朝食を終えて
とりあえず、全裸事件が、何故か精霊の祝福の扱いになっているらしい事が分かった。
結界の不備って話もあったが、きっと不備らしきものが見当たらなかったのだろう。
もしくは、結界を調べる事すらしていないが、とりあえずテキトーな理由を付けたのだろう。
それはともかくとして、だ。
「その歌は使用禁止だ。歌われる人の気持ちにもなれ。」
おい、聞こえないみたいな顔をすんな。
返事はしてないとか言って、ほとぼりが冷めた頃にまた演奏する気だろう?
「みんなの~まえで すっぽんぽん♪」
ほらぁ!もう覚えちゃってるじゃない!
ってか、これいつ作ったんだ?昨日、ガキ共に話を聞いたんだと思うが・・。
まさか、すでに演奏済み・・流布済みとかじゃないよな?
噂話ならともかく、耳に付く歌になるとそう簡単に消えないんだぞ。
「あでででで!いや、ちょっと待てよ!ちゃんと英雄を讃える歌もセットで作っただろう?
±0じゃないか。そんなに怒る事はないだろう。」
俺にとってはマイナスとマイナスだからマイナスにしかならないんだよ。
それに、だ。
「どうせ、俺の居ない所では、もっと面白おかしく語ってるんだろう?」
「しょんな事無いよ!」
噛んでるし、視線が合わない時点で説得力ねぇよ。
こいつ、マリッサやギルディートと違って平気で嘘を吐くから困る。
それでいて言質は取らせないのだから、性質が悪いとしか言いようが無いな。
「そんな事より、そのクィーンフォレビー戦で持ち帰った蜂蜜、今かなり人気らしいな!
あまりの人気っぷりに商人に売ってくれって強請まれて、名産の蜂蜜酒作りに影響があったらしいんだけど、昨日のってもしかして・・・。」
あからさまな話題転換にかかりやがった。
それにしても、そんな品薄だったのか。だから最初にもらい過ぎだって言ったんだけどな。
「お前、そうやって誤魔化して時間稼ぎをしても、結局、後で痛い目を見るだけだからな。
っていうか、調子に乗ってると痛い目に遭わすからな。
昨日のは、あの時にもらった報酬の蜂蜜だ。
詰め替える樽が足りなくて、絞ってもらうのを延期してたんだよ。」
しっかりと釘を刺しつつ、アーディの問いに答える。
「あの光り輝いていた蜂蜜って何だ?」
「・・・・・・・。」
アーディの演奏を聞いていたせいか、会話が小さくなっていた夫婦の会話が途切れていた。
「光り輝いた蜂蜜」に反応して、思わず聞き耳を立ててしまったのだろう。
一瞬、無音の世界になり、そして、
「いや~蜂蜜って綺麗だよな、金色に輝いているみたいだもんな。」
「・・・そ。そうだ、な。宝石のような輝きだよな。」
俺が無理やり誤魔化したのに、アーディが乗った。
ここで根掘り葉掘り聞いても、自分が逆に別件で詰められると察したのだろう。
これで俺がアーディに「全裸事件」について問い詰める事が難しくなったが、アーディも俺に「光り輝く蜂蜜」について聞き出す事が厳しくなった。
ここで無遠慮に口を開けば、逆に自分が吊るし上げを食らう訳だ。
「ぜんぶたべたよ!おにいちゃん、おじさん、もっとおはなしして!」
これ以上OHANASHIすると大変な事になりますよ?
こういう時、空気を読む力の乏しい子供というのは自由である。
俺は、500Dを取り出して、アーディの目の前で捻り潰した。
「アーディ、お前にお小遣いをやろう。この子の相手をしてやってくれ。」
まさにお小遣いのレベルなのは、単なる嫌がらせである。
変な事を吹き込むなよ?という牽制程度のものだが、アーディは正しく理解したようだ。
目を白黒させて受け取り、コクコクと頷いた。
ひん曲がったコインだが、アイテムボックスに入れると普通にDとして換算されるから、問題は無い。
俺は、マリッサに今後の予定について話しておかないといけないからな。
女将さんの所に話を聞きに行った。
マリッサの部屋がどの建物にあるかも分からないし、雨だから話の通りやすい家族に聞くのが一番だしな。
そこで、昨日一日、マリッサが姿を見せなかった理由がわかる。
なんと、再びノルタークに行くのに、親父さんが立ちはだかったそうなのだ。
親父さんの言い分はこうだ。
「セット装備を買いにノルタークに行ったのは分かる。ノルタークにセット装備が無かったのも分かる。
だが、それで何故、討伐クエストの受注に繋がるんだ?もし受けるとしても、セット装備を買って整えてからだ。
付いて行くのは許さない。行くなら、自分の身を守れる装備に身を包んでからにしなさい。」
うん、そりゃぁ家族は心配するよな。12歳だもんな。
マリッサは、アイテム製作要員であり、後方支援担当だと主張したのだが、許しは出ず。
で、今、マリッサは自分の装備を製作中・・・と。
「それって・・間に合うのか?」
「難しいと思うわ。単に装備を作ると言うのならまだしも、あの人を満足させる装備となると・・。
まぁ、数ヶ月かかるでしょうね。数日というのは無理だわ。多分、反対を押し切って出る事になるでしょうね。」
だろうな。
「酷い喧嘩にならないと良いのだけど・・。」
マリッサがめちゃくちゃ悪態を吐いて、ついでにハンマーを親父さんに投げつけるところを想像してしまった。
簡単に想像できてしまうあたり、ものすごく現実味のある話であった。




