商人達、参加をしたがる
さて、現在ドワーフ族が開発しているのは、海上を掛ける事ができる靴と、海中でも活動ができる服であった。
そんなもの、聞いたら欲しいと思うに決まっているではないか!
俺は、交渉をしてみたが、テスト中のものなので売れないと言う。
そんな馬鹿な!彼の者には売れても、俺には売れないのか?
つい、カッとなってしまったが、彼の者は依頼人であるし、テストに協力してくれているのだという。
開発中のものでも構わない、金なら出す、と息巻いたが、残念そうに見上げられた。
頭?頭に庭鳥を乗せていないと駄目だとでも言うのか?
「角の付いた種族用には開発していなくてな・・・。」
ああ、そう。そうだな。うむ。
靴の名称はスイバといい、自分で何があっても戻れる安全圏内でしか使わないのなら売っても良いと言われた。
しかし、コストがすげぇな!
こんなん、よく成功報酬で受ける気になったなと思わず感心する。
「あの嬢ちゃんに、金の延べ棒で面を引っ叩かれてな・・・。」
身長差と、その庭鳥のでかさで、第一印象が全て持って行かれるような小さい譲ちゃん。だが、とんでもない嬢ちゃんだった。
「使う事は許可されてないけど、モノはあるの。そんなにお金が不安なら預かってるといいのよ。」
と言われたとかで、人質?物質?として十分なものを預かっているのだそうだ。
報酬と引き換えに返却しなければいけないが、実質、あのお嬢ちゃんが出資者な訳だ。
一応、口止めはされているみたいだが、俺に話していいのか?
職人というやつは、こう、無警戒というか、純朴というか。
「あと、最近、素材の1つがよく採れるんだ。」
素材の1つ?
どういう意味かと思ったら、さっそくその素材が流れ着いたという。
流れ着いた素材?
「あ・・・アクアグミーのかけらじゃねぇか!」
このアクアグミー、素材としては大して高くも無いのだが、非常に難易度の高い素材で、冒険者に嫌われており、なかなか出回らない。
通りすがりに見つけた新人冒険者が小遣い稼ぎに拾う程度のものである。
使い道はいろいろある。ほとんどの素材の親水性を高め、雨でも海水でも痛みにくくしたり、伸びを良くしたり。
それだけじゃない、化粧品など、貴族の女性の身嗜みに欠かせない者も作れたりする、
まぁ、代替品がいくらでもあるので、貴重ではあっても重要ではない。つまり、今後も決して値段が高くなる事はない。
その割りに、これを使った化粧品や防具は人気があるので、需要はあるが供給が殆ど無いのだ。
グミー系の中でも、“価値と値段が合わない”と言われ、商人や職人の間ではよく知られる素材である。
時折、漁師がアクアグミーにやられる事があり、溺死は漁師にとって最も屈辱的な死に方とされている。
腕利きの漁師でも、油断していたら殺られる、危険な生物なのだ。
「あの兄ちゃんがあれだけ暴れまわっていればな・・。」
なるほど。
アクアグミーは海で最も生息している、攻撃力の低いモンスターだ。
おそらく、レベルも高くはない筈で、高レベル冒険者がその辺の水面を適当に叩いていれば倒せるだろう。
地上から水面をいくら叩いても「たまたまアクアグミーがいる」なんて偶然に頼るのも馬鹿らしく、仮にいたとしても倒せなければ襲われるので、それをやる者などいないが。
あの兄ちゃんが暴れるほど、衝撃で(勝手に)倒されたアクアグミーが流れ着き、無理に依頼をせずとも簡単に必要な素材が手に入るのか。
テストにもなり、素材も手に入る。一石二鳥だな。
ドワーフ族の事情はだいたい分かった。
本気で開発をしているし、討伐も、おそらく本気なのだろう。
俺達も故郷に帰りたいので、成功するのであれば有難いのだが、「新しい防具を誂えました」で成功する問題ならば、すでに事は成っている筈だ。
既に何度か出資したが、出資した討伐が成功した例が無いからこそ今に至る。
確かに、画期的な魔道具を作ったと思うが、これまでだって多種多様な作戦と、尖った戦力で挑んで敗北を刻んできたのだ。
それに、この討伐を失敗させる「何かしらの意図」を感じる事があるのだ。
もし、この海の道の閉鎖が個人では覆せないほどの大きな流れであるとしたら、抗いようがない。
俺の興味は、次に移る。ここに並ぶ屋台だ。
駄目だと言われて引き下がるような商売人は、商売に向いていない。
利益の匂いがするのだから、寄って行きたくなるのは仕方ないであろう。
・・・・・。
忙しそうだな。
同じ商売人として、決して邪魔だけはしてはならない。
そう思い、人心地付くのを待っていたが、次から次へと材料が運ばれてきて、次から次へと客が来て、次から次へと捌いていく。
話し掛ける間もない。
羨ましい限りであるが、小間使いの子供が多い事に気付く。
「どうしたのかしら?ここで商売するのは駄目なのよ。
貴方は他に稼げる場所があるでしょう?」
頭に庭鳥を乗せたお嬢ちゃんに話し掛けられたので、ついでとばかりにこちらからも話し掛ける。
小間使いの子供達は、この町の貧民街に暮らす者だというのだ。
奇病のおかげで肉親を亡くしたりして、路頭に迷う子供達が多いとは聞いていた。
わざわざ、そんな所を見に行く必要も無ければ、見て面白い事など何もない。
俺達は、そんな“影の部分”を知っちゃいたが、見ない振りをし続けてきた。
最初にここで商売を始めた者が、そういった事情の当事者であった為、ここで商売をしたい者に制限を掛けたのだという。
それが、「ここで商売する者は、商売人の数と同数の貧民街の子供達を雇う事」。
もちろん、同数以上雇ってもいいし、大人を雇う事も(数には入らないが)OK。
他にも最低限の規律は守らなければならないようだが、それは何処の市場でも同じである。
何故、このルールがきちんと守られているか?
そりゃ、これだけのドワーフ族が協力していたら、ルールを守れない者など弾かれるだろうよ。物理的にな。
ふむ、ならば俺も・・と考えたところで言われた。
「言っておくけど、貧民街の子供達はものすごい不潔だし、不健康なのよ?
一から面倒を見るつもりで、ちゃんとしてあげなさいね。」
そこで初めて、今いる子供達がそこそこ清潔にしている事に気付く。
この子達が貧民街で暮らしていたのか?確かに衣服は古いし貧乏くさいが、最低限の補修はされているし、清潔感もある。
日給だけじゃなくて、雇う準備にも金が掛かるのか。
それにしても、誰がこんな仕組みを考え付いたんだ?
前投資が必要で、しかも学の無い浮浪児が相手だと言われれば、商売人なら誰でも尻込みをする。
それで競争相手が増えずに確実な利益を叩き出せているのだから、早期に参入できた商人はウハウハだろう。
結果、雇われた者も仕事を失わずに済んでいる訳だ。
これを崩すような新ルールを持ち込んだらボコボコにされるだろうな。新規参入には厳しい。
最大級の釘を刺され、とりあえず商売の事を考えるのは後にしたのであった。




