自警団、遭遇する
掘り返した巣、というのは森の奥にあった。
さすがに、地面を掘り返してあるならば、すぐに見つかるだろうと思ったが、これだけ広い森で地面の穴を探すのは、時間がかかって当然だった。
が、気が立って羽音を立てるフォレビーの群れと、盛り上がった土を見て、俺たちは顔を見合わせた。
わかりやすい。
そう思うと同時に、どんな規模の巣がその地面の下にあるんだ?と。
ここ羽音を立てるフォレビーが残党とするならば、持ち帰られたフォレビーを「山のようなフォレビー」なんて言うのもわかる。
控えめに見ても、倍以上の規模だったに違いない。
鍛冶屋の娘は、巣を掘り返すところまでは行ったものの、次々と帰ってきては襲ってくるフォレビーの数に、撤退を余儀なくされたのだろう。
しかし・・・よくここまで掘り返したものだ。
こんもり盛られた土の向こうは、通路のようになっていた。
巣さえ無ければ「要塞でも作ろうとしたのか?」と疑いたくなるくらい丁寧に掘られている。
採取用の穴倉程度に考えていた俺たちは、気を引き締めた。
現在、招集をかけて集まった15名を7人と8人の隊に分けて巣の捜索をしている。
俺たちは7人隊。8人隊を呼ぼうにも、音を出したら巣にいるフォレビーに気付かれる。
8人隊を呼ぶ前に、団員の1人を斥候として出す事にした。
状況を把握してからでも遅くはない。
彼が巣の様子を見に行って、すぐだった。
「チチチチチチチヂヂヂヂ!」
「「「ブブブブブブブ・・・!」」」
「うわあああああああっ!!!」
鳥が鳴くような音と、ものすごい羽音、そして男の悲鳴が聞こえた瞬間、斥候がしくじったのだと確信する。
となれば、やるしかない。
「チィ!全員、出るぞぉ!!!」
この中で一番レベルの高い奴がリーダーとして突き進み、フォレビーに集られていた斥候役の横から急襲した。
斥候役に集中していたフォレビーは、仲間達が倒れても何故か執拗に斥候を狙った為、割と苦戦する事なく殲滅する事ができた。
「おおお!レベルが上がったぞ」「俺もだ!」
「俺は今回の戦闘で2レベル上がった。」
団員達が嬉しそうな声を上げる中、囮・・・もとい、斥候役だった男だけが背中に哀愁を漂わせていた。
・・・俺の薬草をやろう。ほら、解毒薬も。
ちなみに、俺も久しぶりにレベルが上がった。
数が数だったからな。
7人隊のリーダー役をやっている男の指示で、笛を鳴らし狼煙を上げる。
これ、煙幕にも使える便利アイテムで、蜂の巣にも効果的である。
なので、巣に向かって煽ぎつつ、景気良く炊いている。
すぐに、8人隊がやってきた。
そりゃ、こんだけ煙が出てれば見失うはずもない。
そして、改めて巣を見る。
どでかい。
想定してた巣の・・・何倍だろう。
まだ奥行きのありそうなそれは、見えてる範囲だけでも相当だった。
そして、巣を剥ぎ取った跡がある。
・・・剥ぎ取ってこれかよ。
あの嬢ちゃん、よく生きてたもんだ。
実は、相当の手練れなんじゃなかろうか。
その間、燻されてよろよろと巣から飛び出すフォレビーや、出かけていて巣に戻ってきたフォレビーを倒していく。
「俺の経験値ぃっ!」
こうなれば、経験値の奪い合いである。
俺もその争奪戦に参加していたが、ふと、20レベルを超えているリーダー役達数名が、顔を突き合わせて難しい顔をしているのに気が付いた。
何でも、巣には必ず一体、クィーンフォレビーという、フォレビーを生み出すモンスターがいるのだが、巣が大きければ大きいほど強力なモンスターなのだという。
で、これほどの巣ならば、その強さは如何程だろうか。と。
「そんなん、これだけの人数がいれば大丈夫っすよ!」
そんな事を言う若手もいるが。
「俺はPTを組んで、これよりかなり小さい巣に挑んだことがある。
全員20レベルを超えた、6人の中堅PTだ。
最後に巣から現れたクィーンフォレビーは、普通のフォレビーの4~5倍がありそうなモンスターだった。
死者こそ出なかったが、全員刺されたな。状態異常は麻痺・混乱・毒だ。
1人は声が出なくなり、1人は麻痺の後遺症が残って冒険者を引退した。
俺も後遺症こそないが、冒険者という職業が怖くなって辞めた。正直・・・手が震える。」
ガタイのいいこいつは、さっき呼び寄せた8人隊の最高レベルだ。
冒険者になると言って両親に反対され、のどかなコランダを出て隣町のディアレイで活動していた。
と言っても、ディアレイも小さな町で、生息するモンスターもほとんど同じだったが。
コランダを出た冒険者は、だいたいディアレイでしばらく活動して、成功すればどんどん行動範囲を広げてどこか遠くへ行ってしまう。
戻ってきたのにはそんな理由があったのか。
「あれから、何をやるにも一歩引いてしまってな。
・・・俺は、ここで変わる。変わらないと、前に進めないんだ。」
震える手を何度も握り、盾の感触を確かめている。そんなに思い詰めていたのか。
こいつは、確かに引っ込み思案なところがある。
でも、いざという時は本当に頼りになる、俺たちのリーダーなんだ。
俺は今日のチーム組では7人隊だから、そっちのリーダーの指示で動いているけどな。
「俺、この戦いが終わったら、リジーにプロポーズするんだ。」
まるで、決意を口に出す事で自分を鼓舞するように、ボーラは力強く宣言した。
どう見てもお似合いのカップルだったが、プロポーズもしたこと無かったのかよ!
呆れ半分、だが戦意は充分。
俺たちは拳をぶつけ合う。
しかし、俺たちはわかっていなかった。
巣を半分持ち帰った、という鍛冶屋の娘の行動を軽視していたが、こうして巣を半分残しておく事こそ“正解”だったのだ。
こんな大きな・・・規格外の巣なのだから、クィーンフォレビーだって想定外の強さであっても何もおかしくはなかったのだ。
そして・・・・・――悪夢はやってきた。