慌しい一日
「うおおおおおおお!」
気合を入れてみたけど、口に雨水が入るばかりで、ろくな事が無かった。
前に比べて、人通りが少ない道を駆ける。
雨で良い事っつったら、人が少ない事くらいだろうか。
正直、既にうんざりしているのだが、背に腹は代えられない。
お昼を少し回った頃、俺はノルタークへと着いたのだった。
まずはギルドだ。
「何があった!?」状態でギルマスが応対してくれる。
一応、お偉いさんの筈だが、こんな身軽に対応してくれていいのか??
俺が事情を説明すると、何とも言えない表情をして頭を搔いた。
ちゃんと「別に、緊急事態という訳じゃない。急いではいるけど、危機的状況という訳ではない」と最初に言ったんだけどな。
「丈夫なレザーか・・。現状、品薄状態なのは確かだが、先日届いたばかりだ。
加工まで進んでいない可能性は充分あるが、高レベルの装備を作れるほどのものかどうかまでは分からないぞ。」
と言われた。
レザーの問屋と革を扱っている工房を聞く。割と多い!
買い取っていそうな所に印を付けて貰った。が、場所がわからねぇ!
大急ぎで宿に行く。
店員に声を掛けたら、2人がかりで乾燥の魔道具の温風を浴びせて来た。
これ、風は温い程度なんだけど、風圧がすごかった。
ドライヤーみたいに熱で乾かす式じゃなくて、水分を吹き飛ばす式だな。
一応、調整はできるらしいが、問題なく乾いたよ。
お昼の手伝いをしていたのだろう、銀のリングを持った子達が、手持ち無沙汰そうにしていた。
今日は雨だし、お祭りは休業なのだろう。宿の主人に断り、子供達を借りる。
防水のローブを取り出そうとしたが、各キャラに配った後だった。
CCすればあるんだが・・。
宿で防水のローブを貸してくれるとの事なので、2つ借りて子供達に渡す。
俺?俺は一応あるよ。防水じゃないけど。説教と共に、俺の分も貸してくれた。
うーん、顔だけ隠せればいいかと思ってたけど、まぁ貸してくれるってんなら借りて行くとしよう。
親切な宿屋に感謝。
外に出て、桶を出して雨水を受けながら案内する子供達に、水樽の購入を約束する。
だから、ささっと案内しておくれ。
とりあえず、レザーの問屋で、使い物になりそうなレザーは買い占めた。
後から来たドワーフのお兄さん、すまん。
工房の方は、仕入れた材料を買い取りたいと言われて良い顔をするはずが無かった。
良いレザーを手放したがらないドワーフのオッサンら。
事情を話すと「マリッサを連れて来てくれれば、装備を作ったのに」との事。
その手があったか!!!
実は、あのマリッサをギャフンと言わせるべく、セット装備に力を入れている工房があるんだとか。
こりゃ、マリッサを連れて来た方が早いな。でも親父さんを納得させるには日数が足りないんだよな。
いくつか工房を巡ったが、どこも同じような返答。
一応、あまり失敗はできないが、そこそこの革は手に入ったし、これ以上を求めるのは些か酷かもしれない。
宿に戻り、水樽を購入。
ローブを脱いだが、結露か汗か、それとも水漏れがあったのか、案内人2名の髪が湿っていた。
2人にカップを出させ、「風邪を引いても治る、すごい蜂蜜」と称して、聖・蜂蜜を入れてやる。
風邪を引かれても困るからな。 ・・・効くよな? 超・蜂蜜の方が良かったか?
あ、超・蜂蜜は今、超聖・蜂蜜になってしまったから無いわ。超聖・蜂蜜は流石に派手すぎるんだよなぁ。
聖・蜂蜜は、出した時に薄っすら光が立ち昇ったように見えたが、気のせいで済みそうなレベルだったし、問題無いだろう。
あと、簡単に摘めるサンドイッチ、送りながら水も持って行くつもりだ。
一応、昼飯は宿で食ったらしいので、報酬はそんなもんだ。
ちょっと少ないかな?いや、拘束時間はそんなに無かったし、こんなもんだろう。
宿のお手伝いはもう無いとの事だったので、2人を送ってローブを回収。
樽は何人かで、どこかへと転がされて行った。
アジト的なものでもあるのか?興味はあったが、そんな場合じゃない。
またな、と別れを告げる。
ギルドへ礼を言いに行ったら、何故か蜂蜜を要求された。
クィーンフォレビーの羽がオークションで高額で競り落とされ、その蜂蜜というのに注目されているらしい。
1樽32,000Dで買い取ると言われた。少しコランダよりも高い?それとも、高騰しつつある?
蜂蜜は酒にした方が売れそうなので、あまり無理をして売る必要は無いと思っている。
まぁ、要求があったって事は、売ったらギルドは助かるのだろうし、と1つだけ売っておく。
宿にローブを返却しに言ったら、そこに居たドワーフのオッサンに水泳スーツのゴーグルマスクを渡された。
ヘルメットみたいなやつだ。冗談のつもりだったみたいだが、めっちゃ助かる!!
これは装備の扱いらしく、装着してしばらくしたら消えた。
宿の店員は、案内人の分の防水ローブは引き取ったが、俺の分は「次に来た時に返却で。」との事だった。有難く借りていく。
さて、今から帰ると、到着は夜だな。昼飯を食い忘れたので、腹に入れておく。
やはり、マリッサが居ない今のうちに、セット装備を作ってギャフンと言わせてやるって話で盛り上がっているようだ。
ただ、マリッサ専用という訳ではなく、あくまで「ギャフンと言わせる」装備なのだそうだ。
そのなかでマリッサが気に入った物を購入したとしたら、体型に合わせてサイズ調整する事になるので、すぐに装備はできないそうだ。
それに、完成までまだまだかかるらしい。今持ち帰って着せられるような完成度ではないとの事だった。
ふむ・・。材料を持ち帰って、マリッサが数日で完成させるのは無理があるのかもしれない。
いや、無理があるって女将さんが言ってたよな。大丈夫か?
今更ながら不安を覚えつつ、飯を食い終える。
さて、帰るか!!
町を出ると、ローブが消えて、ヘルメットゴーグルが頭を覆う。
うん?俺の頭装備はどこに行った?と思ったら、アイテムボックスの中だった。
同じ系統の装備は、後から装備したものが優先されるっぽいな。
もちろん、ワイパーなんぞ無いから、ヘルメットゴーグルを着けても視界はぼやけている。
が、呼吸も視界もきつかった行きと比べたら、快適そのものであった。
夜、しかも雨となれば、町を出入りする人は全くと言っていいほど居なかった。
俺は、快適に雨の道を走り抜け、ディアレイに寄らずにコランダまで、一気に走り抜けたのだった。




