防具作りのお手伝い
雨だろうが、暗かろうが、朝が来れば鶏って鳴くんだな。いや、正確には鶏じゃなくてコッコ鳥だが。
スザクに起こされ、体を起こすと、枕が湿っぽい気がした。
外は相変わらずの雨。しかも、雨も風も強くなってきている。
いつものように朝の支度を整える。
そして、朝飯を食っていると、例によって商人の家族連れが降りて来た。
顔見知りが集まれば沈黙が辛いのは万国共通だろうか。
挨拶をし、普通に話し掛けてくる。
天気の話に始まり、品切れの噂があった蜂蜜が買えてラッキーだったという話とか、樽が売れて良かったという、商売の話だ。
何か用事があって、前振りとして話しているのか?と勘繰ったが、ただの雑談だった。
とにかく、雨も風も強いので、移動ができずに困っているらしい。
が、宿のスペースを借りて商売ができるし、噂を聞いて、雨でも住民が来てくれるので、宿でまったり雨が止むのを待つそうな。
夫婦の子供、ロザは何か話したそうにしていたが、今はスザクの皿から穀物を取り出し、1つずつ置いてスザクに食べさせている。
面白いか?それ。・・・まぁ、大人しくしている分には問題ないか。
雨の移動についてだが、馬車を引くウマの機嫌や体調を損ねると大変なので、基本的に晴天を狙うのだそうで、そりゃー行き交う人が少なかった訳だよな、と納得である。
名乗っちゃいないが、時々「リフレさん」などと呼ばれるあたり、名前が見えているか、噂話でも聞いたんだろう。
アーディも野放しにしてしまったし、そこから漏れたのかもしれない。
噂をすれば、だ。
「おお、朝飯の時間に間に合った!」
こいつ、寝過ごすのがデフォルトなのか?
アーディが来たので、ロザが嬉しそうに移動して行く。
うん、良い遊び相手ができて、良かったな。
朝食を終え、女将さんに話を聞く。
昨日、しっかり昼寝をしたマリッサは、徹夜で防具を仕立てているらしい。
様子を見てきてくれないか、と言われたので、二つ返事で引き受ける。
サンドイッチとスープを渡され、鍛冶屋に向かった。
めっちゃ雨だな。
こらスザク、バタバタしない。そこら中に水が飛び散るだろうが。
そこからそこ、という距離なのに、しっかり濡れたな。
軽く体を拭き、工房に入る。
・・・・・。
「いいところに来たのよ。ここを抑えてて欲しいの。
動かないように、しっかりと抑えるのよ。挟み込むように、こうよ。
わかったかしら?離したら駄目よ。
あ、その前にそこの木箱を取ってくれないかしら。違うわ。その奥よ。・・ありがとう。
あ、そうそう。絶対に離しては駄目よ。違うわ。こうよ。ここが挟み込まれてないといけないの。」
手伝わされました。
うん、まだ作り掛けだが、あの真っ黒の甲殻より良い感じに見える。
色が味わい深いというか・・。
「着色した、可愛い革で統一したかったのだけど、贅沢は言ってられないわ。
ちゃんと防水加工がしてあるだけ、マシなのよ・・。」
色付きの革もあったはずだが・・と思ったら、所々ワンポイント的な感じで使うようだ。
さすがに丸ごと色付きにできる程は無かったからな。
ナチュラルカラーいいじゃん。俺は味わい深くて好きなんだけどな。
何やかんやで胸当てが完成する。
作りの荒い部分はあるが、時間が無いだけに仕方ないと言える。
今は、とにかく形を作って、後からしっかりと作り込めばいい。
うん、縫い目の心許ないのには目を瞑るとして、良い感じじゃないか?
マリッサが身に付けて動きを確認した後、マネキンのような人形に取り付けた。
あ、そうだ。女将さんから飯を預かってたんだ。
取り出して休憩を入れる。
マリッサに、スケッチを見せてもらい、俺にも何か手伝えそうな事は無いだろうかと探す。
頭、腕、腰、足、ブーツとグローブ、そしてマント。
何かしらのコンセプトに沿って作られた、セットの装備は、揃えることによって隙が無くなる他、何らかの効果が付く事がある。
なかなか揃えるのは大変だが、自分で作るとなれば話は別である。
さて、どんどん作らなければ間に合わない状況だ。
何か手伝う事は?しばらく無い?
「あ、マントくらいなら俺でも手伝えるんじゃないか?
ここに刺繍を入れてセット感を出すけど、ほぼ別枠だろ?」
「・・・。時間も無いし、頼もうかしら。マントの材料なら、結構、在庫があるのよ。
ただ、防御面での品質は微妙なのよね。効果の期待できる物を作れそうにないわ。」
さすがに大変そうなので、少しくらいなら手伝おうと思うよ。時間かかりそうだし。
材料を見せてもらう。糸からではなく、布からなのか。
既に布になっているとなると、ここからの加工は形を整えるだけ、と言った感じだ。
ゲームでは同じ布を使って補正の違うマントとかできたけど、普通はそこまで変わらないよな。
ふむ。確かに、分厚い布ってだけで、特に丈夫そうではないな。こりゃ期待できないって言うわ。
暖かそうでも無ければ、触り心地も良くない。「とりあえず着けとけ」ってマントなら作れそうだが・・。
「そうだ。俺のマントも1つ余ってるし、これを素材に戻せば」
「それは駄目よ。」
即効で却下された。
レベ30台のマントを作るには、素材が勝ち過ぎてるんだよなぁ。
しかも、攻略サイトが存在しないので、これを作り直せるかと言うと微妙な所だ。
「素材から仕入れて来るべきか・・。」
「・・また濡れ鼠になるわよ。それに、マントの材料なんてどこに行っても似たようなもんよ。」
うーん、雨の中走り回るのはもうだるいしなぁ。
何にでもだいたい使うのが、グミーのかけらだ。
近くのフィールドで獲れるせいか、幸いにも山のように置いてあるので確保する。
修繕系にも使うし、薬にも使う。もちろん、装備にも使う。それでいて、安いアイテムだったりする。
蝋みたいな扱いなんじゃないかと思うのだが、蝋ならもっと効果の高そうなやつがあるよな?
フォレビーの蜜蝋。これ使えないか??
マリッサに目利きしてもらい、良さ気な布地と糸を見繕う。
俺の買った針だと心許ないので、針も借りる事にした。
そして、マリッサのスケッチを見ながら、そのコンセプトに食い違いが起きないように話を詰める。
そうこうしているうちに、マリッサが飯を食い終えたので、宿に戻る事にした。
マントの作成か。
そういえば、武器はよく作ったり、作ってもらったりしたが、他の装備は買うことが多かったな。
ちょっと作るのが楽しみだったりする。
そんな気分も、工房を出たら霧散した。
暴風雨。ドアを開けた瞬間、びしょ濡れになったのだ。
「・・・・・・。」
呆けている場合じゃない。
スザクが頭の上で必死に耐えている気配がする。
俺は、一気に宿へと駆け出した。




