周辺状況
ちゃきちゃき吐いてもらう。洗いざらいな。
もちろん声は抑える。
ワイズは、組織の末端も末端。使い走りのような事をさせられているみたいだ。
怪しい組織だと感じてはいるみたいだが、金や仕事が貰えるので、気にしないんだそうだ。
中身を見てはいけない荷物の運び屋も、その仕事の1つだが、何を運ばされてるか分からないんだろ?
不安じゃないのか?
今、安定した生活ができているのは、その組織のおかげ?気にしなければOK?
さよか・・・。
傭兵団のを結成や、魔法使いの情報で金一封をもらえるだとかも、実際にマージンをもらったりしたそうだ。
その組織が何故金を出すのかは不明。
「知らないけど金になるからいいんじゃない?」という認識だった。
「気にしなさ過ぎだろ!」
さすがにツッコミは大声になってしまった。
とにかく、その組織はやばい。関わっちゃ駄目なやつだ。
末端なので監視とかは居ないみたいだが、末端だからこそ簡単に切られてしまう可能性がある。
切られるのは「君、明日から来なくて良いよ。」という意味ではない。命ごと、闇に葬られてしまうと言う意味だ。
それに、ニャンコロノフ限定だが、俺とは敵対関係にあると言える。
それでも、よく目立つ目印が付いているので、俺と行動したとあっては変に勘繰られかねない。
実際、マリッサも浚われたしな。
「俺の仲間が、お前の所属している謎の組織に襲われている。
スザクを目印にしていたみたいだから、係わり合いになっているのを知られたらやばいかもしれない。
おそらく、逸れたスザクを保護してくれた人と揉めたか何かだと思うが、同一組織なら関係者と看做されるかもしれないぞ。」
一応、忠告してみた。
仕事が無くなったら困る、程度の認識かー。
ちょっと厳しいな。
「危険なんだぞ?わかってるのか?殺されるかもしれないんだぞ。」
誘拐されて助けに行った時に戦闘になった事、殺傷武器を所有しており、常識的な話し合いの効かない相手である事を説明する。
「そうは言うけどな、こんな生活だ。多少の危険は覚悟の上だ。
どうせ、何もしなければ野垂れ死ぬだけだし、それならギリギリまで抗うさ。」
何かやって死ぬか、何もせずに死ぬかの2択なら、少しでも可能性のある方に賭けたいと思ってるみたいだ。
ただの馬鹿なんじゃなくて、少しだけ安心したが・・そっち賭けちゃ駄目な方だから!
「おにい・・ちゃん?」
妹さんが身を起こす。その姿や声は、やはり老婆そのものだ。
呪いが消えたから、自然回復で少しだけ元気になったのだろう。
MPが無くなっていく病気だっけ?
「MPポットはまだあるか?」
「ポット・・・?MP・・ 魔力回復薬の事か?」
うん、それで合ってる。
まだ薬の時間じゃない?朝の分は飲ませたし、薬ならさっき飲ませたじゃないかって?いや、そうじゃなくてだな・・。
俺の出した薬は、根源の呪いを解くものだから、魔力の回復はしないんだよ。
説明をして、見せてくれたポットは
[魔力回復薬 微(劣)]
どう見ても一時凌ぎの気休めじゃねぇかっ?!としか思えない物だった。
「はぁ・・いい。俺のを使え。あと、飯は食えるか?」
病み上がりに必要なのは、十分な栄養と睡眠だろう。
機能の夕飯が干し肉とか、病人嘗めてんの?!死ぬの?ってかマジ死ぬだろ?!
むしろ、よく今まで保ったもんだわ。
栄養があって消化のマシそうな、卵と野菜のサンドを渡す。
本当は、お粥とかがいいんだろうけど、手持ちが無いし、下手に作って香りで周辺住民が寄って来ても困る。
野菜は消化酵素が出るとか言う話もあるし、大丈夫だろ。
よく噛めよ。
ワイズは羨ましそうにしてんじゃねー。
「私は全部食べられないから、おにいちゃん食べていいよ。」
病み上がりの妹に気遣われてんじゃねーか。こら、手を出すな。
本気にしてんじゃねーよ。本気で食えない奴ってのは、口に入れる時にしばらく固まるんだよ。
口に入れるまでと入れた後に迷いは無いし、少しずつでも噛んで飲み込んでるんだから、待ってやれ。
うん?よく見たら、皮膚に張りが戻って来てる・・ような気がするな。
ワイズにもミックスサンドを出してやる。
そういえば、飲み物が無かったな。MPポットは飲み物のうちに入りますか?
じゃなくて。
そういえば、レベルのことを考えても、回復薬は少しで足りるはずだ。
自分のカップはあるかと聞くと、あると言うので出してもらい、汚かったので洗い、MPポットを水で割って出してやる。
少なくとも、その微と劣が並んでる、量の少ない回復薬よりはマシな筈だ。
ああ、こっちじゃ水は金を払って買うものなんだっけ?
カップを洗って水を捨てただけだ。「勿体無い」って顔をすんじゃねぇ。
大体、湖が近くにあるんだから、水なんて使い放題じゃないのか?
使わせてもらえない?なんでまた・・・。
ノルタークの水屋みたいな商売をして、一部の者が湖を独占しているのだという。
ノルタークほど高くは無い・・むしろはした金程度だが、金か何かと交換したりしないと水をもらえないんだとか。
多くはないし味も悪いが、魚が獲れるので、湖の隣の土地さえ守っていれば、とりあえずは食い繋げると。
利権を守りたい気持ちは分かるが、ちょっとがめついよな。
まぁ・・命が懸かっているからな。
湖って広いだろう?どっか入れる場所があるんじゃ?
先住民というか、先に路頭に迷った先駆者(?)に取られてしまい、湖の周辺の土地は余ってないと。
しかも、手桶で汲める場所での争いは本当に熾烈なんだとか。
後でちらっと覗きに行ってみたが、「俺が落ちぶれた時には指を指して笑ってた癖に何だ!また俺を追い落として笑う気なのか!」とすごい剣幕だった。
俺は指を指して笑った覚えも、追い落とすつもりも無いし、何から追い落とすのかさえ分からないのだが、そんな理屈は通じなかった。
いい場所を取っているって事は、それだけ長く、この厳しい生活をしてるって事なんだろうけど、擦れてるってより、ちょっと目がイっちゃってて怖かった。
“言葉が通じるけど、話が通じない人”なんていう例えがあるけど、そっくりそのままの人だったなぁ。
ロープの先に桶を付け、投げ入れて汲み上げないといけない所の方が穏やかなんだと。
湖に流入している川の上流へ行けば・・・って、あっちは高レベルフィールドでしたね。
って事は・・・ああ、ここ、ワープポイントがある筈の安全地帯・・モンスターの進入できない場所だ。
なるほどな。ゲームの世界では狭く感じたが、こんなに広かったとは。
下流は・・すごく広くて浅いらしい。体を洗ったり、洗濯物、そして食器を洗ったり。
どこも浅く、溺れるような事はまず無いが、栄養がいいのか、ぶよぶよとした汚い藻がたくさん生えていて、臭いし滑って危ない?
そこで水を汲んだが、腹を壊した事がある?
最下流はトイレとして使われているのか。
そりゃ使えねーな。




