キャラチェンジ無しで決着
こうしていてもキリが無い。
そう気付いた俺は、さっさと浮漂を取り付ける事にした。
バコン!
だから、邪魔だっつの!
相変わらず怒らしい岩海老が俺に体当たりしてくるが、ダメージはなく、それでも跳ね飛ばされるので、ものすごく邪魔である。
何しろ、既に金具は固定された場所にあるので、突き飛ばされれば、そこに戻るまで作業ができない。
いっそ、倒してしまえたらと思うが、こっちの攻撃も通らない。
それどころか、弾き飛ばすこともできないのだ。
浮上させる事ができたら、大剣キャラでもダメージを与えることは可能かもしれないが、スキルを使っても結果は同じだった。
俺にこの岩海老くらいの重さがあれば、もしかしたら通るかもしれないが。
だから、本格的に狩るとしたら、補助キャラに変えるのが手っ取り早いだろう。
シーサーペント戦で、水系魔法の威力に(おそらく)遜色が無い事を証明している。
水中で水のスキルなんぞ、視認性の問題もあるし、地上で使ったことがないので、比べようはないのだが。
ちなみに、ヘルメットの中は俺の吐いた水でびちゃびちゃなので、CCを躊躇う理由はもう無かったりする。
海底に見学者も無いしな。
で、仮にCCを選択しなかった場合、どうなるだろうか?
弓だけめいいっぱいブチ込んで帰った人達の気持ちが、少し分かった気がするな。
やつらが水面より上に出て来ないと打つ手が無い。
そもそも、こいつら、基本的に海底から上に上がって来れないのだ。
スキル:戦意の咆哮の時も、海底でピョンコピョンコ跳ねてたしな。
どうやって認識されたのか?巣の上で背伸びしたら、頭ぐらいは出るかもしれない。
今が満潮なのか干潮なのか分からないが、潮が引くとすればもっと出るだろう。
しかし、冒険者と戦ったのか?
こいつ、体当たりと跳ねるくらいの能しか無いぞ。まるでどっかのコイ○ングのようだな。
まぁ、あれはあれで進化するととんでもない訳だが。
いや、そうじゃない、岩海老の話だったな。
正直、頑丈なだけで脅威ではない。そういえば、ギルドで調べた時か?そんな話も聞いたような気がする。
脅威では無いが、シーサーペントを呼び寄せるって。
・・・・・。
嫌な予感がして周囲を見回すが、別にシーサーペントがポップするという事は無かった。
だいたい、ゲームのように湧き出す訳ではないだろう。・・・そう思いたい。
「あーもう!鬱陶しいなぁ!!!」
浮漂の取り付けが終わり、浮かんでいくそれの行方を見守っていたら、どつかれた。
それだけじゃない。
ヘイ、パースと言わんばかりに2匹掛りで俺を交互に突き飛ばし合いを始める。
ん?今、こいつ噛みやがったか?やはり攻撃力は低いらしく、防具を貫通してくる事もないんだが。
「ていっ。」
何度目かになる攻撃。狙いは頭と胴体の隙間だ。突き上げるように差し入れる。
これなら、相手の重さを利用できるので、俺が自分の斬撃で吹き飛ぶ事が無い。つまり、相手に届く。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
浮力。こいつを忘れていた。
ぽーんと海中を浮き上がった岩海老は、何事も無かったように着地した。
これもダメなのかよ!そして思い当たる。・・スキルを使えば良かった、と。
手ごたえが全く無かった訳ではない。
むしろ、これまでで一番あった。
浮力以外にも、水の抵抗というやつがあるからだろう。
巨体の岩海老は俺よりずっと水の抵抗を受け易い。
つまり、水に体を抑え付けられている・・と言うのは言い過ぎだが、これまでよりも数段ダメージを与え易い立ち位置である事は確かだ。
ならば、CCに頼らずとも、倒す事は可能なもしれない。
スキル:斬首
ガイン!
近接では最も威力のあるスキルを叩き込む。
刃が、硬い殻を捉える感触。ただ跳ね返されていた、これまでと違う手ごたえ。
いける。
そう思い、連撃に入る。
スキルにはクールタイムが存在する。
スキルの反動で、思うように動けない時間だ。
だが、その間の動きを、別のモーションを入れる事で、クールタイムを短縮できる場合がある。
スキル:斬首は使用頻度が低かった為、慣れてないか、何度か試すうちにできるようになった。
俺の攻撃を受けて浮かび上がる相手に、剣を振るった反動を利用しての一振りで接近し、地面に着地する前にもう一撃スキルをお見舞いする。
と、また浮かび上がるので、着地する前にもう一撃。これを繰り返す。何これ、気持ちいい。
俺にも水の抵抗が掛かり、構わずに振り抜くことで水流が発生する。
だが、移動してるお陰で、多少の濁りは気になるが、どんどん水が入れ変わり、行動に支障があるほどではない。いい感じだ。
もう1匹がいなければ、いつまでも繰り返せそうだが、時々このコンボを邪魔してくるんだよな。
そして、結局、その防御を貫く事はできなかったが、執拗に1匹だけを狙って大剣を振るい続けた結果、急に動きを止めた岩海老は、俺のスキルを受け、ついにひっくり返った。
脳震盪を起こしたのか、それともダメージが溜まったのか。
倒れた岩海老の様子を窺うも、もう1匹と違い、機敏な様子は無い。
弱弱しく足を動かすのみである。
倒した・・・のか?
もう一体が俺を突き飛ばし、圧し掛かる。
が、体重負けはしているものの、決してパワー負けしている訳ではない。
むしろ、近接戦闘が得意なキャラなので、この位置ならチャンスとさえ言える。
スキル:破砕杭
俺は、一点を狙って突きの攻撃を放つ。
体制のせいでパワーは乗らなかったが、時間を掛ければ大剣キャラでも倒せない事も無いのだ。
ならば、やる事は・・・・あっ。おい?
今のスキルを脅威に思ったのか、それとも、仲間がひっくり返っているのを見て、察したのか。
岩海老は、こっちに頭を向けたまま、ピョイピョイと後ろ飛びに逃げ出し、巣の中に戻って行ってしまった。
逃げやがった!
一瞬、愕然としてしまい、追撃できなかった。
追撃したとしても、巣に戻るまでに倒しきれる事は無かっただろう。腹は立つが、好都合である。
俺は、海底に背中を預けて弱弱しく空・・じゃなかった、水中を掻く、もう一匹の岩海老に向き直るのであった。




