自警団、勝鬨を上げる
先ほどより人数が少ない今、拘束を逃れられたのはまずかった。
しかも、気のせいなんかじゃなく、明らかに針の威力と頻度が上がっている。
「鉄の盾が割れた!」
「っく・・・近寄れないっ。連射なんてできたのかよっ!」
「ぐうっ・・。」
「剣が折れた!」
既に何人か倒れている。
ボーラほど重症化してる者はいないが、木の根にしがみ付いて泣き叫んでいる者や、刺された部分が元の形がわからないほど腫らせている者、自ら戦闘不能と判断し這って戦線を離脱する者・・・。
もはや戦線崩壊は時間の問題である。
「ガルムも刺された!盾をまわせ!」
7人隊のリーダーが倒れる。
これはまずい。
この状態で指揮が執れる人が倒れたりしたら・・・。
「くっ、こんなチャチな盾、何の役に立つってんだよ!」
士気が下がる。
あまりに投げやりな発言に、顔をしかめた時だった。
「うわぁ・・・。」
何とも緊張感の無い声が聞こえた。
・・・誰だ?
見回してみると、同じようにこの声を聞きつけたらしい団員も「誰?」という顔をしている。
「デカすぎね?」
いや、でか過ぎるけどな!
そうじゃなくて、空気、空気。
その男は倒れた7人隊のリーダーのところまで歩いていくと、何か取り出した。
瓶から何かサラサラとした粉をふりかけている。
「・・・っ。感謝する。」
解毒剤か、回復薬だったのだろう。
どうやら無事だったようで一安心だ。
しかし、そこは最前線だ。鋭い声が飛ぶ。
「そっちに行ったぞ!」
「ギギギキキキキキ!!」
飄々と歩いて回るその人は、逃げ回ってばかりだった俺たちと違い、明確な的。
そりゃ襲い掛かるに決まっている。
バスッ、バスッ、バスッと、針が男に・・・
ん?
気のせいで無ければ当たってるよな?
うん、正面から受けているな。
「誰?」という顔をしていた団員を見ると、やはり「信じられない」と言った目で見ているので、間違いない。
何か間違っている気はするけど、間違いない。
鉄を貫通する針の筈なんだが・・。そう、何かこう・・すごい装備なんだ、きっと。
クィーンビーは怒り狂ったように男に向かっていく。
「近寄んなっ!」
下から上へ、素早い一閃は、間違いなく剣だった。そう、通じないはずの、刃物だった。
しかし、見間違いじゃなければ、入っていた。
「ビィィイイイイイィイ!」
クィーンビーの赤かった目の色が薄くなる。
ホバリングして距離を取り、フラフラッと左右に揺れた。
あ、逃げる気だ、コイツ。
ここまで人間に敵意を持ったモンスターを逃がすのはまずい。
だが、空に逃れられたら追う術は無い。そう思った瞬間。
「うるさい!」
クィーンフォレビーの、首と、胴体が、離れた。
「は?」
思わず口から漏れても仕方なかっただろう。
見回してみても、全員、口を半開きにして見ている。
あ、ガルムまで・・・。
「ビィイィイイィイイィイィイ・・・・・」
頭が落ちて制御を失った体が、そのままバックステップで距離を取った男に向かっていく。
「うわぁぁああああ!!キモイ、キモイキモイキモイキモイキモイ!!」
脅威であった針を発射する尻の先が切断され、下の方から千切りにされていくクィーンフォレビー。
もはや、その面影は・・・・ってやりすぎじゃないか?
ここへ来て、男の様子がおかしい事に気が付く。
え?涙?・・・この人、何で泣いてんの?
動きを止めたクイーンビーの残骸が、しなだれかかるようにその男の元に落ちてくる。
そして。
「いやぁぁぁああああああああ!!!!」
男は絶叫してスキルを放った。
いや、もう敵さん死んでますがな・・・。
見た事の無い超絶スキルだった気がしたが、膝を付き、しくしく泣きながら蹲るその男に話しかけるのは、少し、いや多少・・・・かなり躊躇われた。
伝令に走ったレクスが、その場でおろおろしている。
ああ、こいつが男を連れてきてくれたんだな。
「ゴホン。」
リーダーが、男を背に隠すように立ち上がった。これぞ男の優しさである。
「我々は、旅の人の助けにより、クィーンフォレビーの討伐を成功させることができた。」
我々は、っていうよりも、旅の人は、と言った感じなんだが・・・。
他の皆も、いや、リーダーでさえもそう思っているに違いないが、ここはツッコまないぞ。
リーダー、そこは正面を見ようぜ。目が泳いでるよ。自分すら誤魔化せてないよ。
「この人がいなければ、我々だけで勝利を収めることは厳しかったと思う。
だが、敵は倒れた。見ろ。この亡骸を。俺たちは勝った。勝利は勝利だ。」
全員、ようやくここで神妙な顔になる。
そうか。
形はどうであれ、勝利を収めたのか。俺達。
戦闘後の不安から開放されつつある空気の中、どよめきが起きる。
「声を上げろ、勝利は勝利だぁ!!」
「「「・・お、おおっ・・」」」
握りこぶしを掲げられ、戸惑う俺達。
だが、時間を置けば、その言葉が生還した実感と共に染みこんで来る。
少しの間を起き、確認するように、そして確信するように、リーダーは叫ぶ。
「勝利は勝利だぁっ!!!」
「「「おおおっ・・!!」」」
いいのか?開き直って。いいんだよな。
握りこぶしをつくる者。抱きしめ合う者。涙を浮かべる者。感慨にふけるもの。
そう、俺たちは切り抜けた。
喜んで、いいんだな!
「勝鬨を上げろぉお!勝利は、勝利だぁああっ!!!」
「「「オオオオオオオッ!!!」」」
緊張の糸を断ち切り、俺たちは喜びを噛み締め合った。
口笛を噴き、盛り上げる者がいる。失敗談を、面白おかしく話す者がいる。
酒を出してふるまう者がいる。地面に座り込み、楽しげに眺める者がいる。
それぞれに拳を突き出し、互いの健闘を称えあう。
課題も多かった。が、今だけはそれを忘れても罰は当たるまい。
「・・・ぐすっ。」
いや、旅の人、あんたの事を忘れたわけじゃなかったが。その・・・悪かったよ・・・・・。