愉快な仲間たち
朝。目が覚めたら、アーディとマリッサの部屋をノックしながら1Fに降りる。
目覚ましも無い異世界。早起きは意外と難しい。
起こしてくれと言われたので、ノックぐらいならと約束したのだ。
ティティ?部屋の場所を聞くの忘れたし、起きれなかったら職務怠慢なだけだろ。
いつものように、だがいつもより素早く身支度を整える。
飯を注文して席で待っていると、マリッサとティティが2Fから降りて来た。
なんと、ティティはマリッサの部屋で宿泊したらしい。
宿代が節約できるとともに、俺のノックで目を覚ますことができるという一石二鳥の策だ。
こいつ、何も考えていないように見えて、頭が悪い訳ではなさそうだな。
俺が飯を食い終わる頃には、少数の職人さんも集まってきていた。
現地集合だが、近くに住んでいる同行者は予め合流しておく事にしたようだ。
俺は、一旦、スザクを部屋に置いて行く為に2Fへ行く。
アーディの部屋をノックしたが、起きる気配は全く無かった。
部屋に戻り、スザクの簡易トイレと、多少は零しても平気なように、床に水と餌を置く。
「コケ!」
スザクは断固として拒否の構えだ。
だけど、スザクが知らない間に海に落ちてたら、俺には手の打ちようが無いからな。
ほら、降りなさい。
自主的に降りる事は無さそうなので、スザクを抱えて下ろそうとする。
痛い、痛い。抵抗するんじゃない。髪の毛が引き千切れる!暴れるなって!
毛根が悲鳴を上げるが、幸いにもブチブチという音は聞かずに済んだ。
「じゃ、行ってくるからな。」
「コケ!!!コケ!!!!!」
全く納得してない子供みたいになっている。
寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、陸にいる分にはそうそう死んでしまう事はあるまい。
・・・多分。・・・・・。大丈夫だよな???
「コケェッ!!!」
スザクの抗議の声を聞きながら、どうにか部屋にスザクを押し込める事ができた。
そうして、俺が部屋から出ると、マリッサがアーディの部屋に向かって、何からカウントダウンをしていた。
そして、カウントダウンが1になった瞬間、アーディが勢い良くドアを開けたが・・・。
片手に宿の簡易毛布を持ったまま、目はショボショボ、寝癖が爆発している。
脳味噌の8割はまだ寝てるんじゃないかと思われる。
どうやって、こんな状態のアーディを起こしたんだ・・・?
「宿の朝食が無くなるって言っただけなのよ。」
アーディって、そんな食欲魔人だっけか?と思ったが、「どっちかと言うと守銭奴」とバッサリ。
「早く支度しないと、今回の報酬ももらえないわよ。」
「!」
お、半分くらい目を覚ましたな。
それでも半分寝てるわけだが。
俺の部屋からは、相変わらずスザクの抗議の声が漏れ聞こえて来るが、ドアを突いたりしている様子は無い。
そのうち飽きるか諦めるだろう。
簡易毛布をベッドに戻して、アーディを1Fに連れて行く。
マリッサに水場へ連れて行かれて、水を掛けられるという、一連のやりとりを経て、ようやく船に向かう事となったのだった。
船着場では、ギルマスが待ち構えていた。
付いて行く訳ではなく、こういう複数の組織の絡む大規模な討伐では、代表者が出て挨拶するのが慣例だとか。
それにより、組織同士の変な衝突を避けたり、連携を高めたりするのだという。
だが、ギルマスの挨拶はともかく、国境警備隊の代表者の挨拶は、「同行者は足を引っ張らないように」というもので、連携する気を感じさせないものだった。
同行者はお前らだろと。これにはギルマスも苦笑いだ。
国境警備隊の連中も、内心がどうなのかはあ分からないが、さも当たり間の事を言っているように話を聞いている。
前回の戦果を知っている俺からすると「お前らこそ足を引っ張るなよ」と言いたいが、現場に居なかった奴が後からケチを付けるのは簡単だ。
当時、現場でないと分からなかった複雑な事情があるかもしれないし、ここは口を慎んだ。
今回、3つの船隊を組んで討伐に向かう訳だが、そのうち2つに国境警備隊が乗り込んでいる。
冒険者の乗る船は1つだけだ。
ここでも当然のように「お前らは遅れずに付いて来いよ」と上から目線。
だから、付いてくるのはお前らの方だろと。
まぁ、モンスターの居る地点は、前回の討伐隊の方が詳しいんだろう。
何やかんやで挨拶も済んだし、各々が船へと乗り込む。
奴らに良い印象を抱く事はできなかったが、こちらの船のメンバーだけでも仲良くやろう。
討伐に付いて来たいという冒険者メンバーは、手伝い程度でもいいという奴だけ連れて来た。
積極的に討伐をしたい、見学だけしたいという奴らは、凄腕だと聞いても置いて来た。
連れて来た中には商人までいたりする。阿吽は鬼が島出身の鬼族の方々だ。
ホームシックにかかっているとの事なので、気が紛れればという側面もある。
そんな感じで、「雑用もやるぜ!危なくても構わないぜ!」という奴等が船に乗っていたりする。
だが、その中でも異質なのが、質素な防具に身を包み、顔を隠した冒険者だ。
腕を組み、どっしりと構えている、といった印象だった。
よく見ると、その体躯は細く、演技掛かってるように見えなくも無い。
「・・・・・・。」
そういえば、変な同行者が加わったっつってたっけ。と思い出す。
この人物に関して、ギルマスは何も触れて来なかった。
一応、敵対組織との関係は無いという話だったが、だとすれば一体、何だというのか。
誰ともコミュニケーションを取ろうとしないし、怪しいなんてもんじゃない。
しばらく、荷物の積み込みの為に停泊していたが、それも終わり、出発の時間だ。
船を固定していたロープが外れ、波の影響が強くなる。
冒険者らを見送る町の人々。「がんばれよー」などと声援も飛んできている。
それだけじゃなく、何やら騒がしい。
というか、聞きなれた鳴き声が聞こえる。
「コケ!!コッ!コケーーッ!コッケコーーーーッ!」
スザクだった。
まさか、と思ったが、目が合っている気がする。ってか、めっちゃ見てる。
どうやって抜け出して来たんだ???
ってか、もう出発するところだから、梯子も外されちゃったし乗れないよ。
どうしよう?また臭イモ組みたいなのに見つかったら、大変な事になってしまう。
スザクは、船が既に動き出しているのに気付き、地団太を踏んで怒っている。
「まだ間に合うわ!飛ぶのよ!」
マリッサさん、余計な事を言うんじゃありません。
スザクは、ブルリ、と身震いをして、
「コ!コ!コ!コケェーーーーーッ!!!!!」
叫んだ。
その瞬間、体毛が真っ赤に染まったのだった。
・・・え?なにそれ?




