あっちへウロウロ、こっちへウロウロ
いつもの海岸に出てみたが、そこも人はほとんど居なかった。
早過ぎたせいか、“スイバ”の開発に区切りが付いたせいか、それとも主要なドワーフさん達が飲み会などの影響で寝過ごしているのか。
その辺をウロウロして、町に戻る。
ギルドで、昨日聞いた湖のある場所や、漂着の海岸の場所を確認した。
午後になっても予定が入らなかったら行ってみるつもりだ。
その辺の適当な店に入ってみたが、やはり案内人は必要だと思った。
女性の下着の店なんて、外観で分かるようにしておいてくれよ。
服屋や武器・防具屋、魔道具屋に雑貨屋。食品を扱う店、酒を扱う店。
飲食店は、とりあえず持ち帰りメニューを2~3種類頼んだ。
ボールペンで何処の何て店の何て料理かをメモしたので、食って美味かったらまた来る心算だ。
菓子の店もあったので、ちょっと多めに仕入れておいた。
素朴でなかなか美味しいお菓子が多い。
ただ、どこも似たような物を置いてるんだよな。
この世界にもクリーニング屋さんがあるのには驚いた。
普通の服よりも、防具のクリーニングがメインみたいだった。
服の直し、靴の直しをやってる店も近くにあった。こりゃ便利そうだな。
時計屋さんを発見。
あった方が便利だと思うが、たとえば待ち合わせをするにしても、仲間も持ってないと意味が無いんだよな。
試しに購入。アイテムボックスに入れたら「時間がズレるぞ」と言われた。
アイテムボックスの時間停止は普通みたいだ。
楽器店。
そんなに異世界っぽくない楽器が並んでいる。
こう・・見た事のないファンタジックなのがあったら良かったのに・・。
オルガンの鍵盤も元の世界と同じだ。
試しに弾かせてもらえた。
ドレミファソ~♪
うん、同じだ。
ただ、ちょっとレトロだった。
めちゃくちゃ漕がないと音が鳴らなかった。ほわーんと、ぼやけたような音しか出ないし。
力加減を誤ったらぶっ壊す自信があったので、お礼を言って他の物を見せてもらった。
ギターっぽい楽器があったので手に取ったけど、音がめちゃくちゃだった。
チューニングされてないのか、それともそういう楽器なのか?
異世界の勝手が分からないので、そっと棚に戻した。
ギターの簡単なチューニングならできるけど、知ったかぶって壊したら洒落にならんからな。
アーディの楽器は珍しいのかな?その楽器店には無かった。
歩き回ってたら、あっという間にお昼になってた。
最初にギルディートに紹介された飯屋に行くと決めていた。
あそこのおっさんに、海の幸について聞かれてたからな。
しかし、最初に会ったオッサンは出掛けたとの事で、別の人が対応してくれた。
ほう、港に行ったのか・・。珍しい食材を手に入れに?それはまた・・・。
普通においしいご飯をいただいた。
もちろん、持ち帰りメニューもね。
港に行こうかと迷ったが、ゲームではセーフティゾーンになっている湖の方に行く事にした。
橋はあっちかな?こっちかな?となかなか見つからずに困ったが、海沿いから川を遡ることで橋を見つけ、なんとか湖の周辺の集落を見つける事ができた。
それにしても、すごい・・町並み?違うな。
カラーバリエーションは少ないが、行楽シーズンのキャンプ場みたいな事になってた。
どれだけ人がいるんだろうな?
