マントを作りたい
「ハーフエルフのお姉さんは?」
俺に捕獲されたアーディから開口一番に台詞である。
そんなものは居ない。
説教モードの俺を物ともせず、部屋に突入して来やがった。
部屋の湿度に驚き、鍋を興味深そうに見つめ、そして部屋を気の済むまで探索したあと、爽やかに微笑んだ。
「邪魔したな!」
逃がすか。せっかくなので、手伝わせる。
文句を言いたいのはこっちだ。ピッキング強盗みたいな真似しやがって。
1Fで魔道具を借りるのは、交渉するまでも無かった。「貸してください」「どうぞどうぞ」ってなもんだ。
食堂の方が広いし、ここでやってしまえというアーディの意見を採用した。みんなから許可ももらったしね。
子供らの手も借り、無事、布と糸を乾燥させる。
あとは、この素材でマントを作り、定着剤を使えば完成だ。
定着剤は、槌キャラの方に在庫があるので問題ない。
マリッサは刺繍もしたいようだが、後からでいいだろう。
刺繍の分、強度が上がる可能性はあるが、一部なので飾りの要素が大きい。
下手に俺が手を出して「なんかイメージと違う」となるのは困るしな。
手伝ってくれたみんなに礼を言う。
報酬?ちょっと手伝ってもらっただけだし、この程度の仕事で覗き魔共にくれてやる報酬は無いよ。
・・飴玉でもあれば良かったんだが。・・・作るか?
とりあえず、縫ってしまわないとな。
部屋に戻るとする。
・・・・・。
部屋でいいんだろうか?
アーディの表情に反省の色は無い。というか、いかにも悪巧みしています、って顔をしてやがる。
鍵を掛けたら安全、という保証が無くなった今、むしろ危険地帯だ。
俺だって多少の縫い物ぐらいはできるし、仮縫いくらいはこのキャラでやってもいいんだけど、やっぱ槌キャラの方が良い補正が付く気がする。
鍛冶屋で場所を借りれないかな?
外は相変わらず酷い雨で出たくも無いが、つまりはアーディも好き好んで付いては来ないという事だ。
「・・・スザクは留守番でいいか?」
宿ならトイレもあるし、変なのに絡まれる心配もないだろう。
適当な穀物でも出して・・・と。サラダも食うか?
・・・・・。
スザクさん?
絡んで痛いんですけど、髪の毛を離してくれませんかね?
今、持ち上げるときガリっていったけど、俺の頭皮は無事だろうか?
気のせいでなければ、今、無理やり絡ませたよね?
足をグルグルってしたよね?遊んでるの?それとも巣だと思ってるの?
離れたくないという意思表示だという事にして、ローブをかぶる。
今回はスザクごとだ。前なんて見えない筈だが、大人しくしているのでいいか。
とりあえず宿を出た。
濡れないように速く走る?雨に当たらないように避ける?無理無理。
このステータスでも無理だよ。
走ると目に雨が刺さって痛いし見えないので、濡れながら歩く。
鍛冶屋の工房に付く頃には、防水のローブが重くなっていた。
中までは浸透して来なかったけど、これ、どの程度防水なんだろうな?
中で数名が働いていたので、軽く挨拶してマリッサのいた部屋に向かう。
ノックして入ると、マリッサは縫い物をしていた。
完成させた胸当てに続き、肩当ての作成を追え、今はグローブを作ってるらしい。はええよ。
で、マントを作るために一部屋借りたいと言ったのだが、空いてる部屋はマリッサの使っている部屋のみなのだという。
それは・・宿と変わらないな。
「何よ。ここで作ったらいいじゃない。
というか、本当に作ってくれるつもりだったの?」
冗談で素材を持って帰ったりしないよ?
そういえば、余ったグミーのかけらを返さないといけないんだが、持ってるキャラがリーフレッドじゃないんだよな。
こういう時にCCって不便!いや、便利に使ってるけどさ。
「いや、・・うーん・・。」
人に助けを借りようと思っててな、と言おうとしたんだが、手を貸すとか、連れて来ればいいとか言われそうだ。
「人に言えない技術でも使う気かしら?」
秘伝とかそういう意味で言ったんだろうけど、CCをスキルとするなら、間違ってはいない。
俺が閉口していると、マリッサが苦笑する。
「そんな大した物を作らなくていいのよ。今の装備にはマントはないもの。
今の装備よりマシな物を作ればいいの。後は適当に御託を並べてノルタークに行くわ。
その後で、ちゃんとした装備を買えばいいのよ。」
自分で御託って言っちゃうのか。
後で買えばいい、と言えばそうなんだけどさ。
いい装備にするに越したことは無いだろ?
実際、槌キャラ以外での装備作成の成功率はそう高くない。
とりあえず、仮縫いだけやっておくか・・・。
布と糸を取り出す。
「型紙とかあるか?もしくは、して欲しい形とかあったら書いてくれ。」
一応、見せてもらったイメージ図や、自分のマントやローブを参考に、だいたいの設計図は思い描いている。
が、本人が目の前にいるのだから、聞くのが一番いいだろう。
・・・・・。
頭の中で、この布をこうカットして・・とパーツに分けたりしていたが、マリッサの返事がいつまで待っても来ない。
目をごしごし擦っている。
「どうした?」
「リフレ、布が薄い赤に見えるのだけど・・・。」
そうだけど・・・どうした?
「染めた・・にしては時間が短すぎるわね。これは・・コーティング剤?」
そうだけど・・?
永遠に同じ言葉を繰り返しそうだ。
「そうだけど、って貴方、こんな色つきグミーなんて何処から持って来たのよ!」
ああ、この辺は暖色系グミーいないね。どこで狩ったか・・その辺に落ちてたのかもしれないな。
使わないプレイヤーにとっては、雑魚から出るゴミみたいなアイテムだしな。
レッドグミーが出没するのはは火山マップの温泉地周辺だったかな。ついでにサイダーグミーも。
船に乗って行った筈だ。つまり、この大陸には無い。
「・・・・・もしかして、希少品だったりする?」
俺が聞くと、「はぁ?」と口から出てきそうな顔をし、直後に呆れたような顔になり、そして、納得したような、諦めたような顔をしてから頷いた。
「・・・もしかしないわよ。
貴方の荷物、一度全部ひっくり返して見てみたいわ・・・。」
いや、欲望のままにひっくり返して見てただろ。
忘れてたとは言わせないぞ。
盗賊さんたちの集落で、トーチ全部出しやがって!
あれ、片付けるの大変だったんだからな!
他のアイテムまで全部は出てなかったけど。
俺達は胸のもやもやを視線に込め、互いにジト目を向け合うのであった。




