草原のマジシャン
先ほどジャグリングした場所より離れて、準備をしながら頭の中で流れをシュミレーションする。
うん、これならいける。いけるはずだ。
♪~・・・
少し遠いアーディの演奏を聴きながら、例によって3方を囲むようにパーテーションを立てる。
その中に入り込んで、できるだけ大きいマントを取り出す。
うん、持つ方向を変えればちゃんと足元まで隠れるな。
勿体ぶるような仕草だが、単なる確認作業だったりする。
隠れ、顔を出し、隠れ――
せーの!
CC:ニャンコロノフ
スキル:隠れ身
からの
スキル:隠密
からの
スキル:忍び足!
バサリ、とマントが地面に落ちるタイミングで、パタリとパーテーションを倒す。
誰もスキルを発動した俺の姿を捉えることはできず、そこには何も無い(ように見える)。
そして、何が起きたのか、と視線が釘付けになっている隙に、全員の四角、馬車の後ろ側へと回り込む。
音も立てずに馬車の屋根に乗り、その丈夫さを確かめる。
特に嫌な感じはしないが・・・。真ん中はちょっと薄そうだよな。避けよう。
丈夫そうな場所を選んで、全員の視線がまだパーテーションに行っているのを確認する。
アーディに至っては、演奏をストップしてパーテーションに近付いていた。
ナイスな引き付け役である。
OK!
CC:リーフレッド
「はい、そんな訳でショーはここまで。」
俺が姿を現しても誰も気付かなかったので、驚かさないように声を掛けて馬車から飛び降りた。
声を掛けたにも関わらず、かなり驚かせてしまった。
割とすばやくできたので、瞬間移動に見えなくもない・・筈だ。
まったく関係のない話だが、木製の馬車の屋根が丈夫で良かった。
CCした時に、重さで壊れたらどうしようかと冷や冷やしたんだ。
馬車の下から出てもいいかなと思ったんだけど、ちょっと大変だし、不審者過ぎる。
「ご観覧いただき、ありがとうございました。」
お辞儀をして締める。
今度こそ、再開はさせない。
俺の所在を発見したアーディが、籠を持って走ってきた。
本当にちゃっかりしてるよ、お前は。
おひねりを奮発してもらい、ホクホクのアーディ。
対して、商人のラザニアとペペは気まずそうに顔を見合わせている。
今回は入れ替わる相手がいなく、消えてしまったような感じにしたが、移動系のマジックだって伝わったのだろう。
「・・・えっと、白狼は何処に・・?」
「今日は留守番です。」
本人だけどな!
納得のいかなそうな表情を浮かべていたが、「・・成る程。」と、返事をもらった。
なるほど、と思うならその顔やめれ。
「何処に行けば会えるか教えてもらえぬか?」
なんだ?白狼なんて、一瞬パッと出ただけだろ。
どうしてそんなにしつこく聞くんだ?知り合いか?って俺なんだがら、んなわきゃない。
・・とすると、人違いという線だが・・。
「ニコフの知り合いか?」
あえて軽く名前を出してみる。
名前を聞いたら、「別人だった」となるだろう。
そう思ったのだが・・・。
「白狼の名はニコフというんだな?!」
・・・・・。
白狼違いでも、名前も知らぬ親の敵を探してるとかだったら困る。
ちょっと詳しく聞いておこうか。
「その白狼に何の用があるんですか?」
「・・・・・・・。」
だんまりかよ!
本気で敵だったりしないだろうな?
人違いで刺されるとか、洒落にならねーぞ!
もう少しだけ話そう。どういう意味で会いたいのか知りたい。
「お互いに用事が無いと会わないですし、普段は山奥で修行をしているようなので、偶然会うという事は無いでしょう。伝言ぐらいなら受けますけど?」
用事が無いと会わないというか、絶対に会う事ができないんだけどな。
山奥で修行って、なんか疚しい事がある人の言い訳っぽくね?誤解されてないよな?
「・・・シルドラン商会に行けば同胞に会える。ラザニアを頼れと伝えてくれ。」
同胞?頼れ???意味がわからん。
ってか、踏み込んだらやばそう。急にきな臭くなってきたよ畜生!
関わりにならない。うん。これに限るな。
「えーと、どなたかと間違えてません?」
というか、間違いなく人違いです。
意味深に目くばせし合うラザニアとペペ。怪しい、怪し過ぎる!
「とにかく、伝えるだけ伝えて欲しい。・・待っている、と。」
もう伝わってるけど行かねーよ!
普通、もっと「行方不明の知人に似ている」とか「モフモフさせて欲しい」とか色々あるだろ?
まぁ、モフモフは思っていても口に出さないか。
ともかく、内容が不透明過ぎて恐ろしい。これで行く方がどうにかしてるだろ?!
「・・わかりました。(伝えるだけ)伝えておきます。」
無難に受け答えしておこう。受け流しとも言う。
近くまで来ていたマリッサが、俺の意図を感じ取ったのか、ジト目で見てくる。
何も言いはしないが、バレるからやめてくれ。
俺達は、軽く挨拶して別れ、ノルタークへと向かうのであった。




