クラーケンと会敵する
スープを掻き込む。うん、具が多いな!
食いかけのサンドイッチを口に押し込み、噛む。噛む。噛む。
飲み込むと同時に、具の無くなったスープを飲む。
手を付けていないサンドイッチは仕舞う。このまま放って置くと硬くなりそうだからな。
虫が集ったら嫌だし。
おし!行くぞ!
「・・・・・ああ、一応、行くつもりではいたのね。
このまま食事を続けるかと思ったのよ。」
まさか!俺、一応、戦闘要員だよ?
食い意地が張ってるとか、そういうんではなく、腹が減っては戦はできぬとか、そういう・・・。
「分かってるならいいのよ。えーと・・・頑張って。」
え、俺、急いだよ?
そんな「はよ行けや」みたいな反応しなくても・・。
ほら、午前中は海底で頑張って来た訳だし、飯の残りくらい片付けても罰は当たらないよね?
むしろ、少し休んでもいいくらいだよね?
さっさと行けというジェスチャーを受けて、傷心のまま食堂を後にする。
べっ、別に拗ねてる訳じゃないんだからねっ!ちょっと休みたかっただけなんだから!
ともかく、クラーケンが出たとかいう格納庫へ移動した。
「たーーーーすけてぇーーーーーーーーーーーー!!」
「もう駄目だ!俺はここで死ぬんだ!!」
「うおおおおおおお!!くたばってたまるかぁぁぁああああああ!!!」
そしたら、なかなかの地獄絵図だった。
まずクラーケン。デカいタコみたいなモンスターなんだけど、生きたタコってテレビや水族館でチョロっとしか見た事無かったんだけど、こんな気持ち悪い外見だっけ?
顔付きが凶悪だ。目の周りがボコッて盛り上がってて、ギョロっとした目がまた・・・。
皮?はブヨブヨしていて気持ち悪いし、吸盤は言わずもがな。外国で悪魔の魚とか言われてるのわかるわー。って、そんな事を言ってる場合じゃない。
船の開閉部分が破壊されている。おかげで、そこら中に折れた板や木片散らばっている。
2人が捕まり、獣人族の男は助けを求め、エルフ族の男は顔を紫色にしている。
紫色の顔の奴も、目は開いてるし生きてはいるんだと思う。
ただ、口から泡というか、胃の内容物が・・・こらアカンとしか言いようが無い状態である。
助けを求めている方が余裕に見える不思議。
で、何人か弾き飛ばされたのか、備品を散らかしながら倒れているし、他にもひっくり返ったりして、しっちゃかめっちゃかになってる。
ここで飯を食ってた奴もいたのか、スープやパン、ビスケットなどが散乱している。あ、焼きオニギリまである。
残念ながら床に落ちた上に踏みつけられているので、ご相伴に預かる事はできなさそうだ。
幸いにも、と言って良いのか、クラーケンが食いついているのは、大アナゴの切り身である。
まぁ、切り身と言ってもサイズが異常にデカイんだが。人が食われてなくて良かったよ、本当に。
で、コイツ、船に乗り込もうとしているらしい。
何故乗り込む?なるほど、船は餌場だと思われてる訳ね。
「おい、アンタ!アンタも戦闘員なら何とかしてくれ!・・・って、その格好じゃ無理か・・。」
クロキシを外してから、靴と服を着直しただけなんだよね。
現在の装備は、服、靴、大剣。以上。全員がフル装備の中、ほとんど何も着けてない俺が目立ち過ぎる。
それでも見た感じ、猫の手も借りたいような状況だろうし、参戦するとしますかね。
とりあえず、顔が紫色の人から何とかするか。
助けを呼んでる獣人はまだまだ元気そうだし。
「ちょっと通るぞ~っと。」
こっちを見て目を剥く事は無いだろ。危ないから集中しろ。
位置的にちょっと高いが、船内に入り込んでいるので足場はしっかりしてる。
十分届くな。
「ていっ。」
物は試しとばかりに、まずは斬り上げる。
おお?斬れるけど、大アナゴとはまた違った手ごたえだ。
相手のHPやDEFが高いのだろう、一撃で足を飛ばす事ができなかった。
が、すかさず振りかぶって思いっきり振り下ろす!
「おりゃ!」
ぶつん、と足が切れて、剣撃の反動で強めに落下する。
蹴って衝撃を和らげてやるつもりだったが、ただ弾き飛ばしただけになってしまったな。
「おお」と歓声が上がったが、喜んでる場合でも無さそうだ。
ここで、クラーケンが大きく反応する。
体の色が白っぽくなったり色がグルグルと変わってるんだが、怒ってるの?
確か、目と目の間が弱点なんだよね?あれ?それってイカだっけ?
クラーケンが捕まえている獣人を振り回す。
ちょ、それ武器じゃないから!ある意味、最強の攻撃だけど、それで痛いの1人だけだから!!
「ひぃっ・・たす・・・・げふぅっ!」
可哀想なので離してやりなさい!!
気合を入れて剣撃を叩き付ける。ダン、という音と共に足が切断され、獣人を絡め取ったままの足がのたくる。
ここまで来たら頭も・・と行きたいところなんだけど、巨大なだけあって遠いんだよな!足多いし。
うん?もしかして8本以上無い?気のせい??
船をあまり傷付けるなって?無茶を言うんじゃないよ。これでも気を使ってんだぞ。
一応、これで危険な人達は救助できたのかな?
俺は周囲を見回す。
顔が紫色してた奴は、よく見たら顔を隠していたエルフの男だった。
今は通常の顔色に戻っていて、助け起こされているが、他の人を吸盤に巻き込み、てんやわんやしている。
獣人の男は自分で起き上がり、尻尾を振りながら礼を言いに来たが、拘束が解けてから来いと言いたい。
「鬼族の奴らが下敷きになっているかもしれない。」
若干、状況が落ち着いた頃に、職人のオッサン達がそんな事を言い出した。
下敷きって・・あいつ、船をも傾ける重量級モンスターですけど?
「食われてはいないよな?」
それは大丈夫らしい。クラーケンの奴、今は大アナゴを食うのに忙しいみたいだ。
ただ、問題は大アナゴはどんどん小さくなり、俺が切り落とした足が再生していってる事だ。
回復できるのかよ!しかも、大アナゴを食い切ったら、俺達が食われる可能性がある。
下敷きになった奴が生きてたとして、さっさと助けてやらないといけないしな!
俺が身構えると、職人のおっさんらが取り囲んで、俺から剥いだ装備を装着してくれた。
何今のF1の整備要員みたいな動き。めっちゃ早かったんだけど。
いや、有難いけどさ!!状況!!
ともかく、これで俺もフル装備・・・っておい。装備がいくつか足りてないんですけど!
担当が飯食ってる?んな悠長な事をやってる場合なのか?
「私たちは戦闘要員じゃないのよ。あとそれ、リフレにだけは言われたくないと思うわ。」
いつの間にか追い付いて着ていたマリッサさんに冷静にツッコまれる。
・・・少々足りない物はあるが、形だけでも整ったので、ここから猛攻を仕掛けようと思うよ。




