カネと仕事と
うーん、なんか引っかかるけど思い出せない。
まぁ、思い出せないって事は大した事じゃないな。
困った事って言うと、やはり金だった。
何をするにも金が必要だが、金を稼ぐには仕事をしなければならない。
その仕事が無いんだそうだ。仕事なぁ・・・。
盗賊のおっさんらも、仕事ができないっつってたな。今頃どうしているやら。
服がまともな者は、運が良ければノルタークで日雇いの仕事ができるのだという。
・・と言っても、予約制みたいなところがあり、気が向いたから行った、はい仕事もらえたなんて話ではないらしい。
何しろ、ノルタークまで徒歩で丸一日以上はかかる・・・うん、そうだよね、ちょっと距離あったよね。
下手をしたら馬車に乗るとか、人員を募って行くような場所だ。
とてもじゃないが、日々を生きるのに必死な人が行ける距離じゃないらしい。
だが実際、そういう余裕を持ったホームレスというのは多く、宿代のかからない生活で現状維持を続けていれば、十分に再起の目はある。
一時的に家を失ったけど、家を売ったお金で余裕のある生活をしているという者や、家を買う金を貯める為に、宿無しの生活をしているという冒険者なんかもいるそうだ。
採取などは、こんな生活をしていると自然に身に付くんだとかで、ある程度手に入れたら町に売りに来るんだとか。
他、海岸でゴミ拾いをして、使えるものを売って生計を立てている者が多いそうだ。
あの辺は匂いがやばかった。スーパーで買った魚・・例えば刺身のパックとかあるとするだろ?
あれの残り汁?の着いたやつを常温で翌日まで放置した時の匂いって知ってるか?あれを濃縮した感じだ。
(※:中身は新鮮なうちに良伸がおいしくいただきました。)
それだけでも相当嫌な匂いだが、、加えて生ゴミや海草?の香りを混ぜたような感じ。何か、変なガスが出てるんじゃね?って思ったよ。
だって、目に来たもん。あんまり臭いと目に来るんだな。
ガスカンクの時も思ったんだけど、臭いってDEF(防御力)じゃ防げないもんかね?威力高過ぎるだろ。
風があったのが救いだった。気分が悪くなって引き上げたが、あれは働く環境じゃねぇ。
海の幸は食べないっつってたけど、あいつら何を拾ってるんだ?
メインはアクアグミーのかけららしい。
重さで取引され、高くは売れないが、一定の収入になるそうだ。
ただ、死骸かと思って回収しようとしたら襲われるという事もあるらしい。
アクアグミーを見付けたら、石礫などを投げて確認しながら、慎重に拾い集めるものなのだとか。
めったに獲れないが、めちゃくちゃ金になる石や流木もあるという。
発見率なんて、もはやロマンの域だし、見付けたらささっと回収して持ち帰らないと、奪い合いが起きて大変な事になるとか。
どんな石ころと木の棒だよ、それ。
他には、綺麗な石、貝殻、沈んだ船の漂流物など、並べて売れば物好きが買ってくれそうな珍品や、日常雑貨を探すのだそうだ。
時に鍋なんかが流れ着き、生活雑貨として使われたりするらしい。
拾った調理器具はちょっと嫌だなぁ・・・。
うーん、酷い臭気の場所でゴミを拾って売ってっていう切迫した状況には同情する。
大いに同情するが、基本的には、単なる寄付ってのは無しだ。
継続してできなければ意味が無いし、まず受け取る者もいない。
いや、単純な意味でなら受け取ってくれる者はいるだろうが、それが何に使われるのかが不透明過ぎる。
何しろ、運用する母体が無いのだ。意味合い的には個人への投資になるだろう。
持ち逃げからの散在とか・・それでホームレスに逆戻りとか・・うーん、目も当てられない。
頼れる個人・・思い浮かばない。うーん、受け皿が無いとなぁ・・。ノルタークの教会は何をしてるんだろう?
