解体しようぜ!
「ライヴォーク材って何?」
俺の疑問を代弁するような声が聞こえて、意識がそちらに向かう。
「あんた、知らないのかい?ライヴォーク材ってのは、斬撃以外に強力な耐性を持った木材の事さ。
折れず、曲がらず、削れず。だから加工が難しいのさ。」
斬撃以外に耐性って・・・何そのファンタジー木材。思わず全力で聞き耳を立てる。
「それで、なんで加工が難しいの?」
「斬撃にだってそこそこ強いから、生半可な腕じゃ切る事もできない。
切れ味を上げた斧は使えても、鋸は使えないし、彫刻刀で削ることはできても、鑢で削ることができないのさ。
だから、伐採から面倒も面倒みたいよ。表面を綺麗に整えるのにも刃物を使わなきゃならない。
緩やかな曲線も、刃物で削らなきゃ出せない。何しろ曲がらないからね。
繊細な技術が無いと、家具どころか小さな皿すら作れない、難しい木材なのさ。
燃えにくいから、後処理も大変だって話だよ。」
なるほど。炎にまで耐性があるなんて、面白いな。
木材って、普通は火に弱いだろう?そりゃ最強とか言われる訳だ。
ところで、その木材に聞き覚えがあったりする訳だが・・。
「そう、普通は握り潰したりなんかできない木材なのよ。」
「模擬戦で折れるなんて事も、普通はねーな。」
背後から近づいて来ていたのは、マリッサとアーディであった。
なんだお前ら。デートか?デートなのか?
「違うわよ!たまたま現地で合流しただけなのよ。」
「一等地を陣取ってたんだけど、手伝わされてな・・。」
残念な吟遊詩人が歌いそびれた模様。ざまぁ。
それにしても、何を手伝わされたんだ?
「かなり序盤の方で、あの虫の解体に挑戦したのよ。
その時の地盤づくりに協力してもらったわ。」
虫じゃないから!海老だから!
そうしているうちに、杭がどんどん地面に突き刺さり、ちょっとした砦みたいになってるんだが・・。
そして、岩海老を持ち上げる大型機材で岩海老が固定され、岩海老の頭と胴体の隙間に大きな斧が当てられる。
「よっしゃ!来い!」
「いくぞ!せぇのっ!!」
ガン!!ゴン!!ゴン!!
頑張ってるなぁ。
しかし、声援を送ってる人もいるけど、みんな、やはりどこかまったりムードだ。
・・・・・・・・。
うん?杭が傾いてきてないか?
「止めろ!くそ、また駄目か・・。」
港の地面に大ダメージじゃねぇか!
さっきから、こんな事ばっかやってんのか?
あの海老、堅かったもんなぁ・・・。ところで鮮度は大丈夫なのか?
鬼族監修の元、ちゃんと冷やしながら解体してる?それならOKだ。
「ちっともOKじゃないのよ。これっぽっちも進んでないんだから。」
雑談をしていると、俺の腕を掴む者があった。なんぞ?
「捕まえたぞ!」
えっ、えっ?
「おっしゃぁ!!これでようやく進める事ができる!」
俺、というよりも俺の武器・・大剣を待っていたそうな。
まぁ・・250レベルの装備だから切れ味は違うわな。
海中じゃないだけマシだろうけど、かなり粘っても斬れなかったんだよなぁ。
はいはい、どうぞ、と大剣を差し出したのに、「せっかくだから」と参加させられた。
何がせっかくなのか・・・。
「ある時は大道芸人。そしてある時は冒険者。町から町へと流れる風来坊。
竜を落とし、大海原を駆ける黒騎士。そう、こいつが今回の立役者、リフレだ!!」
「コケーーッ!」
なぜか紹介が始まり、その場にいた全員の視線が集まる。スザクに。
だいたい、黒騎士は俺じゃなくて装備の名前だろ。
だいたい騎士ってのは何かに騎乗してる奴の事をを指す筈だろ?
俺が何に乗ったって言うんだよ。波に?誰うま(※誰が上手い事言えと言った、の略)だよ・・。
いや、やめてって。せっかくじゃないから。めっちゃ恥ずかしいから。
その、生暖かい拍手をやめて。
「そしてコイツが、2つと無いリフレの相棒。“人喰らい”もシーサーペントも切り裂いた、ドラゴンキラーだ!!」
「「「ワァーーーッ」」」
いや、それクェイラバスタードソードだから。どこから出てきたドラゴンキラー。そんな名前じゃないから。
「コココ。コケーコ。ココッ。コココ。」
「ハハハ、相棒はお前さんだったな。スマンスマン。」
スザクが文句を言い、酔っ払ったドワーフがそれに返事を返す。
いや、何お前ら会話してんだよ。楽しそうだからいいんだけどさ。
「そう、解体はここからが本番だ!!野郎共、準備はいいかァ!!!」
「「「オオオォォォオオ!!!」」」
ドワーフさん達、よく喋るなと思ってたら、ほぼ全員がすでに出来上がってました。
何、飲みながら仕事してんだよ!コップを掲げるな!これは乾杯じゃねぇ!
だからといって作業が進まないかといえば、そういう事も無く、どんどん場が整えられていく。
土台も、ちゃんと杭を支える為の杭から打たれ、さっきまでのとは気合が違う。
「え、最初からこうしてれば良かったんじゃね?」
思わず呟くと、マリッさは溜め息を吐きながら答えた。
「最初の2時間ぐらいは、ずっとちゃんとしてたのよ。後半は、どっかの風来坊さん待ちだったわ。
今日中にリフレが現れなかったら、腐る前に穴に突っ込んで蒸し焼きにする、なんて話まであったのよ。」
蒸し焼きか・・それはそれで美味そうだな。
加熱したほうが剥きやすそうだしな。
ゴロゴロと大仰な音を立てて運ばれて来たのは、除夜の鐘を付くような、ごつい吊り下げ式の槌だ。
そう、前にドワーフさんが言ってた破城槌というやつである。
岩海老を吊り上げている大型の木製機材と合わせて、ものすごい迫力である。
ちょっとシットリしてて気持ちがよろしくないのと、思ったより冷えてないけど大丈夫か?と・・ツッコミどころは満載だが、胸に秘めておく。
俺がここで剣を差し込む感じで構えていればいいんだな?こんな感じか?
OKが出たので、危険が無い程度に腕を伸ばして柄を掴み、待ち構える。
「いくぞ!せぇのっ!!」
その瞬間、死んでいると思っていた岩海老が尾を跳ね上げた!
えっ
「「「「「あっ」」」」」
ドゴォ!!
俺は、ドワーフ十数人分の威力の破城槌を上半身に喰らい、杭と槌に猛烈なプレスを喰らったのであった。




