ノルタークをブラブラと
雑談をしながら歩いてるうちに、ノルタークに着いた。
だいぶ日は傾いているが、まだ全然暗くなってない。
途中の休憩ポイントで余計な時間を食ったにも関わらず、だ。
もしかして、こいつらの移動速度が行きより少し速くなったんではないだろうか?
徒歩でも、少し足に力を入れるだけで、地面を滑るように移動するのだから面白い。
さすがに歩き出してすぐにトップスピードに到達するのは、スリップするので無理だし、町では加減しているが、めちゃくちゃ早い。
走ってる訳でもないのに滞空時間があるよ。馬車より早いってんだから・・・。
「俺、この一週間で一年分走ったわ。」
そんな大袈裟な。
だいたい、喋る余裕があるくらいだから、そんなに大変でも無かっただろう?
「喋る余裕が無かったら、もうそれ移動じゃないよな?!戦いだよな?!
それに、俺のレベルだから喋っていられたけど、普通は無理だから!全力疾走だから!
むしろ、普通は馬車だから!!!」
思いっきりツッコまれた。
しかし、喋る余裕の無い疾走を戦いとか、うまいことを言う。
競争してる時とか、“自分との戦い”状態になってる時の事だな。
走る=かけっこというイメージの俺と違い、しんどくなかったら移動手段に過ぎないといった感じの言葉に、新鮮さを感じる。
もしかして、この世界に“かけっこ”とか無いんではなかろうか?
さすがにそれはないか。古今東西、男は皆、競争が好きな生き物だ。
もっとも簡単で原始的な競争、それが“かけっこ”なのだ。存在しない筈が無い。
「変な感心をしていないで、宿を取るのよ。」
俺は、前に宿泊していた宿以外のお勧めの宿は無いか、アーディに聞いてみた。
だって、あの宿の飯には飽きたんだもん。
しかし、俺の願いもむなしく、前と同じ宿に連れて行かれる。
依頼を受けた冒険者は、達成するまで宿を変えないのがマナーだとか。
そんな殺生な!!
マリッサは、早速、職人さん達と合流して、どこかの工房へと去っていった。
アーディに呼ばれて行ってみると、草原での大道芸+演奏の取り分について話し合おうという事だった。
別にいらねぇ・・・。
「俺の事をネタにしないなら、全部持って行っていいぞ。」
思い付いたので言ってみる。
これで変な曲が増えなければ、万々歳である。
「バッキャロー!これしきの金でネタの宝庫を逃してたまるか!」
バン!と叩き付けるように金の入った籠を置いて、どこかに走って行ってしまった。
おい?これ全額じゃ・・・。
ネタの宝庫って・・・あの変な歌がまだあるのか?それとも、これから増えるのか?
いずれにしても、嫌な予感しかしない。
ともかく、本人が行ってしまったのでどうすることもできない。
このまま置いておく訳にもいくまい。とりあえず預かっておくとするか。
ギルドに報告に行く。
おそらく、明日に間に合わないんじゃないかとヤキモキしてるだろうからな。
・・・・・。
人が多い。
クエスト報告の為に来ている冒険者でごった返している。
次から次へと捌いていく受付。だが、次から次へと冒険者が戻って来る。
報告が終わったらさっさと帰ればいいのに、仲間となにやら揉め出す冒険者までいたりする。
そういう冒険者に限って、何かあったらすぐギルドを頼ったりするんだよな。
「ねぇ、こいつ、ろくに役に立たなかったくせに、報酬を等分しろって言うんだけど。
規則だって。ギルドではそれを認めるの?本当に役に立たなかったんだけど。」
受付の人は他の仕事してんだろ。用があるなら並べ。
俺は・・・今すぐ用事がある訳でもないし、並ばずにその様子を眺めていた。
うん、出直そう。
幸いにも、ギルマスは俺に気付いてるみたいだったし、帰って来てる事くらいは伝わっただろう。
だから引き止めたそうな顔をすんじゃねぇ。忙しいんだろうが。
夕飯にはまだ早いが、なってきたし、晩飯を食う場所を探しに行こう。
マップを見てみる。こういうデカい町では、マップは必須だ。早く慣れないと。
以前、マップを使わずに迷った時の事を思い出す。
意識すれば使える機能というやつは、意識しなければ出て来ない。だから思い出すのも難しかったりするのだ。
まぁ、常に表示されてても邪魔だろうけどな!
前に、あの謎の組織に遭遇したポイントは除外、ここらには近寄らない。
細かい路地までは攻略するつもりはないし、大雑把に色々な場所を把握しておきたい。
これだけデカい町だ。お世話になる事もあるだろう。少しずつでも土地勘は付けた方がいいからな。
このあたりは歩いたし、このあたりも・・。となると、行ってないのはこの辺かな?
アタリを付けて、歩き出す。
夕焼けに染まる町が輝いていた。
・・・・・。
・・・・・・・。
「えっ?夕ご飯を食べられるお店?・・私達を食べに来たの??」
そこは、歓楽街であった。
ギルディートと来た時間とは違い、妙な活気がある。
この場所にとって、夜は一日の終わりではなく、始まりなのだ。
客引きは男性、そんなイメージがあったが、女性ばかりだ。
それも、すごい美人。
あれ?来るとこ間違えたかな?と思い始めた頃に、声を掛けられたのだ。
笑みを湛える美女。それも、品さえ感じる自然な笑みだ。
思わずドキリとしてしまうが、露出度の高さで、逆に我に返る。
「・・・・。間違えました。出直します。」
「初めては誰にでもあるわ。せっかく来たんだから、楽しんで行ってちょうだい。」
いつの間にか左腕に小柄な女性が絡み付き、色気のある女性が右の手を取る。
リーフレッドは逃げ出した!しかし、回り込まれてしまった!
そんな感じである。
むに、と優しい感触が腕を包む。
「当ててるのよ。」なんて言葉があるが、大きいお胸が腕に当たる感覚は当たるなんてもんじゃない。
これは、言うなれば“おっぱいの抱擁”!
小柄な女性は、かなり若いんじゃなかろうか?女性と女の子の中間点といった感じだ。
耳が尖ってないし、ヒューマン?見た目どおりの年齢?
いや、ファンタジーの世界だから、こればっかりは分からないな。
上目遣いで「来ないの?」って。か、可愛い。あざと可愛い!
分かってる。客が相手なら、いくらでもこんな顔をするんだって。それでもだ。
2人とも、きつすぎない程度に香水を使っているのだろう。
香水があるのかは知らないが。・・・・・いい匂いがする。
もう1人は、自然な微笑の美人さん。
無表情なら氷の秘書といった感じになるのだろう、そんな知的そうな顔をしている。
大人の魅力を感じるが、肌のきめといい、その落ち着きようの割に若かったりしそうな・・。
振り払う?そんな事、俺にはできない!!
えーと?
いや、女性を抱く気はないよ。本当に夕飯を食える店を探してたんだって。
道に迷ってしまったというか。
お酒?あー、まぁ、飯が食えるなら・・・・・。
流されて良い目に遭った試しはないが、必ずしも悪い目を見るという訳でもない。
俺も男である。
商売と分かっていても、両手に花ともなれば浮かれない訳がない。
それに・・・
「ココ・・・。」
ここの人達は、ちゃんと俺を見て話しかけてくれるしな。




