コーティング剤
窓を開けたいが、あいにくの雨である。
風も強く、勢い良く水がガラスを叩いている事から、換気は得策ではない事が伺える。
俺は、水でグミーのかけらを煮込んでいた。
確か、蝋系、もしくはオイル系にグミーのかけらを煮溶かしたものがコーティング剤になるはずだ。
オイル系は、食用だが油を購入しているし、なんとかなると踏んでいたのだが、いざ作ろうとした時に違和感を感じたのだ。
今、細かく刻んだグミーの欠片が、鍋の中で解けている。
これ、食用のゼリーが作れてしまうような安心素材の上に、何にでも使えると言っていい万能素材だ。
ちなみに、ゲームで使用するとHPを1回復する。
クエストでギリギリの個数を納品しようとして、間違って使ってしまったなんて事は、プレイヤーあるあるだったりする。
大剣キャラのストーリーは不憫な生い立ちだったりして、仲間と狩って来たグミーの欠片を分け合い、そのまま食べるなんて描写もある。
試しに、刻んだ欠片の1つを口に入れてみたが、食感はゴムのよう。口に入れてしばらくは、噛むたびに奥歯でキュッキュと鳴って、不愉快である。
無味無臭に近いが、無味無臭ではなく、ホコリと砂埃の中間みたいな味と香りがした。
口の中で粉々になっても「食べ物」として認識できず、なかなか飲み込めない。決して、喜んで食べたい物ではないな。
ちなみに、このキャラ(幼少時代バージョン)がグミーに直接齧り付く画像が、運営の無料配布しているスクリーン画像にあったりして、よくネタにされている。
ネタキャラで人気がない、可哀相なキャラである。
試しにスザクにも与えてみた。3回ぐらい勢い良く突いた後、放り捨てやがった。
口に合わなかったのか、それとも、腹が減って無かったのか。
ふと、そういえばサイダーグミーのかけらなんてゴミもあったなと思い出す。
なんか、うまそうじゃね?荷物整理の時にどのキャラに持たせたっけな?
うん?
ドアで物音がした気がしたが、大丈夫だ。鍵はちゃんと確認した。
ちょっとばかり神経質になっているようだ。
普段使ってない倉庫キャラに預けている筈だと見当を付け、CCをする。
最初にCCしたのは、同じ安いゴミアイテム倉庫だけど、本当に何に使うか分からない、何かの弾みで狩って、なんとなく拾ったアイテムを持たせたキャラだった。
ゲーム内では初心者時代に売るためだけに存在する、まさにゴミとしか言いようが無いゴミアイテムである。
アイテム沸くが埋まってきたら普通に捨てるレベルだ。
異世界に来て間もない時は、何が幸いするか分からないからと持ってはいたが、これ、もう売っちゃってもいいんじゃね?
仮に売れるとしたら、何に使うのか聴いた上で売ろうと思う。
ついでなのでリフレに持たせておくか。
で、CC。レベル72の拳闘キャラである。
うん、そうだ、こいつにグミー系を持たせてたわ!
各種グミーのかけらがあったが、味に興味のあるやつと、レベル的に使ったらいい素材になりそうなやつを取り出す。
そして再び、CCで弓キャラに戻る。
…これを足したいんだけど・・サイダーグミーのかけらに違和感がある。
これは混ぜたら失敗しそうだな。
ドアでカチャカチャ音がする・・・。また覗きにでも挑戦しているのだろうか。
しかし、鍵穴の先にはメモ帳が貼ってあるので、室内を覗くことはできない。
見えるとしたら、そこに記載された「バーカ」という文字だけである。
とりあえず、サイダーグミーのかけらだ。
グミーのかけらはは全般食えたはずなのだ。
隅っこを刻んで口に入れてみる。
「・・・っ!」
これサイダーじゃないわ。いや、サイダーはサイダーなんだけど・・サイダー味じゃないわ。
当たり前?こんな水色してたら、勘違いもするだろ。
口で大暴れする炭酸。鼻がツンとする。強力な重曹みたいな感じだが、食感がひどい。
ノーマルなグミーのかけらより弾力が無く、そうだな・・発泡スチロールでも食ってる気分だ。
粉々になった頃には、俺はサイダーグミーのかけらを吐き出していた。無理。飲み込めねー。
食って食えないことは無いのかもしれないが、食いたい物ではない。
つまり、食いもんじゃねぇ。
レッドグミー、イエローグミー、ブルーグミーなど、「カラーグミー」と呼ばれる、各種グミーは大丈夫そうだ。
レッドグミーを少しだけ入れてみる。完成イメージは淡いピンクだ。
ちょっと水が足りない気がしたので、足す。
あとは・・。
ポイズグミー、サンダグミー、アースグミーなどの属性シリーズは・・うーん、違和感という程でもないが・・どうだろう?
少しだけ入れて様子を見る。うん、これ以上は入れない方が良さそうだ。
とりあえず、これでコーティング剤は完成だ。
え?グミーのかけらを煮溶かしただけじゃん。って思うだろ。俺もそう思う。
ちなみに、普通のコーティング剤も水がオイルか蝋になっただけで、こんなもんである。
カラー調節が色々できるコーティング剤は、これくらい簡単じゃないと色々手間なのだ。
染め剤に近いが、これで染まる事は無い。あくまで、しなやかで柔らかなワックスみたいなものなのだ。
槌キャラにCCする。
そして、糸や布を、コーティング剤の入った鍋にぶち込んで、火を止める。
あ、やべ、ちょっと少なかったかな?布全体に満遍なく行き渡って・・・ギリ足りそうだ。
で、ここから作成なんだけど・・。
うん、びしょびしょの布をそのまま加工するわけにいかないよね。
宿の部屋が大変な事になるよ。
ここまでの工程で、窓がめっちゃ曇ってた。湿度やばい。
宿の部屋でやるのは無理があったか?乾燥の魔道具が欲しい!
・・・あ、今なら借りて来れるかもしれない。
そしたら、絞って、広げて・・・。道具か人手がいるな。
カチャカチャ・・
俺が困っていると、ドアが音を立てているのに気が付いた。
雨の音もあり、気のせいかと思ったが、そうではなかったようだ。
ちゃんと鍵は閉めてあるし・・と思ったら、ドアのロックが音に合わせて震えてるのに気付く。
鍵が開けられている?!
CC:リーフレッド
カチャン。
そぅ・・っと静かにドアが開いていき、そのニヤニヤした面が見えた瞬間、俺はアーディに掴み掛かったのであった。




