どう料理してやろうか
「武器庫から、バリスタ船を持って来てくれ!」
さて、本来の作戦の話をしよう。
・まず、俺がボロ船を持って先行し、襲い掛かってきたシーサーペントを牽制してやり過ごす。
・敵が好戦的であれば、距離を取り様子を見、向かってくるのであれば、逃げるか交戦する。
・シーサーペントが巣に戻る様子を見せた場合は、後を追って位置を掴む。
・すぐに位置が分かった場合、巣の位置をマークする。
・・・お分かり頂けただろうか。
初っ端から計画を破綻させてます。すんません。
マーキング用の浮標は預かっているのだが、使ってる場合じゃなかったんだよな。
巣に到達できなかったし。
・俺が浮標をセットした後、マークに向かい、バリスタ船を発進。戦闘を開始する。
・良い位置で止めてバリスタを使用、もしくは投機武器として搭載の槍を使う。
(今回は試運転の為、乗員無しで行う。小船への影響、遠距離攻撃によるバリスタの有用性を調べる。
乗員の必要性、作戦参加への範囲については、ギルドに判断を任せる。)
・俺のスイバとクロキシの性能テストを兼ねた戦闘。
・ある程度データを取ったら逃走、戦闘終了。
という流れだった。
いかにグダグダだったか分かるだろう。
ちなみに、バリスタ船はもともと数が少ない上に、警備隊の船に確保されてしまったので、2台しか乗せられなかった。
「物資は平等に分配した」とか言われたけど、確保したのは俺達だし、お前らの参加は作戦に入ってないっつーの。
という訳で、本来の予定とは使い方が違うが、せっかくだから使おうと思うよ。
職人さんに引っ張られて、荷車に載せられたバリスタ船が2台やってくる。
槍を番え、やる気満々だ。
「狙えそうか?」
とりあえず聞いてみる。提案したものの、相手は船である。
こんな風に稼動させることを前提には造られていない筈だ。
「今、向きを調整している。・・・いけるぞ。」
「こっちもだ。」
2台の準備が整い、荷車の車輪が固定される。
「みんな退けぇぇえ!!」「槍を飛ばすぞ!!!」
戦闘要員が退避・・できずに、また捕まってた。しかも今度は纏めて3人。
吸盤、厄介そうだな。
それ以外の戦闘要員はバリスタ船の後ろまで下がっている。
そして、俺に視線を送ってくる。なんとかしろやって顔すんな。
まぁ、みんなの戦闘を見てたけど、クラーケンへの攻撃は通ってはいるが、傷が浅くてすぐに回復してしまうんだよな。
浅いっつっても、人間の胴に受ければ致命傷だろうし、手足ぐらいなら切り落とされてもおかしくないだけの深さは斬り付けられている。
数人掛りで、半分くらいまで斬り進んだ所もあった。それでも、足を切り取るには圧倒的に火力が足りないのだ。
・・・はい、3人をなんとかして来ます。
「ていっ!この・・おりゃ!・・・おっと。」
クラーケンって割と柔軟らしく、吸盤を避けて攻撃してるんだが、止まると捕まりそうになる。
吸盤の無い部分であっても、後からしっかり捕まえればいいと思ってるのか知らんが、動きが掴みにくくて厄介だ。
何しろ、骨の無い生き物だからな。
せっかく足を1本切り落としたのに、その足ごと別の足が捕まえてる。
切り落とされた足が3人をしっかり吸着しているので、まだ逃げる事ができないみたいだ。
ったく、やり難いったらありゃしない!
「これで・・ どうだっ!」
格闘ゲームみたいな台詞を吐いたが、だいぶ斬り込んだよ。俺。
ついでにとばかりに、その顔面に向けて突進したが、にゅらにゅらと別の足が邪魔をする。
ああ、もう煩わしい!
で、足2本に抱き付かれた3人がそれぞれ別の方に歩こうとしてよたついている。
声に出して連携を取れよ!そして、さっさと移動してくれ!狙われてるぞ。
おい、転んでんじゃねーよ。なんだって?吸盤が床に吸い付いて起き上がれない?・・・知らんがな!
俺も伏せて吸盤を切り取りつつ、職人さんに合図を送る。
ガチャン!バスッ!!ガシャコン
俺達を狙って伸びて来ていた足が止まった。バリスタの槍が命中したのだ。
続けて2本。槍の先端が、その胴体に埋まっている。
俺でさえ、胴体には傷1つ入れられてないからな。さすがは遠距離兵器である。
って、めっちゃ怒ってる!こっちに向かって来てるんだけど!!
「誰か受け止めてくれ!!」
床に吸い付いている吸盤を全て切り離し、助け起こす時間も惜しいと3人組を奥に放り投げた。
そんなに勢い良く投げてないし、人数いるし、なんとかなるだろ。
バリスタ連打と、俺の投擲で牽制し、動きを止める。
だが、よく見ると足が再生している。
大アナゴはもう残ってないみたいで、鳥の嘴みたいな、硬質なその口が露になっていた。
噛み合わせてキシキシと音を立てている。どう見ても俺らを食うつもりじゃねーか!!
人間を食い物としてしか見てないなんて、怖すぎる。
体に付けた傷が再生し、刺さった槍が次々に抜け落ちる。
ハリネズミみたいにしてやったのに、何事も無かったように、だ。これは手強い。
「くそ!もう1本取りたいのに!」
「だが、船ん中に入ったらこっちのもんだ。逃げ道を塞げ。・・逃がすなよ。」
どこか呑気な雰囲気の会話が聞こえてくる。
そういえば、すぐに回復してしまったが、俺とこっちの戦闘要員が付けた傷以外にも、足が再生中の所があったんだよな。
クラーケンの後ろから追撃してきていたのは、心配されていた鬼族の男達だ。
その様子から、誰かが負傷したとか、そんな様子は無い。無事どころか、ものすごく元気そうだ。
むしろ、ノンビリとした様子で、船内の張り詰めた空気を抜いていく。
「丸ごと手に入るなら、喧嘩せずに済むな!」
「炊き込みご飯は譲れないからな。」
「馬鹿、ここは芋と煮込んでこそだろう。」
こいつら・・・。どう考えてもクラーケンを食うつもりである。
あれ?商人っつってたよね?戦闘要員じゃないって話だったけど?・・多少の護身術は心得ている?
その巨大な鉈のようなものは一体?包丁だ?冗談だろう???
「ちなみに俺は、唐揚げ派だ。」
寿司屋で食うタコ唐ってなんであんなに旨いんだろうな。・・めったに行かないけど。
鬼族の男達が一斉にこっちを向く。
うん?なんだ?手?
・・・・・・・・。
俺達は、大きな蛸を前に、硬い握手を交わしたのだった。
そこはタコ焼きだろぉぉおおお!!!(涙)




