忘れ物
「なるほど、話は分かった。・・でござる。
リーフレッドの居場所には心当たりがある故、見かけたら話しておくでござるよ。」
にんにん。ってか。
俺が機嫌を直したと判断したのか、マリッサが少し安堵したような表情を浮かべる。
釘を刺しておかないとな。
「鍵を掛けた部屋には、鍵を掛けるだけの理由というものがあるでござる。
開かないからこじ開けるという手段は感心しないでござるな。」
「ええ、反省しているわ。この通り・・・!」
「ぎにゅぇっ?!」
マリッサさん、両方の足でアーディの頭を踏んじゃったよ。つーか乗った。
アーディが意思の床を平手で叩いて抗議している。抗議というか、ギブアップ?
よくプロレスなんかで見る光景だ。だが残念な事に、審判はいない。
ちょっと普通に痛そうだが・・まぁ反省なら仕方ない。ってか、マリッサさんがやらせたんでは?
「私はアーディが鍵を開けた時に気付いて、ついでだから入ったのよ。
鍵の掛かった他人の部屋に、鍵を開けて入ろうとか思わないわよ。
最初はどうかと思ったけど、入ったのが私で良かったと今は思っているわ。」
「~~~ッ!!~~~~~~ぅ!!」
まぁ、俺はぶっちゃけ下半身が痴女スタイルでしたからな、はっはっは。しにたい。
さすがマリッサさん、フォローのつもりで地雷を踏み抜く。そこに痺れる、砕かれるゥゥ!
アーディ?本気を出せばマリッサの体重ぐらい押し退けられるだろ。小さいし。
DEFだってそこそこあるだろうし、痛そうではあるけど、そこまで心配はしていない。
まぁ、話は分かった。
あと、入る時はノックをしてね。と締めくくるつもりでいたが、よく考えてみれば、ドアを開ける時に音が鳴るように仕組んでいた筈だ。
それを無効化したとすれば恐ろしいものがあるが、なんとなく騒がしかった記憶もある。
ノックの音、声掛け、仕掛けの音、その全てを無視して寝ていたようだ。
俺の方にも問題はあったな。
次から、アルコールは嗜む程度にしよう。そうしよう。
胸に緩い決意を秘めるのであった。
「それよりも・・。」
うん?何だ?まだ何かあるのか?
「ここに置いてある装備についてなんだけど、――。」
もはや、マリッサはリーフレッドの事など頭になかった。・・少なくとも俺にはそう見えた。
珍しい装備がそこかしこに転がっているのを見て、それに心が奪われているようだ。
海水に漬かってしまって塩まみれなのだと話すと、悲鳴を上げてアイテムボックスに放り込んでいた。
うん。手入れは頼んだ。
さて、俺はCCして、港へ行かないといけないんだっけ。
とりあえず町の外に出るか・・・・・。
この部屋からコイツらを追い出してCCしたとして、ニャンコロノフはどこに消えて、リーフレッドはどこから現れたって話になるからな。
・・・・・。
「ぬ。」
そうだった、装備を外してマリッサの元に置いて来たんだった。
町の外へ出ても、装備が変化しないのに違和感を感じる程には、この世界の仕様に慣れてきたようだ。
ともかく、スキルを駆使して、一気に町から離れる。
例の組織に後を付けられてる可能性もあるので、隠蔽スキルも使った。
さすがに、遠く離れた今、誰かに尾けられているという事はあるまい。
念の為、周囲を伺い、人がいない事を確認する。
CC:リーフレッド
ああ、やっぱ町の外では装備を着けている方が落ち着くなぁ。
ダッシュで町に戻る。
港に直行すればいいんだよな?・・ギルドか?正直、面倒くせぇ。
あっちの討伐対は、俺に関係ないじゃんね。
・・・そう思っていた時期が、俺にもありました。
俺が港に着くと、ギルドと迎えの警備隊が並び、次々と人員が船から降り立っているところだった。
「酷い・・・置いてけぼり・・・・。私の事、忘れてた・・・・。」
ティティさんが、尻尾を小刻みに震わせております。
あー、本気で忘れてたや。
「す、すまん。えーと、そうだ。あの時点で、向こうの口車に乗せられたお前も軽率だったと思うぞ。
あれで、俺が向こうの船に行っていたら、騙されて船を交換させられていた可能性があったんだ。
少なくとも、向こうに下手な危害を加えられる筈が無かった訳だし、ティティが戻るのを待っても、ごねる為に時間を使われるだけだったと思うぞ。
置いて行ったのは悪かったが、下手に絡むと面倒臭い事になったのは確実だ。
こっちにも、こっちの予定があるし、今回はティティが勝手に向こうの船に行ってしまったのが原因だ。
責められる理由があるのは認めるが、その前にやるべき事があったと思うぞ。」
責任の所在をうやむやにするの術。
いや、忍者じゃないんだから。ちょっとCCのせいでキャラづくりの影響が残ってるわ。
そのうちリフレ・・もとい、リーフレッドで「ござる」とか言い出しかねない。それは危険だ。
「・・・ごめんなさい。」
少し考えた素振りを見せて、ティティが謝る。
「俺もごめんな。本当は、リーダーなんてできる器じゃないんだ、俺は。
周囲の人が考えて行動してくれないと、他の事になんか手が回らない。
だから、こんな事を言う資格は無いんだけど、もっと慎重に行動してほしい。」
俺がティティの頭を撫でると、少し気持ちよさそうに目を細めた後、
「慎重は無理。」
と呟いた。
・・・こいつ、大丈夫か?




