はじめての着替え
※サービス回ではありません。
俺が立ち直った頃には、蜂の巣がどんどんカットされ、運び出されていた。
みんなアイテムボックスを使ってるので、やはり珍しいものではないらしい。
まぁ、レベルのせいもあり容量は大きくないみたいだけど。
容量がいっぱいになると、巣のかけらを抱えて5人程連れ立って歩いて行くのだ。
俺も蜂の巣をかなり持たされた。
あれだけあった巣は、1欠片も残らず無くなり、不気味な木の洞だけがポカリと口を開けていた。
これは後日埋め戻すのだそう。
蜂には悪い事をした気もするが、あのクィーンフォレビーと戦った後だと、同情の余地は無いな。
で、今、俺を案内してくれた訛りイケメンと、万能薬で助けたオッサンに囲まれて町へと向かっている。
食い気味に話しかけられ続け、「逃がさん」とでも言いたげである。なんか怖い。
俺、もう宿で休みたいんだけど。ってかマリッサ達に何も言わずに来ちゃったし。
そんな話をオブラートに包んで伝えたところ、宿に酒を持ち込むので、マリッサ達も呼んで飲もうという事になった。
違う。そうじゃない。
宿での酒盛りは決定事項のようなので、「つまみは“いなご”じゃないですよね?」と真顔で聞いたところ、「あっ、もしかしてイナゴの兄ちゃんか?」とか言われた。
どういう意味かを問うたところ、町中で“昼間にイナゴと目が合って倒れた旅人”の噂が、主に子供達が主体となって広められているらしい。
どんな罰ゲームだよ。
で、町に戻ってフル装備から普通の服装に戻る。
「おお、イナゴの兄ちゃんだ」「あ、本当だ。あの時の人だ」
って聞こえるんですけど。
直ぐに宿に戻った。
「あ、リフレお帰り~。」
なんだこの既視感。
出迎えてくれたのはマリッサだ。
「すまん、なんか聞いた事のないモンスターが出たって話で、思わず見に行ってしまった。」
言い訳をしつつ謝る。
言い訳になってない気もするが。
「なんか大変だったみたいね。どうだった?」
なんか大変?ああ、確かに大変だったな。夢に出そうだ。
思い出したくもない・・・。
「気持ち悪かった。もう二度と戦いたくない。」
俺が吐き捨てるように言うと、マリッサが苦笑する。
何だよ。
「フォレビーが苦手なんだから、クィーンフォレビーだって駄目に決まってるじゃない。」
「!」
それは盲点だった。あれの親玉だもんな。
あーそうか。フォレビーが蜂なんだから、クィーンフォレビーも蜂に決まってるよな。
どうも、グラフィック時代の思考が抜けないみたいだ。
「今、『はじめて気が付いた』みたいな顔しなかった?」
「・・・。」
だから、心を読むのやめてもらえませんかね?
そこへ宿の女将さんがやってくる。
「かなり汗をかいたでしょう?
夜はお祭り状態になると思うから、今のうちにさっぱりしてきたら?」
タオルと桶を渡された。階段の奥の扉が水を使用できるスペースで、そこで使うらしい。
俺は礼を言ってそれらをアイテムボックスに入れて部屋に戻った。
風呂。これもCCに影響されない。
俺の身が汚くなれば、他のキャラも同じように汚くなるようだ。
で、問題が起きている。
「・・・着替えって・・・。」
装備品は替えがある。
まぁ全て預かり所なわけで、無いのと一緒だが・・。
ゲームの世界で、服という概念は無かった。
装備品としての服は存在したが、ベースは裸ではなく、簡素な服で、それ以上脱げることはなかった。
その簡素な服も一応、変えて楽しめる課金があったようだが、アイテムとして残ることはない。
今、その簡素な服を来ているわけだが、つまり、着替えが無いのだ。
とりあえず脱いでみる。
うん、ゲームの世界では脱げなかったけど脱げる。そりゃそうだ。
「・・・臭い、とまではいかないけど、微妙に湿っているな。」
さっぱりした後で着るのは如何なものかと思う。
俺は、再びその服を着ると、案内された風呂スペースへ向かった。
水捌けが良いように造られているだけで、湯船もシャワーも無かった。
まぁこんなもんだろうな。
服を脱いでアイテムボックスに入れる。
体を綺麗に拭き取る。
わりと砂埃とか被っていたようだ。
・・・昨日も風呂に入ってないな。
垢なの?この汚れ、垢なの?!
そして、頭をどうしようかと悩む。
先に頭を洗えばよかったんだ。
それで綺麗なタオルで拭いて、その後で体を拭けば何も問題は無かったはずだ。
・・・。
拭くタオルがこれか・・・
ちょっと汚いにも程があるよな?
桶でタオルに水を含ませ、桶の外で揉み出して絞る。
頭を洗う。
・・・シャンプーは欲しいな。
髪が解れないというか、洗うほど絡まっていく気がする。
まぁ、汗は流れたか。
顔を拭くと、ヒゲがジャリっつった。
・・・・・・・。
こんなところで現実を感じる。
体毛の色素が薄いせいか、そんなに目立たない気はするが、早めに剃らないとまずいな。
もう一度、タオルで全身を綺麗にする。
最後に桶でタオルを洗って固く絞り、髪を拭き、全身の水気を拭き取った。
剃刀とタオルを買おう、そして着替えと石鹸もあったら買おうと心に決めた。
そして。
CC:リーフレッド
俺は、別のサーバーのリーフレッドを呼び出す。
うん、服も綺麗そうだし、問題ないな。