商人達、参戦する
その“クッション”の正体を知ったドワーフ族に捕まり、リフレが一瞬、苦々しい表情を浮かべた。
何故か分からんが隠そうとしている?
賞金も懸かっている筈だし、ここで名を上げておけば、あらゆる場所で優遇されることは間違いない。
なのに、何故?
隠すように荷物に仕舞い込んだが、仲間である筈のドワーフの嬢ちゃんに捕まって取り出され、本当に迷惑そうにしていた。
嬢ちゃんは押し潰されていたし、芝居じゃなさそうだな。
ドワーフの男達に囲まれて質問攻めに遭い、最低限の情報を明かしていく。
やはり、この人喰らいは、彼の者に倒されたようだ。
・・・。うむ?
話が飛んだ気がしたので、近くにいた男に聞いてみる。
何か、ドワーフ族の中では納得する答えが出たみたいだが、どういう事だ?
「リフレは人狼じゃと聞く。おそらく、アズルビアのヒューマン族の厳しい偏見と弾圧から逃れ、流れて来たんじゃろう。」
アズルビアってのは、ヒューマン族の多い大陸で、今はヒューマン至上主義で商売し難いんだよな。
まぁ、このエルフォルレもエルフ至上主義なところはあるが、我関せずな雰囲気であちらよりマシかな。
何しろ、至上主義ってのも面倒臭いが、特定の種族を差別し、国家ぐるみで弾圧しているってんだから、性質が悪い。
俺達みたいな角のある種族もその対象なので、ウチでは取引をしていない。
人狼もか。・・・あの者、人狼だったのか。しかし、アズルビア?
いやいや、あの者は阿吽出身だって。
梅干を見て「おにぎり」って言ったんだぞ?間違い無い。
「大丈夫じゃ、誰もお前さんの居場所を脅かしたりせんよ。」
「・・・えっと・・・・・?」
ほら、キョトンとした顔をしているではないか。絶対に伝わっていないって!
なんか演説が始まる。
おっさーーん!
多分、流れの人狼に居場所を作ってやろうとか、そういう善意だと思うのだが、違うからな!
伝わっていないから!ほら、横を見ろ横を!
なんかすげー居た堪れないような顔しているから!!!
あーあ。
なんか、空気を読んで返事をしてたけど、「言わされた」って顔してんぞ。
ドワーフ族のおっさん。満足そうに頷いてるけど、それは余計なお節介というやつだ。
リフレの剣を見て「これならいける」と思うのも無理は無い。それに、自分達で手掛けた装備に自信もあるのだろう。
だが、討伐は生死を分けた勝負だ。約束させちゃいけねーよ。
まるで祭りのような盛り上がりを見せる海岸だが、肝心の主役が全く楽しそうでないのが気になる。
「おい。気にすんなよ。何度も討伐隊が出て失敗しまくってんだ、気楽にいけ。
無理に期待に応えようとかしなくていいんだぞ。肩の力を抜いて、適当に受け流せばいいんだ。」
「はい、ありがとうございます。」
人混みの中なんとか話し掛け、返事は返ってきたが、定型文と言うか「心ここに在らず」といった感じだったな。
何人も話し掛けていたし、奇跡的に受け答えとして成り立っただけで、下手すりゃ殆ど聞こえちゃいなかったのかもしれない。
しばらくすると仲間を連れて、人目を避けるように町へと戻って行った。心配である。
休暇を終え、仲間達に今日の出来事を話したら、商売については半数以上が乗り気であった。
だが、「好機」と見る者もいる反面、資金力が削がれつつあった現状から、慎重論を唱える者も少なくない。
順調でも船で数日かかるが、阿吽からの距離や商売のし易さから、ノルタークは悪くない。
移民も多く、差別も少なく、程良く都会で、道もそこそこ整備されている。
海路さえ確保できていればおいしい町だと言える。これまでも、それなりに儲けさせてもらってきた。
こんな事・・つまり、海路の閉鎖なんて無ければ、貿易が盛んで、もっと賑やかな町なのだ。
ここに拠点があってもいいだろう。希望者の個人的な資金を集めても、もしかしたら何とかなるんじゃなかろうか。
そして、ギルドで討伐隊の参加者の募集があったという話。
これは、まだ“海を走る大道芸人”を見ていない奴からの情報であった。
[一週間後の予行練習と、二週間後の本番、両方に参加できる者。
・非戦闘員…自分の身を守ることができ、雑用をきちんとできる者。
・戦闘員…船に不測の事態があった時に戦える者で、雑用もきちんとできる者。
特に特技のある者を優遇する。見物・戦闘のみの参加は募集していない。]
“海を走る大道芸人”を知らないという事は、あの装備を知らないと言う事である。
なので、殆どの者にとっては「攻略する気の無い募集」に思えたようだ。
あの装備で動く事を前提なら話は別だ。下手に戦闘員が来ても面倒な事になりそうだしな。
情報を共有する。
“海を走る大道芸人”が討伐の為に海上で走っていたと知って、爆笑している者がいる。
何がツボったのか。・・・まぁ、気持ちは分からないでもない。
そして、リフレについて情報を集めてみた。
分かったのは「町の噂では人狼の大道芸人って話だが、曖昧な点が多く、はっきりしない」という事だ。
我々は情報に関して、かなり厳しい目で精査している自負がある。
情報源に辿り着いても「大道芸の中で狼の獣人に変わった」というもので、「入れ替わったのか」「変化したのか」「変装したのか」をハッキリさせる事ができなかった。
ましてや出身地については「放浪中の人狼=アズルビア」という先入観から来るものであって、全く根拠が無かった。
さて、討伐戦の人員募集に話を戻そう。
戦うにしろ、戦わないにしろ、最低限の戦闘能力と雑用をこなす器用さ・心構えは必須か。
見物は当然だが、戦闘のみの参加も駄目か。
「やる気が無い」と思われても仕方が無いな。
この分だと、かなり絞られるだろうが・・あの様子ならドワーフ族が穴を埋めてくれるだろう。
だから、人員不足では中止や延期という事にはならなさそうだ。
さて、俺達はどうするか、だが・・・。
「あの者、人混みを抜ける時、手刀を切っていた。珍妙な格好をしちゃいるが、多分、同郷だ。」
「討伐隊・・支援してやる金も無いし、人員を出してお手伝いするとすっかね。」
「上手くいきゃ、海の幸だ。」
「海に出れば気が紛れるだろうし」「帰るのにも必要だしな。」
割と乗り気であった。
それにしても、俺以外にも「同郷だ」と感じている奴がいたのだな。
俺達は、仕事組と討伐組とを分け、参加者を募って計画と準備を始めるのだった。




