商人達、奮戦する
書き途中です。
シーサーペントの解体中だが、何しろ得物を持っている物が少な過ぎた。
俺たちの武器は、伝統的に棍棒なのだ。
・・・棍棒を馬鹿にするなよ?
金属製に限るが、剣と打ち合って負けることは無いし、刃物が傷むから、敵も躊躇する。
その上、特別な技術はいらない。
もちろん、上手い下手はあるが、失敗して刃が欠けた・折れたとか、深く刺さった刃が抜けなくて武器を失ったとか、そういう苦労をする必要が無いのだ。
料理をする奴から借りる事にした訳だが・・・。
「なんだ、この冗談みたいな包丁は?」
一応、大物専用の包丁らしいが、使う機会が無かったらしい。
そりゃそうだ。阿吽だって肉や魚は切り身で売っているんだ。
産地で丸ごと仕入れない限りは、活躍の場など無いに等しい。
「これで解体ショーをすれば儲かると思ったんだ・・・。」
なるほど、捌くところを魅せる、解体ショーか。その発想は無かった。
巨大な売り物と珍しい得物で人目を惹くのか。面白いかもしれないな。
俺以外にも、脳みその皺を伸ばして書き入れているような顔をしている者が数名いた。
アイディアはパクられる。――悲しいけど、これ、商売なのよね。
今のは何かって?何だろうな。言わなければならない気がしたんだ。
さて、このウツボだが、魚というよりは上質の鳥肉に似た食材である。
ちゃんと処理すれば内臓まで食べることができる。が、面倒なので、とりあえずは身だ。
骨が多いのだが、あまり大胆に骨を落とすと、食べるところが殆ど残らない。
とりあえず、大きな骨を取り除き・・これも煮込むと最高の汁物になるんだよなぁ。
小骨の付いた身だが、小骨ごと焼いて塩焼きにして食っても旨い。
が、ここは取り除いて刺身だ。
「なぁ。俺、思ったんだけどさ。」
「・・・・・。」
「このデカイ包丁で無理に切るより、小さい包丁で少しずつ切った方が、楽だっ」
「言うな。」
「・・・・・・。」
各自、借りたりして割り振られた包丁やナイフを使い、黙々と作業を進める。
巨大な出刃や柳刃といったイロモノ包丁を受け取った面々は、俺を含めて貧乏くじを引いたことに薄々勘付いているが、現実から目を逸らしている。
さすがに、捨てるところが少ないからといって、血液まで啜ろうとは思わない。
中には、そんな物好きもいるかもしれないが、魚類の血は臭みが強いので、抜くのが常識である。
抜いた血をどうするか?持ち帰る筈も無い。持って帰っても売れないし、料理にも使えないし、すぐ腐るし、腐れば臭い。それも、ものすごくだ。
つまり、その場で廃棄。つまり垂れ流しである。だが、ここは海の真ん中。
そんな事をしていたら、その血に寄ってくるモンスターもいるであろう事は、想定してしかるべきだった。
各自、身を切り分けていると、筏が傾いた。
なんだ、と思った時には、切り分けたアラごと筏を海中へと引きずり込む、大蛸の足が見えた。
「大蛸だ!・・まだ小さい!海中から引き摺り出せ!」
小さい大蛸とはこれいかに。
大慌てでウツボの身を仕舞い、頭をフックに引っ掛けて大蛸を誘き寄せる。
船を引き上げるのに使う滑車とボートを使い、一本釣りだ。
「「「うぉお(だっ)しゃぁあああ!!!」」」
ビターン!という音がして、船内に大蛸が突っ込んでいったが、大丈夫だろうか?
誰か巻き込まれたりしてないよな?一応、格納庫のデッキに人が居ないのを確認した上でやったんだが。
あと、重量級のモンスターであったために、開閉部分の一部が破損していた。
ベキベキ・・・メリッ
というか、現在進行形で破損中だ。
「おい、出て来ようとしてるぞ。」
「なんだと?逃がすな!」
俺達は、棍棒・・・俗に言う金棒を手に、大蛸を叩く。もちろん、物理的にだ。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。
べちん、べちん、べちん。スパーン!バチコーン!ボヨヨヨーーン。
・・・・・。
「なぁ、これ、効いてるのか?」
俺も思ったけどさ!
作戦変更。イロモノの調理器具で切り取りにかかる。
おっ、みるみるうちに再生していくぞ。
「少々味は薄くなるが、再生した足も柔らかくて旨いぞ。切り取れ、切り取れ。」
俺達を嫌がり、大蛸は逃げ場を探して船内へと入り込む大蛸。
水から揚がれば、水中生物なんぞ恐るるに足らずだ。
だが、船内からも攻撃を食らっているのだろう。
なかなか奥に入って行かない。
「足場が無いから攻撃が届かねぇ。」
「お前は棒しか持ってねーだろ。引っ込んでろ。」
狭い足場に乗って包丁を振り回す。
ぼちゃん、と海に落ちた足を、慌てて仲間が回収する。
もうちょっと安全域まで行ってほしいものだが。
「でりゃぁ!」
イロモノ仲間が、船行包丁とかいう、出刃を可愛らしくしたような包丁を投げつけ、うまい具合に胴体にヒットする。
怯んだ!押せ押せだ。
ぷっ、と吐き捨てるように船行包丁が放り出され、あっという間に海底に沈んで行く。
「くそ!もう1本取りたいのに!」
違うだろ。あの包丁、借り物だったろ。
ほら、後ろ後ろ。睨んでる奴がいるだろ。
「だが、船ん中に入ったらこっちのもんだ。逃げ道を塞げ。・・逃がすなよ。」
約一名を除き、俺達は大蛸を仕留めるのに夢中だ。
俺だって、ここまで来たら逃がしたくない。ウツボのアラに、頭も犠牲にしたもんな。
頭だってアラと一緒に煮ればいい出汁が出るんだから、こいつを仕留めて元を取りたいものだ。
元を取る事に掛けては、商人の執念は凄いぞ。
後で知った事だが、ここまで、死者こそ出なかったが、船内は結構酷い状況だったようだ。
俺達が暢気にメニューの喧嘩をしている間に、投げ飛ばされ、捕まり、絞め殺されそうになった者もいたとか。
リフレが何とかしてくれたらしいが、危ないところだったそうだ。
本当にすまんかった。食われた者がいなくて良かった。
別に、人を食ったばかりのモンスターを食うのは嫌だとか、そういう意味じゃないからな?!
「ちなみに俺は、唐揚げ派だ。」
他にもいたよ。暢気な阿吽人が。
数少ない足の調理法を巡って喧嘩していた俺達も、ここまで来れば一致団結である。
何しろ、この巨体だ。すべての調理法を試しても余りある。
ちなみに、外国の人間は、この見た目の醜悪さから、食べようなどとは思わないらしい。
この辺の人達は海の幸さえ知らないと言うのだから、なおさらだ。
・・・旨いんだがなぁ。
「珍しい武器ですね。」
俺達の持つイロモノ調理器具に興味を示した様子のリフレ。
やめろ。そんな目で見るな。違うんだ。
お前が思っているほど阿吽は変わってしまってはいない。
たまたま、これを持ってた仲間がいただけなんだ。
「阿吽には、変わった調理器具があるんですね。」
だから、誤解だーーっ!
最終的に、どうにか大蛸を仕留める事ができた。
見れば、船内はボロボロである。
誰が見ても、大損害である。
「大した損害にならなくて良かったですね。」
もう一度言おう。誰が見ても大損害である。
すまん。
ちょっと、なんというか。こう・・選ぶ言葉が見つからないんだが。
お前の目は節穴なのか?




