本日の作戦は終了です
瀕死の岩海老の処遇で困っている。
トドメを刺したいんだが、防御力が高くてそれができない。
だが、うかうかしてたら回復してしまうかもしれない。
何しろ、これまで倒した奴等と違って、外傷らしき外傷が無いのだ。
うーむ。
とりあえず、一旦浮かび上がる事にした。
海底で悩むより、水面に頭を出して悩んだほうがいい。
空気にも限りがあるからな。
「どうした、トラブルか?」
思わず周囲を見回すが、通信の魔道具の効果だった。
すぐ近くにはいなかったが、俺の頭が見えたのだろう。
逆に、俺からは声を掛けて来た男が何処にいるのか見当も付かない。
「いや、岩海老一体を瀕死まで追い込んだ。
気絶しているだけかもしれないから、予断は許さないが、トドメどころか腕一本持って来る事もできないのでどうしようかと思案しているところだ。」
見回しながら返事をしていると、遠くから点が近付いて来るのが見えた。
あれか!どうやって俺を見付けたんだ?
「仕留めたのかよ!マーカーが見えてからも浮かんで来ないから心配してたんだぞ。」
なるほど、浮標ね。
やって来たのは、鬼族の商人達だった。大活躍だな。
まぁ、彼らならトラブルがあっても生き残れる気がするよ。
あれこれやり取りして、ワイヤーロープを渡される。
例によって、引っ掛けて来いという事だ。
そんな船で大丈夫か?って思ったら、浮標のデカイのをアイテムボックスから出してた。
樽の4倍程の大きさのものが4つ。
これを使って岩海老を引っ張り上げ、そのまま牽引するのだそうだ。
準備万端過ぎるだろう。
「討伐の度に持って来ていたが、永遠に役に立つ日が来ないんじゃないかと思っていたぞ。」
なるほど、前々から狙っていたらしい。
帰る為にも討伐隊が出る度に協力してたそうだが、投資しても赤字、参加しても空振りで散々だったとか。
雑談している間にも、4つの浮標が連結され、謎の器具が取り付けられていた。
あれで引っ張り上げるのか。
渡されたワイヤーロープを受け取り、水中に沈んでいく。
おお?岩海老が起き上がろうとしていた。
ちょっと回復されたのか?
マウントしてガツガツと大剣を刺し入れようとしたが、歯が立たない。
あと、さすがにマウントするのは気持ち悪かった。
海老にマウントするなんてなかなかできる経験じゃないが、お勧めはしない。
もう一度救い上げるようにスキルを突き入れると静かになったので、最初から輪っかになっていたワイヤーロープを足のある胴体に一周させる。
これだと上から引っ張るときつく締まるので、もう抜け出すのは難しいだろう。
OK。
声を掛けたが、届いていない。切りやがったな。それとも海底は圏外(?)なのか?
浮上して引き上げてもらおう。
俺が顔を出したと同時に、連結した浮標に移り、器具のハンドルを回し始める。
って、手動かよ!魔道具じゃないの?
こんなにをイチイチ魔道具にしてたら、世の中魔道具だらけになる?
うーん、確かに・・・。
とりあえず、岩海老が復活しかけていた事を告げ、油断しないようにと話しておく。
そして、俺も船に乗せてもらい、一緒に大船に帰る。
今日の仕事はこれでおしまいだ。
「えっ、本気で日帰りするつもりだったのか?」
異口同音というか、異口同言というか。
今日行って、今日帰って来るという俺の予定は、冗談か聞き間違えだと思われていたらしい。
ちゃんと責任者に対し、事前に予定は話してある。
それに間違いなく、今朝も説明はした筈なんだが。
普通は、初日に軽い散策、可能ならマーキング。拠点の安全確認。
二日目から本格的な作戦に入り、だいたい空振り。
三日目、四日目で業を煮やしてこの海を渡ってみようとすれば、シーサーペントが船に食い付き、被害を出す。
運よく見つけられて順調に戦闘を開始しても、シーサーペントに勝利する事は難しく、勝手も負けてもある程度の損害が発生する。
慎重になれば、手ぶらで帰る事になる。
だいたい5日くらい掛けて作戦を行うという事だ。
いや、俺はスザクを置いて来たから、今日中に帰らないといけないんだ。
「遅かったな。待ちかねたぞ。明日の作戦についてだが・・・。」
だから、今更、作戦の話をされても困るんだ。しかも明日の。
当たり前のように、そして偉そうに俺に話し掛けてきたのは、警備隊の代表者だ。
こいつら、どっかで岩に囲まれて、大変な苦労をしてここまで来たらしいが、そんなのは知ったこっちゃない。
一応、こっちからは信号を発したそうなんだが、それを無視して突き進んだわけだし、そもそも、こいつらは俺の作戦の頭数には入っていない。
あと、代表者っつってもリーダーではなく、あくまでこの船に派遣された代表者だ。
要するに、代表者とは名ばかりの、決定権の無い下っ端である。
それでこんなに偉そうにできるのだから、警備隊員の頭の中はどうなっているんだろうか。
「すみません、予定通りに散策を済ませたので、今回の目的は達成しました。
俺達は、一旦、ノルタークに戻ります。予定通り、次回の討伐作戦は一週間・・じゃなかった、6日後です。」
今から帰れば、夜には帰れるはずだ。
スザクはちゃんと宿に帰れているだろうか?変な場所に飛ばされて迷ってはいないだろうか?
まさかとは思うが、捕まって食われたりしてないよな??
「勝手な行動をされては困る。我々の船に移動し、会議に参加するのだ。」
しないよ。そもそも、勝手な行動は警備隊がしてるんだろ?
俺は事前に何も聞かされてない。だから、参加する義理はない。
乗員たちも頷いてるし、俺が特に変な事を言っている訳じゃなさそうだ。
言い争いに近いレベルにまで発展し、
「領主様には我々に従わなかったと報告させてもらう!せいぜい、尻尾を巻いて帰るんだな!」
捨て台詞を残して警備隊の代表者(笑)は帰って行った。
俺達も、準備が終わったので尻尾を巻いて帰るとする。
領主?怖くない訳ではないけど、最悪、CCで何処へなりとも消える事ができるしなぁ。
どういう対処をされるのか未知数ではあるけど、この問題を片付けたいのは領主も同じ筈だ。
それに、ギルドを通して俺の立案した計画は領主に伝わっているという話だ。
警備隊に従えという話も聞いていないし、この報告で悪し様に言われる筋合いも無ければ、報告されて困ることも無い。
その後の領主の対応に対しての不安はあるが、もし変な対応をされたら降りさせてもらう。
達成報酬ではあるものの、職人さんに色々開発してもらったし、ちゃんと買い取れば新装備も手に入る。
もちろん、達成報酬は引き継いでもらわないといけないが。
失敗しろとは言わない。現状、この件で経済が逼迫し、みんな困ってるんだから。
俺無しで頑張ってくれればいいと思う。
甲板に向かうと、クラーケン戦で助けた獣人の男が尻尾を振って付いてくる。
質素な防具の男も一緒だ。まぁ、こっちは酔い止めが目当てなんだろう。
お前らがお姉さんだったら、もっと嬉しかったと思うんだけどなぁ。




