罹ったら、MPの次はHPである。
逆に言うと、HPの延長線上にMPがあり、全て無くなると死ぬのだ。
ちょっと休業しようかって気にもなるだろう。
となると、残りは弓くらいなものだ。
銃も存在するのだが、一般的ではないようなので割愛する。
「俺、弓にしようか?」
ローグリアムが名乗りを上げるが、弓は使い勝手が悪いんだよな。
ゲームでも、エルフで弓を選択できたが、結局、魔法の方が使い易いので、そっちに流れる。
攻撃力は低いし、素早い訳でもないし、遠くから攻撃できる以外で良い事があまりないのだ。
同じ遠距離なら、威力もあって使い勝手の言い魔法を選びたくなるのは当然と言えるだろう。
「弓で様子見してもらって、厳しかったら元に戻そう。」
でも、せっかくなのでお願いした。
色々な戦闘スタイルを見ておいた方がいいと判断したからだ。
マリッサのクロスボウと、ローグリアムの弓でチクチクやってもらう事にする。
・・・・・。
お前ら、えげつない。
今は弓矢が消えて無くなっているけど、ハイランドベアの顔面がウニみたいになってたよ。
モンスターに同情するなんて、めったにできるもんじゃないよ!
そこに、ティティ、ブリジット、アーディが追撃を入れる。
なかなかの連携・・というか、どちらかというと蹂躙である。
「・・・ちょっとペース速くないか?」
「こんなもんだ。」「なのよ。」
ローグリアムが気にしているのは、ブリジットの事だ。かなりへばっている。
時々、水以外のものを口にしているので、回復アイテムでも使っているのだろう。
そこまできついか?と思ったが、魔法職は足が遅かった記憶がある。
「貴方達、どれだけ体力あるの?!」
息を切らし始めている。体力なんてステータスあったかなぁ・・・。
ステータスの問題だとすると・・・AGL(敏捷性)が足りない?
STR(腕力)か?
まぁ、魔法使いには縁の無いステータスだが・・・。
HPとは別問題な気がする。そういえば、スタミナポットなんてもの増えてたし、ゲームでのステータスという概念では量れないものがあるのかもしれない。
「・・少し休もうか。」
高原なので、木々さえ無ければ遠くに海が見える筈である。
・・・ちょっと開けた場所に行きたいが、そんなのあるのか?
俺が知ってる安全地帯は難民キャンプと化してるし、通り過ぎてしまったしなぁ。
どこか良い場所を知っているか聞いたが、そんなものは知らないとの返答をいただいた。
「贅沢を言ってないで今すぐ座るべき。体力には限界がある。」
ティティの提案で、その場で腰を下ろして休む事になったのだった。
・・・・・。
「1人2つまでな。それ以上は金を取る。」
サンドイッチを配る。俺のペースに合わせて無理をさせてるのが現状だ。
「金を取るのかよ?」というツッコミは無い。
「ブリジット、食べないなら私がもらう。」
「遠慮してるとヘバるのよ。昼食までまたさっきのペースで進むのだから、回復しておかないと足を引っ張るわ。」
ティティがブリジットの分まで食べようとするのを、さり気無くマリッサが阻止する。
まぁ、一番、回復しておかなきゃならないのはブリジットだからな。
おそらく、マリッサよりもレベル自体は高いと思うのだが、体力に関係のあるステータスが低いのだろう。
雑貨屋で仕入れたハーブティーを入れる。
事前にお湯を作ってあるので、面倒が無くていい。
この世界にはティーパックなんて無いから、後でティーセットを洗うのが面倒だが、ティーポットは何人かで使い回せるのがいいよな。
「欲しい奴はカップ持って来いよ。」
砂糖は無しだ。
マリッサが自分のカップに琥珀色の液体を垂らしてからお茶を入れてたけど、それ、まさか酒じゃないよな?
ティティは「草の味の付いたお湯なんていらない」そうだ。
そして気になったのが・・・
「ローグリアム、それ・・・美味いのか?」
「甘くてうまいぞ。」
ローグリアムが、お茶の分量が目に見えて変わるくらいの砂糖をぶち込んでいたのだ。
「甘くて美味しい」って、関西のおばちゃんかよ!
スプーン数杯の砂糖なら貸してくれるそうだが・・・いらねぇ。
だいたい、砂糖を貸すって何だよ。アーディとブリジットが借りてた。
スプーンで計量してるみたいだが、貸し借りが成り立つ物なのか・・?それ・・・・。
「コケ!」
休憩中、自由にウロウロしていたスザクが、何かを口に咥えて持って来た。
なんだ、木の実か?・・・胡桃?いや、かなり小さいし、別の物だろう。
うん?
めっちゃ突いてるけど・・・。
割れない?・・・ああ、俺になんとかしろと。
えーと・・。
マリッサの槌はデカ過ぎて粉々に粉砕しそうだし・・
丁度いい石を探して割ろう。石・・石・・・。
「蛇!」
ちょっと大き目の蛇がいきなり襲い掛かって来たので、振り払うように反射的にアッパーをお見舞いしてしまった。
ペギョッ、という音と共に遥か上空に飛んで行き・・しばらくしたらうまい事、俺達の休憩スペースに落ちてきた。
もちろん死んでいたが、危険なので上空に打ち上げてはいけないとマリッサに怒られてしまった。
態とじゃないんだ・・・・・。
あ、謎の木の実は割れたよ。
労力に見合わないような、小っさい白い粒が入ってて、一瞬でスザクさんの腹の中へ消えましたとさ。
もっと味わえ・・って無理かー。




