困ったオッサン達
とりあえず、ノルタークに行くのにマリッサは必要だ。
何しろ、俺の装備について、まとめているのはマリッサなのだ。
それだけじゃない。個性溢れる、という表現では生ぬるい。
個性夥しいあのオッサン達とまともに絡んでいたら、俺の精神力はもたないだろう。
奴等、自分の興味のある事しか喋らないし、それ以外での意思疎通が困難な奴さえいる。
素面だと何を言ってるんだか分からないドワーフのオッサンと話をする場合、アルコールを与えて問い質す羽目になったりするみたいだし。
なので、留守番されるのは困る。
マリッサは安全な所にいればいいので、同行だけはして欲しい。
「すみませんけど、マリッサが居ないと困るんで、どうにか許可をもらえないですかね?
ノルタークに来てくれるだけでいいんです。危険な真似はさせませんから。」
「ああ゛ん?!」
何故キレる?!マリッサを戦闘に参加させなければ問題ないだろ?
装備は靴である[スイバ-シリーズ]、水中でも呼吸できる間道具部分と、連結したヘルメットのようなフルフフェイス型のゴーグル、そして水中での動きを助ける水泳スーツ・・。
これらは仮称だとマリッサは念を押していたな。
ともかく、それぞれ、得意分野の違うドワーフ達が分業でやっているのだ。
マリッサ無しにして「はい、取りに来ましたー。」と簡単にはいかない。
それだけ、マリッサに任せきりだったのだ。
最初はあれ無しでやろうと思っていたが、どんどん改良され、今や、あれ無しでの攻略など考えられない程度には進化している。
ここでマリッサに抜けられては困るのだ。
懇切丁寧に説明した結果、親父さんの表情は怪訝そうな顔に変わる。
「お前・・必要ってそういう・・・。」
マリッサを振り返ると、「どうだ」と言わんばかりに無い胸を張っていた。
「私がいないと困るのよ。」
自分で言うのはどうかと思うが、その通りである。
「・・とにかく、現状の防具では駄目だ。譲る気は無い。」
「この人が一度言い出したら、曲げることは無いのよ。
子供みたいな変なプライドを守って生きてるの。下らないから、こんな人、放っておいて行くのよ。」
自分の父親を捕まえて「この人」は無いんじゃないかと思う。
家族関係がゴタゴタするのは辛いと思うんだが・・。
「現状の防具が、それと同じくらいか、それより補正が高ければ問題ないんですか?」
「・・・そういう事になるな。」
俺が聞くと、親父さんが黙り込み、代わりに答えたのが爺さんだった。
ふむ。
「マリッサ。これ借りてもいいか?他のやつも、もうすぐ出来上がるんだろう?
今日の午後か明日にはコランダを出ようと思ってたんだ。間に合うなら作ってしまおう。
その方が親父さんも安心できるだろうしな。」
「俺はお前の親父さんではない!」
そんな事は知ってるよ。
俺は呆れて親父さんを眺めた後、了解を得て防具を受け取った。
「親父さんの持っている装備と同程度の装備を持って来る事」が条件ならば、表立って俺が手伝っちゃいけない、なんて事は無い筈だ。
「待て。マリッサが装備を整えられるかどうか、それが条件だ。
他人に手を貸してもらうのは間違っている。」
・・・本当に妨害したいみたいだな。
手を貸してもらわずに、大人が何日もかけて作った防具に勝つなんて、用意された時間でできる訳無いじゃないか。
心配な気持ちも分からないではないが、やり方が悪い。
ちゃんと話し合いをすべきであって、決してできない事を条件として出すべきではなかった。
そうでなければ、俺ももう少し様子を見た。
が、こんな条件を出してきた以上、今回は折れてもらうしかない。
「親父さんだって、自分で狩りをして、革をなめして、防具を作ってる訳じゃないでしょう?
マリッサは冒険者として、俺という伝手を使って防具を完成させる。何か間違っていますか?」
ギリ、と歯を食いしばる音がしたが、反論は無かったので行くとしよう。
残りの防具作りにまで、妨害を入れたりしないよな?
「じゃ、俺はこれで」と言い置いて、工房から出る。
とにかく、時間が惜しい。
防具の強化って、この世界でやった事が無いからな。
数も多いし、時間がかかるかもしれない。
「・・ココ・・。」
スザクが何かを気にしている様子だったので振り返る。
爺さんが付いて来てた。
「あの、どうしました?」
「あの防具をどうするのか、興味があってな!」
直球だった。いや、困るんだけど。
「なぜだ。」じゃない。理由は説明できないけど、とにかく駄目なんだ。
あ、そういえば飯の時間だな!
飯を食ってから出掛けよう。そうしよう。
「・・・どこに出掛ける?」
だから、それは喋れないんだってば。
うーん、かなり離れた場所でCCしないと、どこまでも付いて来そうだな。
飯を食ってる間に油断させ、さっさと巻いてしまおう。
ギルディートみたいな変な勘でも無い限り、そう見つかることはあるまい。
そこまで素早いようには見えないし。
「少なくとも、この町ではないですね。」
俺は、曖昧に笑みを浮かべ、宿へと足を向けるのであった。