アーディはどっかの教会の孤児院出身だって言ってたな。
コランダの教会にも顔を出していたし、聞いてみるか。
まぁ、頼れるのかどうかは別の話だが。
抜本的な解決を望むなら、やはり仕事を見付ける事になるわけだが・・仕事なんて無ぇよ!
冒険者がいれば、レベル上げくらいは手伝ってやれるが・・支援職じゃないから、困った時の護衛くらいにしかなれない。
支援職にCC?仮面を隠して、縁も縁も無い奴が?
怪しすぎだろ。俺なら絶対に着いて行かない。
それに、この辺りは低レベル帯の適正狩場が少な過ぎるしなぁ。
ちょっと遠出すればいけるんだけど、普通の歩行速度じゃ日帰りは無理だ。
馬車を使っても数日かかるし、そこまでする旨味ってあるか?
そもそも、馬車の調達から問題だったりする。
この辺で冒険者をやるなら、フォレベアくらいは狩れないときついんだよなぁ。
そこまで育てるとして・・どれくらい時間が掛かるだろうか?
正直、きつい。
アーディやギルディートくらいのレベルがあればいけるが・・。
見たところ、ワイズはマリッサくらいの強さも無さそうだ。
え、そもそも冒険者じゃないって?どうして冒険者の真似事なんか・・?
賞金の事もあったし、名乗ればなれる職業だから?名乗れば誰でも冒険者なのか・・。
まぁそんな“自称”冒険者はともかくとして、この辺りに冒険者はかなり少ないそうだ。
地方で力を付けた冒険者が、力試しにこの地に来るので、そこそこの賑わいはあったのだが、不況の煽りを受けてクエストが減り、首都に行ってしまったのだそうだ。
仕事のある冒険者は宿を取っているし、仕事が無い冒険者は他の場所に流れる。
家を買いたい冒険者だって、稼ぎが無ければどんなに節約をしても家は建たない訳で・・。
それに、意気のいい冒険者は、シーサーペントや海の虫の討伐で死亡・負傷し、引き上げてしまったんだそうだ。
冒険者なら、土地に縛られなくても仕事があるからな。
そうか・・ここに冒険者はいないのか・・・。
とすると、あまり頼られても困る、俺のようなスタンスの人間には、本当にできる事なんて無いな。
定着するつもりが無いから、「いなくなったら困る」人間にはなりたくないのだ。
責任ってものを被るのは昔っから大嫌いだしな。
逆に金になる話っていうと、何かあるのか?と聞いてみた。
中身を見てはいけない荷物の運び屋だとか、人を集めて傭兵団を結成すると仕事がもらえるだとか、魔法使いの情報に金一封をもらえるだとか、なんだか怪しい情報ばかりだった。
プルタブを集めて車椅子と交換する的な。
あれ、交換してもらえないと知ってガッカリした人が、交換してくれる会社を設立したとか言ってたよな。
嘘から出た真というか・・そんな話はさて置き。
「置くのかよ!いや兄貴、本当にいい情報なんだって!
知り合いの魔術師とかいたら紹介してくれないかな?
兄貴の強さなら、傭兵団を結成してリーダーやってくれれば、みんな付いて行くと思うぞ。」
耳をピコピコ動かすな。
フードを被ってた時には気付かなかったが、髪の色や髪型といい、耳の動きといい、ギルディートに似ていやがる。
顔が残念なだけに、何とも言えない気分になるからやめるんだ。
そのギリギリ貧乏な服とかまで・・・。後姿だったら完全に見間違えるレベルかも。
うん?
「ちょっとお前、後ろ向いてみろ。」
「えっ、な、えっと?・・・こうか?」
あの日。
ギルディートと間違えて他人を尾けて行き、謎の組織に遭遇した訳だが・・。
ワイズ。
その元凶の男が目の前にいたのだった。




