商人達、振舞う
詳細は省くが、その後、リフレは見事、岩海老を釣り上げた。
なぁ・・・今日は様子見だって(略)
もちろん、予定していたマーキングはきちんとこなした上で、だ。
「・・・・・帰るだぁ?」
確かに、予定では日帰りだと言われていた。
予定というやつは、普通、「最高の成果を出した場合」の事だったりする。
つまり、運が良ければ予定通りいくかもしれないが、あくまで予定は予定という事だ。
商人の言う予定は差異が少ないが、だいたい、どこへ行っても予定通りいく事は無い。
昼に待ち合わせだと云った相手が昼をとうに過ぎてから現れたり、3日の予定と言った馬車の旅が3泊4日、もしくは4泊5日掛かったり、1ヶ月後を予定していると云われてた予定に3ヶ月も掛かったり、そんな事は日常茶飯事。
ごく当たり前の事である。
「予定通り」と言われて、「確かに予定通りだな!」と納得できる者は少ないだろう。
確かに、予定にあった通り、制動テストもした。マーキングの設置もした。
その上、予定外の成果もある。だがなぁ・・・。
「スザクが心配なので。」
スザクとは、あの庭鳥の名である。
出発の時に、宿に置いて来た筈の庭鳥が追ってきたとかで、叫んでいたのは知っていたが、どこの世界にに庭鳥の為に航行を切り上げる者がいるというのか。
まぁここにいる訳だが。
何やら、途中で逸れた警備隊と一悶着あったようだが、リフレは全く相手にしていなかった。
一応、相手は国家権力なんだが、見た者の話によると、まるで面倒なチンピラを相手しているような表情と対応だったそうだ。
まぁ、勝手に別ルートを使って座礁して、遅れて来た上に「船を寄越せ」じゃぁ、そんな対応になるのも仕方ない気はするが。
相手さんも、まさか庭鳥の為に蔑ろにされたとは思うまい。
警備隊の代表者を追い払い、さっさとその海域を後にした。
帰路。
まだ復路であることを信じられない様子の者が多い中、俺達は分配について話し合う。
こういう、他グループとの合同合為に於いて、最も揉める事が多い案件だ。
とはいえ、俺達は解体を任されていたシーサーペントを奪われ、クラーケンを船内に投入したという弱みがある。
ここから多くを得るのは難しい。
俺達が持ち歩いていた器具も、注文したのは我々だが、ドワーフ族の手によるもので、同じ物が2つ用意されており、別に俺達がいなくても、どうにでもなった。
というか、この戦果が無ければただの不良在庫であった。
ここぞ、という売りが何も無い。
「で、アナゴの料理とかあるのか?」
だからウツボだって!
頭が無くなってしまったので、切り身も重要な討伐部位である。
もちろん、俺達の判断で失ってしまったので、差し出す用意はある。
・・うん?料理?
話を聞くと、せっかくだから獲れたてをみんなで食おうという話だった。
確かに切り身はかなりの量だが、いいのか?ほとんど仕事をしてない奴もいるぞ。
それに、冒険者はギルドから日当が出る筈だ。しかも、成果があるので別途報酬も出るだろう。
労うっつったって、そういう仕事だしなぁ。
大蛸の被害も、リフレのおかげで抑えられたところがあるんだが、俺達と合流してからは終始、援護に留めていた節がある。
おかげで取り分の主張をできるわけだが、元々は俺達のせいで発生した損害なんだよなぁ。
船が停泊している間も、カードゲームに興じている奴はいたが、飽きて外の空気を吸いに来る者もいたりしたし、大勢が解体の様子を見ていた。
クラーケンと戦った者も多く、ある意味、良い解体ショーであったのだろう。
魚介類の普及の為にも、獲れたてを振舞うというのは悪くなかった。
調理場を借りる。煮物にするにしても、材料が無いな。
ここは、串焼きにでもして振舞うか。・・・手持ちに串が無いな。鉄板焼きだな!
だが、誰だ油を持ち込んだ奴は!片付けろ!船で揚げ物は厳禁だって言っただろうが!
いや、天ぷらは好きだけど・・・そうじゃない!火事になったらどうすんだ!
久しぶりの海の幸に、我々の箍が外れっぱなしだ。
ちょっと引き締めないとまずい。
山葵?ここにあるけど・・ってそうじゃない!それを何処に持って行く?
残り少ないから大事に使ってるんだぞ!
甲板で、から揚げを美味そうに頬張り、山葵を付けて刺身を食うリフレを見て、もうなんか色々とどうでも良くなった。
てか、頑なに前を向いて座るんだな。
そんなに船酔いが恐ろしいのか?
ようやく、帰路への実感が沸いてきた冒険者達が酒やつまみを出し、どんちゃん騒ぎだ。
難所を抜けてからは、船員も交代で加わる。
蛸もウツボも、外面が悪いので恐る恐るといった感じだが、味の方は好評である。
食べるまでに勇気が居るのもあり、ちょっとした度胸試しにと盛り上がっている。
皮さえ見えなければ、そこまで抵抗無く食べられるようだ。
おい、隣の男。その薬、さっきも貰ってただろう?
予備を確保するのをやめろ。そんなだから冒険者に嫌われるんだ。
商人にも嫌われたぞ、今。元々好いちゃいなかったが。
結局、粗末な鎧の男は、何の戦果も上げられずに終わった。
自己申告ならどうとでもなるだろうが、目撃者が多過ぎて、さすがに嘘は付けないだろう。
「兄貴、俺、俺・・兄貴に酷い事を・・・・。」
まぁ、あの様子なら大丈夫だと思うが。
本人は罪の告白をしようと必死な訳だが、リフレは他の奴らに次々と話し掛けられ、ほとんど聞いちゃいない。
おい、その者は酔ってないから。素面だからな。その薬をそれ以上渡すな。
泣いてるのは酒の所為じゃねぇ。酔っ払いだらけで誤解するのも無理は無いが、一滴も酒は入ってねーよ。
それが船酔い以外にも効果がある事は知ってるが、その者に飲ませても効果無いから!
戦いの残滓。それが、冒険者の血を掻き立てたのだろうか。
酒は進み、人は笑い、そして夜は更ける。
まるで、名残を惜しむかのように、ゆったりと船は進む。
この賑やかな宴は、ノルタークに到着するまで続くのであった。




