夕食はヒーラーさんと共に
教会には、食堂がある。
ゲームでは触れられていなかったが、孤児院として成人するまで子供を4人。
昼は仕事で手が話せない親の為に、保育所として7人もの子供を預かっているのだそうだ。
で、俺は、その4人の子供達、そして教会のヒーラーさんと食卓を囲んでいる。
どうしてこうなった。
「うあぁ~、ごちそうだぁ~。」
そう言って目を輝かせてる舌足らずな女の子は可愛いが。
「イナゴの人だ。」
「本当だ、イナゴだ。」
「なんでイナゴがここにいるんだ?」
そこのいかにも悪ガキそうな3人。ちょっとOHANASHIしようか?
さて、目の前には何かチーズのようなものと緑色のソース・・・バジル?を塗ったパン。
トマトベースのジャガイモと青物野菜が数種類入ったスープ。
そして、半径の大きいにんじんに肉を巻いてを輪切りにしたもの?
いつも、宿のおかみさんに残り物をもらってくるらしいが、今日は特別メニューなのだという。
と言っても、いつもの宿のメニューとそこまで変わっているようには見えない。
・・普段はもっと質素なのか。
「神と町のみなさまの慈悲と恵みに感謝を捧げましょう…。祈りを。」
・・・お?
さっきまで喋繰ってたガキどもが静かに手を組んで祈っている。
俺もやった方がいいのか?これ。
戸惑っているうちに祈りが終わる。
「さぁ、いただきましょうか。」
スッ。
「いただきます。」
・・・。あ。
そんな変なものを見るような目で見ないで。
飯の前に手を組んで祈ってさ、飯を目の前に「いただきましょう」なんて言われたら、つい条件反射的に出ちゃうじゃない。
たとえ普段、やってなくても。義務教育9年+αの刷り込みって相当だよ!
「・・・。いやぁ、宿の食事はうまいなぁ。」
俺が食べ始めると、ほんの少しの間だけ躊躇したようだが、子供達はすぐに食事に取り掛かった。
文化の違いです。受け流してください。
飯の後、子供たちが歯を磨いているのを見かける。
口内を洗浄するのに塩をもらって指で磨いてたけど、あるんだな、歯ブラシ。
メモ帳に歯ブラシを追加。っと。
さすがに指ブラシを人前でする気はないが、俺も口を濯ぎたい。
カップに水をもらう。
みんなはどこで吐き出すのかな?え?ごっくん?
・・・・・。文化の違いか・・・。
教会は小さく、食事をしたスペースを片付けて、そこで寝るようだ。
寝室がないのか・・・。
ヒーラーさんは、教会を1人で管理しているんだろうか?
他に人がいる様子は無い。
俺は外の様子を窺う。
まだまだ祭りを楽しくやってるみたいだ。
就寝時間となると、居づらいんだが・・・。
「あの・・!」
うん?・・ヒーラーさんだ。
自己紹介は済んでるが、ゲーム時代は、どの町でもイベント発生中以外は[ヒーラー]って出ただけだった。
名前は・・・。
[ロニーニャ]
ロニーニャさんだ。
「どうしました?」
なんか聞きづらい事でも聞きに来たんだろうか。
続きをいつまで経っても言わないので、促してみる。
「あの時。ボーラさんに使った薬は、一体何ですか?」
ボーラさん・・・は、フォレビーに刺されて運ばれてきた人か。
死んでたもんな。
みんな死んだと思って泣きかけてたし、誰も使わなかったから、やっぱり珍しい薬なんだろうか。
となると、とぼけた方がいいのか?
いや、あの時、回復魔法を使って手ごたえがない事を確認していた。
下手にとぼけると怪しまれてしまう。
数を聞かれたらごまかすことにしよう。
「これです。」
投げつけると砕けるタイプの、試験管のような瓶に入った薬を取り出す。
万能薬も同じ瓶に入っている粉薬で、ゲームでは瓶ごと消費するタイプだったのだが、瓶からサラサラかけると、瓶を節約できることがわかった。
と、いうのも、最初に瓶を使おうとしたのがマリッサに会った時なんだが、いきなり頭に叩きつけるわけにもいかず、蓋を開けてかけてみると普通に作用したからだ。
この瓶って作るの面倒だし、手に入れるのも面倒そうだから助かる。
グミーを大量に狩らねばならないが、この世界での生産って勝手が違いそうだから、「さぁやってみよう」で出来るとは限らない。
最大の問題は、CCなわけだが。
「・・・!これは一体、どういったアイテムなんですか?」
渡された瓶を、恐る恐る、といった形で受け取る。
お、集中して見てる。俺と同じ仕様なら、[蘇生薬]と出ている筈だ。
「んー。使えるタイミングは割りとシビアだったと思います。
死んでから1分以内に使わないと、・・・多分、効果は無いですね。」
一分以内に使わないと、復活ゾーンに飛ばされてしまう、っつっても「何のことやら」だろうからな。
この世界はゲームじゃない。
自分自身に何度でも言い聞かせる。
「ッつ、・・・つまり、人が生き返るんですね?」
ん?そうだけど?
ほら、[蘇生薬]って出てるじゃん?
・・・。
あるぇ?震えてらっしゃる?
「こ、これは神の御業では・・・・。」
「違います。」
即答してしまった。
ゲームの世界では、500D程度のアイテムだ。
PTを組んで攻略していると、わりと良く使うのだ。
どのキャラでも、間違って切らさないよう1000を上限に、500以上の在庫をキープしていたはずだ。
蘇生時のHPがもっと高いやつは値段も高いので、ずっと数を揃えておくというのは難しく、ここぞという時の為に預かり所に入れてある。
いや、リーフレッドではそこまで溜めてないかもしれないな。
で、リーフレッドはPT向きではないので、蘇生薬の消費が極端に少ない。
辻蘇生用の蘇生草(軽くて安い)と合わせたら、1000人以上生き返らせられる。
うん?この蘇生草、粉じゃないけど・・・どうやって生き返らせるんだ?
これで検証してみれば良かったかもしれない。
いや、あの時は緊急だったな。機会が無いに越したことは無いが、またの機会としよう。
ところでロニーニャさん?神の御業じゃないから。
聞いてないみたいだけど。・・・何かブツブツ言ってて怖いよ。
とりあえず、恭しく蘇生薬を両手で神らしき像に掲げはじめたロニーニャを置いて、そっと教会を後にする事にした。