価値感は人それぞれ
マリッサの部屋。
俺の部屋よりは幾らか安全だということで連行された。
そこにはスイバの模型や作図をしてある紙の束、黒板のようなボード、縫い合わせた布や皮が並んでおり、女の子の部屋という感じではないが、独特の匂いがした。
全然ドキドキしねぇ。まぁ、お家の部屋にも案内されてるし、今更なのかもしれないが。
明日の予定を話すと、当然、同行すると言う。
ちょっとマリッサにはきついと思う。
それに狩りも危険だが、呪術師に狙われるという危険もある。
ぼかして伝えたが、覆らなかった。
まぁ、伝えたら付いて来るとは思ってたんだけどさ。
で、そんな話はともかくと、防具を見せられた。
「そんな話」じゃないんだけどなぁ。
腰当て、膝当て、靴がマリッサのアイテムボックスから取り出される。
これを見てほしいそうだが、見ろっつってもなぁ・・・。
「どうかしら?」
どうもこうも・・・まぁ・・普通・・・・・・?
ついでに、と言った感じで、先日俺がCCして手直しした防具も取り出す。
俺の鍛冶キャラは150レベルを超えたくらいだ。
俺の記憶が間違いなければ153・・154???155かもしれないな?ともかくそれくらいなので、マリッサとの差は歴然。
師匠レベルの奴が手直しして、仕上げをしたんだ。
マリッサだけが手がけた装備も、別に作りが悪いわけじゃない。
丁寧な縫製がされているし、腕も上がっている気がする。が、こうやって並べられると・・・。
「上下での色違いなら・・まぁアリなんだろうけど・・・。なんだろう、ちょっと浮くな。」
「そうなのよ。コーティング剤も品薄だし、ましてや色物なんて扱ってないから、コーティングはしていないわ。技術面での不安もあるし・・。
縫製と、革に元々施されていた加工しかされてないから、まるで別装備なのよ。
『まるで』なんて言ったけど、実際に別物ね。ランクが違うわ。だから、新しく作った分が完全に浮いているのよ。
ねぇ、ちゃんと依頼するから、前に手直ししてくれた人に頼んでくれないかしら?」
なんとコイツ、金塊を渡してきやがった。馬鹿じゃないの?
いつも俺の金銭感覚を馬鹿にするけど・・・馬鹿じゃないのッ?!
「お前・・適当な金は持ってないのか?
俺は金の相場なんか分からんから、お釣りをどれだけ渡せばいいのか分からないんだが。」
「何言ってるのよ。丸ごと受け取りなさいよ。
リフレは、そこから革に使ったお金と、手間賃と、繋ぎの手数料を取るのよ。」
・・・馬鹿じゃないのッ?!
やっぱり、適度に崩した金が無いんだろう?
なんでも、前に手直しをしてもらったので、腕は知ってるし信用できる。
前回も、分相応とさえ言える強化をしてもらったので、報酬を出すべきだった。
この装備が揃えば1セットとなるので、念願のセット装備である。
これからの事を考えても、報酬も無しに依頼するわけにいかない・・・とか。
「いや、おかしいだろ?!金塊だぞ?しかも、元はマリッサが作ったやつだろ?
それを手直しするだけなんだから、これは無いだろ!」
元手は安いグミー代くらいしか掛かってない。
そもそも、元々持ってたアイテムなので、購入した訳でもないから金が掛かってない。が。
「うるさいわね。それだけの価値があるっつってんのよ。
それだけの技術を持った人に頼むんだから、当たり前でしょう?
仲間だからって蔑ろにしてんじゃないでしょうね!?
ちゃんと報酬を出さないと、鍛冶屋が離れるわよ!」
いや、本人なので離れようがないです。
まぁ・・・マリッサがそこまで言うのなら受け取っておくか。
でも、ずっと俺が持ってる事がバレるのは不味いよな。
結構な重量もあるし・・ギルドの預かり所にでも入れておくか?預かり所じゃなくて、クラン倉庫か。
いざという時に金塊が無くて困る・・なんて状況は思い付かないし。
「・・・さすがにガメたりしないと思うけど、ちゃんと渡すのよ?」
・・・仕方ない、鍛冶キャラもクランに入れるか。
それで名目上は誤魔化せる筈だ。財産を共有しているという形で。・・言い訳としては苦しいか?
「渡した」と言えば済む話だが、いざという時に俺が持ってたらおかしな事になる。
マリッサの勘はヤバい。何かの弾みでバレないとも限らない。
そんな時の言い訳ぐらい、用意しておかないと、絶対に大変な事になる。
「もちろん、分かってるよ。」
「・・・・・分かってるならいいのよ。」
今の間は何ですかね?!
あと、「ニャンコに聞いてるかもしれないのだけれど」と前置きして、俺のサブキャラの防具を預かっていると伝えてきた。
現在、塩を落とすための洗浄を終えて、細かいメンテナンス中なのだそうだ。
すぐに必要かと聞かれたので、すぐには必要ないと返答しておいた。
マリッサの防具は直ぐには使わないようなので、俺が預かる事になった。
なぁ?そもそもこれって、船に乗る前に装着するつもりで作り始めたんだよな?
親父さんが引き止める為に「これぐらいのレベルのやつでないと」みたいな事を言ったせいで、マリッサの装備レベルを超える物になっちゃったんだけど、これを本末転倒と言うんじゃないのか?
俺がそれを聞くと、マリッサは衝撃を受けたような顔をしたが、すぐに立ち直った。
「ふ・・目先の結果の為に目的を忘れるなんて、ドワーフにはよくある事なのよ。何も問題ないわ。」
大問題だろう?!




