草原のジャグラー
「人狼・・・?」
「大道芸人???」
会話を聞きつけて、マリッサとアーディが顔を見合わせる。
いいから、さっさと食っちまえよ。
本当に心当たりの無い反応、というのを目の前にして、少しの焦りを感じる。
「違います」はまずかったか・・・。
面倒事の香りがしたので、自然かつ速やかに移動したいのだが、そうは問屋が卸さないようだ。
ガチャリ、とドアが開き、中の人物の姿が露になる。
「失礼した。私はシルドラン商会のラザニア。この者は人狼のペペ。
もし良かったら、その芸を見せてはもらえないだろうか。」
層になったパスタ料理みたいな名前しやがって。
懐かしいな、ラザニア。昔、流行ったんだよな。今ではその辺で見なくなったけど。
ミートソースと平たく伸ばしたパスタ生地を何層にもして、最後にチーズを乗っけて焼いたような料理だ。
なんか久しぶりに食いたくなってきたな。
ラザニアと名乗る人物は、マリッサと同じくらいの年齢に見える少女だった。
が、耳が尖っているあたり、見た目通りの年齢とは限らない。・・・エルフかな?
うーん?何か違う気がするな。
「おい、アーディ。何か歌ってやってくれ。俺と関係のないやつな。」
アーディに無茶振りしてみたが、あわあわと青褪めるばかりで、楽器を取り出しもしない。
どうしたって言うんだ?
「シルドラン商会は首都でも古参で規模の大きい商会だぞ。真面目にやれよ!」
知らんがな、とは言えないが、その大手商会が何の用だろうか?
どっちかで、たまたま俺のジャグリングを見たんだろうけど、わざわざ馬車を停めて芸が見たいって訳じゃないだろう?
幸いにも、俺達の行く方から来たようだ。
ここを通り過ぎれば、わざわざ追ってくる事もあるまい。
って、何で固まってるの?さっさと食っちまえよ!
「真面目に『やれ』っつってんだろ!」
なんで涙目なんだ?
「ここで気に入ってもらえれば、セット装備も楽に手に入るかもしれないのよ。」
あー、なるほど。
とりあえず、俺は人狼でもないし、芸の真似事をした事はあるが、大道芸人では無いんだが、それは・・・。
「いいから、やるのよ。」
仕方なくナイフを取り出したら、笑顔のマリッサに没収された。そりゃないだろ!
何でジャグリングしろと?
「スザク、邪魔にならないように来るのよ。」
所在なさげに俺の足元で見上げていたスザクを抱え、椅子代わりにしていた石に座り込む。
ここでマリッサに拗ねられたら、面倒な事になる。やらなければいけない空気みたいだな。
面倒くせぇ。
何かいい感じのジャグリングアイテムは無いかなっと・・・。
「あ。」
これでいいんじゃね?と思ったアイテムを取り出す。
お馴染みのトーチさんだ。
炎を使ったジャグリングなら見たことあるし、迫力あるだろ。
チラとマリッサの顔を窺うと、引き攣った顔で頷いた。
何その反応。OKなんだよな?
アーディにBGMを頼む。激し過ぎない明るい音楽を適当に、と頼んだ。
♪~・・
まぁ良い感じなんじゃないか?
とりあえず、火を付けずに軽くジャグリングしてみる。
軽くて取り扱いやすいが、長さが難点だな。回転を加えてみる。
個体差が無いので、雑貨ジャグリングよりは随分と楽だが、風に煽られる。
あまり高度は出せないのか。
って事は、数も増やせないという事だ。
これ以上は間が持たないな。仕方ない、点火しよう。
ジャグリングしたまま点火。
正直、熱かった。横着せずに、ストップしてからやったら良かった。
反応が良いから、いいか。
スピードを少し上げる。アーディのBGMが心なしか速くなった気がする。
いや、速くなってるな。曲に合わせて速くする。と、アーディもテンポを上げる。
ぐっ、しかし演奏だって技術がいるはずだ、そこまで高速で演奏できまい!
張り合う俺達。目を丸くする商人達。そして、呆れた表情のマリッサと、首を振るスザク。
風圧で火が消えそうな勢いになったところで、馬鹿らしくなってやめた。
ジャンジャン、と弦を掻き鳴らして締めるアーディ。
俺は芝居っぽい仕草でペコリ、と一礼する。
パチパチと響く拍手。
そしてアーディが差し出した籠に、ジャラリと金貨が入った。
「!」
思ったよりもらえたのか?
アーディが驚いたような顔をしている。
よし、これで気が済んだだろう。
「あれはやってもらえぬのか?立派な白狼になって出てくるやつだ。」
あれは入れ替わりマジック(のつもり)だから、俺が白狼になってる(んだけど)訳じゃないんだよ・・。
♪~・・・
おい、やるなんて言ってないぞ。
アーディが演奏を始めると、少女は目を輝かせて馬車に座りなおす。
いや、やらないぞ?
アーディを睨むが、どこ吹く風といった感じで演奏を続ける。
マリッサに視線を送ったが、力強い頷きだけが返ってきた。
違う。そういう意味じゃない。
俺は、溜息を吐きながら考える。
人狼だと誤解されても、まぁ問題ないんだが、人狼=俺という図式を突き詰めていくと、いつかCCについてバレる気がする。
とりあえず、あくまでも「入れ替わりマジック」である事に納得してもらわないといけない。
馬車、マリッサやアーディの位置を確認する。
ふむ、うまくやれば何とかなりそうだ。
ちょっと離れた位置に移動しながら、パーテーションを取り出すのであった。




