とりあえずの決着
俺は、少し狭くなった喉の近くらしき場所に引っ掛かっていた。
危ねぇ!!もうちょっとで飲まれる所だった。
安心してばかりもいられない。装備が入れ替わっているのだ。
そう、スイバとクロキシはリーフレッドの装備である。
今の俺は生身だった。
完全に口が閉じられて真っ暗なので、何も見えない。
しかし、すぐに対処できたので、まだ飲み込まれてはいない。
だから、慌てるような状況ではない筈だ。落ち着け、俺。
武器については失念していたが、防具に関してはこうなると分かっていたので、しっかりと呼吸を何度も繰り返して、血液中の酸素濃度を上げてあるし、肺にもしっかり空気を入れてある。
しばらくは持つ筈だ。
まぁ、流されたときに少し吐き出してしまった訳だが。
スキル:銀光の加護
スキル:森羅の守護
まず、補助魔法を自分に掛ける。淡い光が身を包み、周囲が見えるようになる。
そう、イボイボとか、ヒダヒダとか、見えなくても良いものまで見えるようになってしまったのだ。
・・・キメェェェエエエエエエエ!!!!!
いや、マジで気持ち悪い。早く脱出しないと。
スキル:水の槍!!!
さて、俺が女性キャラを使うに抵抗があるにも拘らず、この補助キャラのレベルがメインよりも高いのには理由がある。
補助魔法が使えて、PTに入れてもらえることはもちろんだが、
ゴゴゴゴゴゴォォォォオオオオ・・・
単純に、強いのだ。
水中故に、その攻撃はよく分からないが、威力がある事だけは分かる。
何しろ、すさまじい水流で、めちゃくちゃに掻き回されているのだ。
そして、シーサーペントも暴れまくっている。
もう、どっちが上でどっちが下なのかもわからない。
あ、引っかかってた杖が抜けた。
やばい、と思った瞬間、景色が変わる。
もがくシーサーペント。やさしい光が揺らめく水面。
コポコポと立ち昇る気泡。壮大な海底の渓谷。
そう、俺はようやく、異物として吐き出されたのだった。
CC:大剣キャラ
プハァっ!!!・・ケホッ、ケホッケホッ!!
あれま。どうやら、少し海水を飲んでいたらしい。
ヘルメット内に水が吐き出される。ちょ、汚ぃ!
すげー鼻の奥が痛い。
おや、他にシーサーペントはいない。
巣から離れたのか?どうやら単独のようだ。
周囲に赤黒い血液らしきものを撒き散らしている事から、それなりにダメージを与えられたらしい事は分かる。
倒すなら今だ。
「・・・・・・。」
が、届かなかった。
ここから遠距離攻撃・・・は躱されるだけだろうな。
浮上の為に剣をアイテムボックスに入れ、泳ぐ。
うん、動きに急激な変化を付けるのは厳しいが、真っ直ぐ泳ぐだけなら、シーサーペントにも負けないかもしれない。
「うぉ?!」
距離が近くなったら攻撃しに向かって来た。って、当たり前か。
即座に大剣を取り出した。剣の平で水を叩く事で、方向をコントロールする。
おし、しっかり躱せた。お礼をしないとな。
「てい!」
ムルッ。
斬れたけど・・変な感触だった。
並みの剣なら滑っていたかもしれない。だが、手ごたえありだ。
途端に、俺に背を向ける。・・・逃がすかよっ!
俺が剣の重みで沈み掛けてたせいか、シーサーペントは海面へと浮上していく。
好都合だ。何しろ、空気には残量がある。
「待てやぁああああ!」
感覚は掴めた、次はスキルを叩き込んでやる。
そう思ったのに、肝心の相手が逃げの一手ではどうしようもない。
それでも、海上に出さえすれば、俺のターン!・・と思ったのに・・。
「潜るのかよ!」
何を考えてるのか分からない。いや、何も考えてないのかもしれない。
挙動がおかしいので、脳の方にダメージが行ってるのか?
追い付いては攻撃を仕掛けるが、もう向こうに戦意は残っていないみたいだ。
少し可哀想な気もするが、生かしておいて良い事は無いだろう。
頭を落としてやれとばかりに、後頭部を抉るように斬撃を入れること数回。
内側からの攻撃分もあり、足場のしっかりした場所で剣を振り下ろせば、簡単に頭が落とせそうなくらいにはダメージが入っている。
血を流し過ぎたのか、痙攣し、動きが鈍くなり、やがて抵抗をしなくなった。
何がすごいって、まだ生きてるんだよな、こいつ。
人間なら致命傷のレベルだが、すげー。
俺は、とりあえず浮上する。
えーっと・・船は・・・ってあれか!
狼煙を焚いてくれているが、船上の人まで肉眼で充分確認できる。
船があっちを向いてるって事は、巣はあっちの方だから・・・・・。
かなりの距離を移動したみたいだな。
おや?ボート?
誰かが乗ってるな。
こっちに向かって来る。
どうも、俺を発見したらしい。
お迎え?そんな段取りでは無かった筈だが・・・。
「お疲れ!倒せたか?」
音の魔道具を使って通信してくる。・・は良いんだが、誰だこいつ。
手伝いに来てくれた鬼族の商人達のようだが、迎えに来てもらうような間柄ではない。
「1匹倒したが、まだいる。討伐対象には遭遇していない。」
そう、今回のターゲットはシーサーペントではないのだ。
「そうか。これを大アナゴに取り付けてくれ。」
渡されたのは、綱引きに使うような太いロープだ。
「大アナゴ???」
「ああ、こっちではシーサーペントって言うんだっけ?
焼いたり炊いたりして食うと最高にうまいんだ。ちゃんと買い取るぞ。」
シーサーペントの正体はアナゴだったのです。
マジかよ!
俺は、確かに巨大な魚類であるシーサーペントが、ゆっくりをのたくりながら浮上して来るのを見下ろしながら、ロープを手に取るのであった。