聞き取りをしてみると、病気とは関係なく路頭に迷う羽目になった人も多いみたいだ。
畑などもあったが、盗まれないようにと常に見張りが付いていた。
空気がピリピリしていて、あまり居心地は良くない。
漂着の海岸にも行ってみたが、ガツンと鼻を攻撃してくる異臭がすごい。
流れ着いた魚なんかの死骸が腐っているらしい。やばい、気持ち悪くなってきた。
おえっぷ、・・駄目だ、ここにいたら頭がおかしくなりそうだ。避難しよう。
息もできない悪臭に、頭がくらくらする。
悪臭のせいではなく、酸素が欠乏しているだけかもしれないが、何にせよ体に良くないのは確かだ。
縄張り争いみたいな小競り合いが何箇所かで起きていた。
イライラするのも分かるよ、酷い匂いだもんな。
どこかにいるだろうと思って、質素な鎧の男を捜してみたのだが、どこにもいなかった。
・・・と思ったら、声を掛けられた。
「兄貴!やっぱり兄貴だ。どうしてここに?」
普通の格好をしてたら埋没するような、本当に普通の顔の青年である。
みんなと似たような襤褸を纏っていたので、全く気付く事ができなかった。
あの怪しげな格好は、普段してないんだな。え、あれも拾ったのか?
で、どうしたんだ?売ったのか?売ろうとしたが値が付かなかった?その上、壊れた?
まぁ、海で拾ったんなら相当痛んでたろうな・・。
解体をやってるみたいだけど、依頼は受けなかったのか?
解体に慣れた冒険者とドワーフの希望者で溢れていて、とてもじゃないけど取れなかったのか。
この集落の病人の状況を聞いてみた。
妹ほど酷い病状の人はいないが、状況は良くないらしい。
回復アイテムを買う金が無くなり、病状を悪化させる者が出てきているとか。
うーむ・・・。
何か、こう、うまく解決する手段があればいいんだけどなぁ。
一緒に戦ったよしみで、妹さんに会わせてくれと頼むと、渋々ながら案内してもらえた。
そこは、板張りの粗末な家だった。一応、雨風を凌げてプライバシーはあるが、風が吹けば飛びそうである。
実際、この間の雨風で一度潰れた?マジかよ・・。
お邪魔します、と。
その人は、部屋の角の布切れを重ねただけの布団に包まって横たわっていた。
「――ッ?!」
老婆であった。え、おば・・・お母さんですか?
お婆さんでもなく、お母さんでもなく、間違いなく妹さんなのだという。
そういえば、お母さんは亡くなったんだっけ。不謹慎だったかもしれない。
病状が悪化すると体はだるく、肌の張りが無くなり、まるで老人のような姿になってしまうのだという。
盗賊のおっさん等の集落でも、老人が多かったんだよな。
もしかして、実はみんな若い人達だったりしたのか?
起き上がるのも億劫そうな妹さんを制して、俺は、男に万能薬を差し出した。
「数はほとんど無いが、妹さんと、病状がやばい人がいたら使ってやってくれ。
詳しいことは言えないが、そのうち事態は改善するはずだ。それまで、なんとか辛抱してくれ。」
数が無いというのは、まぁ嘘である。
あると言われれば「ちょっとぐらいいいだろ」って気になるだろうし、勿体ぶったほうが良い。
そうでなくとも、数に限りがあるのだから。
前聖女様の・・・なんだっけ。シャとかそんな感じの名前だった気がする。
シャロン??・・間違ってる気がするな。まぁ、そいつが何とかしてくれる筈だ。
これ以上のアイテム流出は多分、まずい。
だから、他の病人を支援する方法を何か考えたい。
さすがに、病状を目にしてしまえば「俺には関係ないし」と思う事ができない。
ある程度、何とかできるだけにな。
男は少しの間、遠慮していたが、いいから使えと言うと、すぐに妹さんに使っていた。
うん。そう、飲み薬なんだよな。俺、今まで使う時は掛けまくってたや。
効果があったからいいけど、飲み薬としての方が効果が高いらしいし・・。
飲んで使うなら、実数より多く使えるだろう。
他の人はピリピリして話し掛けにくかったので、質素な鎧・・・はもう着てないな。
なんて呼べば良いだろうか?
[ワイズ]
ワイズに、何か困った事は無いか聞いてみる。
うん?ワイズ???どっかで聞いた名前だな??
どこだったっけか・・・・・。




