冒険者達の団欒
アーディのテントだが、別に町の中での設営なので、そのまま棺桶になってしまう事も無いだろうと気にしない事にした。
夜も過ごし易いし、無理に俺のテントに招く事もあるまい。
アーディとしては、調査隊に部屋を譲るとしても小金をせしめたかったみたいだ。
吟遊詩人としての稼ぎは多少あったみたいだけど、それも都会のノルタークと比べると微々たる物だろう。
付いて来たのも「何かおいしい話」があると思っての事だそうだし、大赤字ではないものの、良い事は無かったな。
ちょっと恨みがましい視線が飛んできたが、無視だ無視。
俺が呼んだ訳じゃないし、それなりの迷惑なら被っているからな。
ちなみに、場所は女将さんに宿の敷地を借りた。
飯は宿で食えるし、宿の前に椅子やテーブルが並んでいるので、大して困る事は無い。
スザクも外ならトイレとか問題ないしな、と思ったのだが、ちゃんと律儀に宿のトイレを使っていた。
ふむ、地面が土だとか、そういう理由で町の中と外を区別してるわけじゃないみたいだな。
「・・なぁ、例の女は呼ばないのか?」
部屋が分かれていた宿と違い、アーディが絡んでくるのを避けるにはテントに篭るしかない。
しかし、まだ寝るつもりはないし、寝るつもりがない以上、テントみたいな狭い空間に篭るのは嫌だった。
「そんなものはいない。」
例のって何だよ。
キャラの性別は女かもしれないが、俺はあくまで男である。嘘は言ってないし、呼ぶつもりもない。
「あのニャンコをまた呼んだのかしら?」
マリッサは、装備を作り終えた為に、自由な時間をここに来て過ごしている。
ずっと工房に篭って作業をしていたので、体を解しがてら、遊びに来ているらしい。
女ならここにいるだろ。12歳だけど。
「ニャンコ?」
「黒い耳の猫の人なのよ。」
「獣人って事か?エルフだって話だけど・・」
投擲キャラのニャンコロノフ。クノイチという設定である。
あれは関係者だってバレてるし、口止めもしていないからなぁ。
変に口止めをして怪しまれるのも嫌だし、また何かあったら使うだろう。
身軽で、街中では使えないものの、姿を隠せるというのは貴重だ。
また警戒されてもやり難いしな。
それよりエルフはお兄さんだっつっただろ!キャラは女だけど。
「なるほど、何人も女がいる訳か。って事は・・・。」
おいおい、適当な事を言ってんじゃねーよ。
こいつにかかれば、何でも歌にされてしまうのだから堪ったもんじゃない。
「その言い方は誤解を受けそうだからやめろ。」
俺が訂正を求めたが、話は妙に盛り上がってしまい、全く聞いちゃもらえなかった。
初日、俺の(キャラの)叫び声を聞いたのが女将さんだったしな。
階段を上がってきたオッサンの他に、悲鳴を聞きつけた人が何人もいた事から、ちょっとした噂になっているらしい。
仲間がいるのにも関わらず、姿を見せないというのは奇異に映るようだ。
・・・というか、確かに仲間がいるのに連れて来ないのは普通におかしいよな。
連れて来れないんだけどな!!!
うーむ、何か言い訳でも考えておくべきなんだろうか?
とはいえ、連れてる仲間と連絡は取り合えるのに合流は一切できないなんて、どうやって説明したらいいんだ?
飯を食い終えたばかりで、体力を使うことなどしていない俺達は、寝ようと思えば寝られるのかもしれないが、疲れていないので眠気は少ない。
それよりも、マリッサが元気過ぎるだろ。寝る時間を削って防具造りしてたんだよな?
「・・・・・何かしら。」
「・・いや、眠くないのかなと思って。」
さすがに今のは読まれなかったらしい。
まぁ、そこまで行ったら、もはやエスパーだよな。疑った事はあるが。
マリッサも普通の人間だったらしい。ちょっと安心した。
「なんか今、すごく失礼な事を考えなかったかしら?
・・眠くは無いのよ。ちゃんと睡眠は取っているし、労働をしていた訳じゃないもの。」
・・・・・。そうだった。
ドワーフ族にとって、自分の興味のある物を作ることは趣味であって、仕事ではないのだ。
遊ぶついでに、できたものが売れて、更に遊べるという認識なのだそうだ。
仮に徹夜しても「ちょっと趣味に没頭してしまって・・」となり周囲の反応も「ま、ほどどほにな」程度である。
趣味で食っていけないドワーフ族が、趣味以外に手を出す時、そこで初めて労働が発生するのだ。
「ちゃんと寝てるんならいいが・・。
なんか、キャンプで火を炊いてなくて、椅子とテーブルがあるって変な感じだな。」
俺が話題を変えると、アーディが1人用テントから肩から上を出して
「そりゃ町中でキャンプなんぞ、普通はしないからな。」
と言う。おい、下に敷いてるの、俺の貸したマットだろ。
土が付くだろ。やめなさい。ちゃんと椅子に座りなさい。
そのお泊りで恋バナする女子みたいな格好をやめなさい。可愛くないから!
「その冗談みたいなテントも普通は見ないのよ。」
マリッサの毒舌も、普通に火を噴き、夜は深くなっていくのだった。




