手持ち無沙汰のうざい上司になった気分
ギルド主導の元、まずシーサーペントの解体が始まったわけだが、ものすごく不評であった。
「臭っ!」「何だこれ!臭い!」「何の匂いだ?!」「めちゃくちゃ臭い!」
臭い、臭いのオンパレードだ。
つっても、海の魚の匂いなんだが、まぁ慣れてない人には異臭にしか感じないわな。
しかもデカイので余計に匂いが立ち込める。
俺は解体は得意ではないが、魚を捌いた経験ならわりとあるので、やろうと思えば手伝えないではない・・と思っていたが、大きさが違うだけでグロテスクさがやばい。
あと、俺が思ってる調理の為の解体と、この世界の装備の為の解体は違うかもしれないしな。
だから、名乗りは上げなかった。こういうのはプロに任せるべき。うん。
「じゃぁ、魚の革で武器・防具は作らんのか。」
「そうだな。だいたい身と一緒に食っちまうかな。
特殊な処理をすれば、鱗は使えるらしいが、俺は職人じゃないから詳しい事は知らんな。
放っておくと乾いて脆くなっちまうから、ちゃんと保存しないとゴミになるぞ。
肥料にするなら塩をちゃんと落とさないとな。」
ドワーフは素材に夢中だ。骨が何かに使えそうなんだとか。
ただ、武器・防具というより、工芸品向きみたいだ。
「標本にして、珍品の好きな金持ちに売れないか?」
「もったいねぇ!・・あ、いや、よっぽど高額で売れるならそれもアリなんだろうが、標本ってデカイほど作るの大変なんだろう?売れるか売れないか分からない物に、それだけの手間と金を掛けて、売れなかったら事だぞ。一か八かじゃなくて堅実にいこうぜ。」
「だが、身に毒があるんだろう?解体するにしてもなぁ。」
ギルド側は、全体状況の把握と未知に近い素材の対処に四苦八苦している。
スザクが突きに行ったので焦った。鶏って魚を食うのか?
とにかく、それ毒だから!敵が死んでいても油断ができないとは。
そして・・・
「どうすんだこれ。」
「どうするも何も、とにかく解体してみん事にはなぁ。」
「だから、どうやって解体するんだ。」
「色々やってみん事にはなぁ。」
岩海老さんが無傷で転がっていた。弱っているが、まだ生きている。
この素材も、特殊な加工をしないとあっという間に脆くなってしまうんだそうだが、現状はそれ以前の問題である。
「ああ。そうだ、あれを使おう。」
「何だ、いい案があるのか。」
「破城槌。」
なんか、物騒な提案が聞こえた気がしたが、大丈夫か?
気のせいや、聞き間違いや、記憶違いじゃなければ、攻城戦兵器じゃないのか?
「ところで、このモンスターなんだがな。まだ生きとるじゃろ。」
「・・・そうだな。」
「止めを刺したら、レベルが上がるかもしれんのう。」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
TFFは、大型モンスターに止めを刺したからといって、経験値を全て持っていけるようなゲームじゃないんだが、命が1つしかないのはもちろん、モンスターの少ないこの世界では、ちょっとしたボーナスステージなのかもしれないな。
ところでさ。やっぱ俺いらねーんじゃね?
見学者や手持ち無沙汰の人が、集まって座っているみたいだから行ってみるか。
「そして、次に現れた時には、2体目のシーサーペントよ。
しかも、シーサーペントを餌としか思っていない、圧倒的な海の王者・ジャイアント・トライバスも一緒に、だ。」
「す、すごい・・・。」
めちゃくちゃ語られてた。何これ、恥ずかしい。
ところで、あのデカ魚ってそんな名前だったっけか?
さっさと去ろうとした時、ポロロロン♪と心地良い音が響いた。
「♪そこは海~ 英雄はひとり~ ただ剣を振るい~ 波を叩き切る~
深き敵は狙い~ 喰らわんと迫る~ 負け無き王者は~ その顎を開く~♪
地を駆るより速く~ 空を舞うように 軽やかに~
そこは水の大地~ 寄せる波しぶき~ 揺らめく水面~ まるで幻想のよう~♪
♪さて英雄は海へと消えり~ 人々は後を追うこと叶わず~
幾許かの希望を燃やして~ ある者は願い~ ある者は祈る~♪
音も届かぬ~ 深海の底~ 悪魔と相見えるは~
運命に導かれし~…♪・・・うん?
あででででで!痛い痛い!ちょっと、俺まだ何も・・・
今いいところ!めちゃくちゃいいところだったよ!
痛いっ!!あでででででで・・・!」
取り返しが付かなくなる前に止めた。「まだ」って辺りが何とも不穏である。
そこ、残念そうにしなくていいから!こいつの歌に銭貨は要らねぇ!
地味に上手いのがまた腹立たしいんだよな。
「またコッコ鳥を頭に乗せてんのか、おめーは!ホント、変わってんなぁ!」
よくクロキシの関係で話・・さないな。よく会うドワーフのおっさんだ。
酒が入って、口の滑りが良くなったようである。
初めて面と向かって変わってるって言われた!PTでも言われた事無いのに!
「変わってるのは今に始まったことじゃないのよ。」
PTメンバーにトドメを刺された!
振り返ると、マリッサがバーベキューの串をに齧り付いていた。
家族連れに分けてもらったらしい。
「いやぁ・・スザク、すぐ死にそうになるし、連れ歩くなら傍に置いとかないといけなくて。
肩だと動くのに支障があるし、頭に落ち着いたんですよ。こいつも気に入ってるみたいだし。」
「コッコ鳥を連れ歩こうなんて考えてる時点で変わってるよ。」
バッサリだった。元の世界に置き換えても、充分変人だった。
旅行先にペットを連れ歩く人はいるが、一応、仕事先に持ち込まない分別はあるつもりだよ!
本人・・じゃなかった、本・・鶏?が勝手に付いて来ようとするだけでさ。
「とりあえず、コッコ鳥を愛玩用にしているところからおかしいのは分かってるのかしら?
何か、言い訳を考えているみたいだけど、おかしいところだらけで、一々指摘するのも面倒なのよ。」
俺がマリッサの口撃で毒殺される日は近いのかもしれない。




