擦り付け合い
ギルマスが何か話したそうにしていたが、そうはいかなかった。
国境警備隊の連中に囲まれたのだ。そして、代表者から長々と嫌味をいただいた。
一言なら聞き流した。1~2分、いや5分までなら受け流した。
それをいつまでもネチネチ、ネチネチと。うぜぇえええ!!!
しかも、同じ話がループしている。これは何時間コースだ?
既に体感では1時間だが、2~30分はこうしている気がするな。
その上、こいつ、息が臭いんだ。
一応、美形のエルフなだけに、最初は違和感だけしか感じなかった。
が、言ってることといい、やってる事と言い、職場の脂ぎった中間管理職の糞親父共と何ら変わりは無い事に気付いてから、イケメンは関係無いと気付く。
ムカつくもんはムカつく。イケメンに限らず。
俺のフラストレーションは限界を突破していた。
「俺達、足を引っ張りましたかね?」
嫌味である。
出発式で同行者呼ばわりされて「足を引っ張るな」と言われたのだが、実際に足を引っ張ったのはこいつらだ。
先行して、どこか別の場所に向かうものだから、現地への到着が遅くなったし、その上、どっかで船の底を引っ掛けて来て、船を交換しろとか無茶苦茶な要求をしてきたのだ。
「少しは役に立てと言うのだ!クラーケンに襲われたとはいえ、一日で引き上げる馬鹿がどこにいる!」
「予定通りです。で、貴方方はどれほど役に立ったんですか?」
ちなみに、既に成果は無しと聞いている。
「貴ッ様ぁぁああ!貴様らが現地に残っていれば、成果を上げられたかもしれぬのだ。
勝手に持ち場を離れておいて、いけしゃぁしゃぁと!!!」
お話にならないようだ。
「持ち場?俺は聞かされてませんが。
そもそも、俺がギルドに発注した編成に、貴方方が加わること自体、当日知りました。
作戦も、報告・連絡・相談の1つも起きなかったので、当初の予定通りに行動しました。
その後、後から合流してきた当初の予定に無かった貴方方が、船を要求してきましたが、それは道理が通らないので突っ撥ねました。
貴方方に足を引っ張られこそすれ、俺達は最低限の接触しかしてないですよね?
それで八つ当たりをされても困ります。」
相手さんがイラァッ・・としたのが分かった。
さっきまでの俺と同じなので。
「道理が通らぬのはお前らだろうッ?!八つ当たりとはどういう意味だ!!」
ふむ。
これだけ、しっかりと俺がおかしいと思う内容について話をさせてもらったのに、引っかかるところがそこだけとか。
都合の悪いことは聞こえない、覚えないってか?
しかも、己こそ正義みたいな感覚で喋ってる。相容れそうにない。
「なぜ道理が通らないと?我々はちゃんと、予定通りに行動してますよ。
貴方方が勝手に普段、使っているルートから外れた時もコンタクトを取ろうとしましたし、航路を完全に外れた時も合図をしましたよね。
まるで存在しないかのように無視をしたのはそちらです。
予定外の別働隊、それも連携が全く取れないなら、完全な他人ですよね?
それが、どっかで座礁して遅れてやって来た上に、船は壊れたから寄越せ?赤の他人ですよ?
貴方方は追い剥ぎですか?海賊?これで道理が通るのだったら・・ははっ、失礼。
面白い冗談でしたので、つい、笑いが込み上げてしまいました。
それで、そんな方々と共同で何ができるって言うんですか?
こっちは作戦も教わってない、一緒に行動するなら、船の交換をしなければならず、船底に穴が開いてる状態。
突っ撥ねるに決まってるじゃないですか。」
警備隊の中でも反応はさまざまだ。
確かに、と頷く者。そんな馬鹿な。嘘だよね?と周囲を見回す者。
呆れた顔をする者。無反応な者。なんだか知らないが俺を睨む者。
代表者さん?顔を赤くしてプルプルしてますが、何か?
「で、成果があったら自分たちの成果、無かったら、ボロ船の俺達が足を引っ張ったせい。
そんな貢献は御免蒙りたいですね。
おっと、これは仮定の話ですから、別に責めたりはしてませんよ?
それに、作戦の概要も聞いてない我々がいなくなって、何の支障があったんですかね?
これで『お前らのせいで成果が無かった』というのは八つ当たりじゃなくて何だって言うんですか?」
「・・この・・芸人風情が・・ッ・・。・・・いい加減に・・・。」
おっ、キレちゃう?ついにキレちゃう?
俺は言いたい事を言えてスッキリしたけど、そっちにフラストレーション移っちゃったよね。
でも言い逃げする。
こういう時に根無し草っていいよね。
「いい加減にせんかっ!!」
ビクゥッ!!!
雷が落ちたかのような怒声に、思わずノックバックしそうになった。
打撃並みの火力を備えたその声は、警備隊の代表者からではなく。
「船を迎えるにあたり、領主様からこの場の責任者を預からせてもらっている、治安警備兵副長ザシークだ。
報告は既に受けているが、国境警備隊の怠慢及び高慢な態度は、如何ともしがたい。
成果だけ見ても完全に劣るというのに、どうしてこのような態度を取れるのか。
言っておくが、すでに寄航した冒険者は、クラーケン以外にも、シーサーペント2体、ジャイアント・トレヴァリア1体、岩海老1体の討伐に成功している。
このような目覚しい活躍をしろとは言うのではない。成果を挙げるにも色々な要素が必要だ。
これまでも、今回も、成果を挙げられなかったという結果を責める事は無い。
だが、成果を挙げた者に対して、この領地の警備を預かる者として、敬意を払う必要があるのではないか?」
鷲鼻で、ちょっと悪人面をしたイケメンエルフさんでした。
・・・うーん、ちょっと女性成分少なくありませんかね?警備隊ってそんなもん?
あと、警備隊と警備兵って、実はちょっと違ったりします?
教えて!マリッサさん!
・・・・・ここにはいないけど。




