OHANASHIしよう
俺は、できるだけ威圧的にならないよう、笑顔を心掛けたが、何故かアーディに「ひっ」と怯えられた。
うん、気のせいでないなら怯えられているな。なぜ?Why?
「昨日、子供の集団の面倒を頼んだよな?」
「お、おう。」
「何を吹き込まれたんだ?」
・・・・・・。
自警団員が10人以上を以ってしても抑え切れなかった大型クイーンフォレビー戦。
端的に言ってしまえばそれだけなのだが、酔っ払いの戯言を子供達が聞いて、脚色されまくった結果。
「事の発端は一欠けらの巣蜜であった。冒険者が、命を掛けた探索の末に持ち帰ったものだ~(略)。
だが、そこに待ち構えていたクィーンフォレビーはまさしくモンスター。化け物の中の化け物であった・・!そうとも知らず・・(略)。」
「果たして、この町の最大の危機に立ち向かう自警団の運命やいかに!(略)~。だが、ここでコランダの若き英雄は毒の一撃をもらう・・!
意志の力で毒を耐え、クィーンフォレビーの動きを封じる。そして・・(略)。」
「(略)~。おお、若き英雄は、今まさに息を引き取ったのであった。
駆けつけたヒーラーの詠唱が響く中、家族がその手をとり、かの者の名を呼ぶ。
だが、無情にも応えはなく、回復の魔法が効果を見せることは無かった。
彼の死が、コランダを絶望に染めようとしていた、その時!(略)」
「(略)~。そして、駆けつけたのは、フラリと現れた旅人だった。
コランダでは虫も殺せぬような軟弱な態度を見せた男が、何をできるものか、そう思われた。
しかしッ・・・!~(略)。」
お前は吟遊詩人か何かかっ?!
楽器でも演奏しだしそうな演劇口調で語りだしたのは、まさしく英雄譚だった。
事実がだいぶ湾曲されている気がするが。
と、ついには弦楽器を取り出して歌い始める。
吟遊詩人なのかよっ?!
一曲歌い終え、してやったりなアーディの頬を摘み上げる。
「うぇぇ?いはい、いはいんあけお・・・」
「残念だが、普通は頬の肉を摘まれたぐらいじゃ、そこまで喋り難くならないんだよ。
大袈裟な奴だって事を周知させる結果になったな。」
「分かったけど、本気で痛いよ!」
この演技派め。目に涙が浮かんでいたので離してやる。
見た目相応の年なので、多少の事には目を瞑ってやらないとな。
もちろん、教育はするけどな!
「おーいてぇ。何が気に入らないんだよ。お前の英雄譚じゃないか・・・。
俺の歌は悪くなかったろ?自慢じゃないが、そこそこ人気があるんだぜ?」
どう考えても自慢だろ。てか、楽器を見るに、実は吟遊詩人が本業だったりするのか?
あと、俺はそういうのが嬉しいとは思わないし、英雄でも何でもないからな。
大事に抱えている楽器は、俺の知ってる楽器に例えると・・
三味線を洋風にして弦を多くした感じ?ギターのボディを小さくした感じ?
うーん、何に例えたらいいんだろう?
ちなみにボディ部分は皮を張ったボウルみたいな形状で、叩いて太鼓みたいな音を出すこともできるようだ。
アーディは俺の「吟遊詩人が本業」という台詞に満更でもないような楽器を撫でる。
うーん、冒険者的には褒め言葉じゃないんだが、どっちかって言うと吟遊詩人の方をやりたいんだな?
「で、他には?」
終わって無かった!と言った顔でこちらを見るアーディ。
そりゃそうだ。だって、「みんなの前で全裸になる」などという話が出て来てないからな。
どうせ、お前がどっかで聞いて来て、吹き込んだんだろう?
おだてて誤魔化そうという魂胆も透けて見えてるんだよ。
「他にも、模擬戦で歯が立たなかった話とか・・人喰らいの討伐とか!」
「この町で何を吹き込まれたのかって聞いてるんだけど?」
本当に「あわわわ・・・」とか言う奴がいるんだな。
さすがに男じゃ可愛いとは思わねーわ。
変な脚色とか無ければ怒らないよ。多分。どうせ広まってる事だし。
コランダ内でガキ相手に語る分には、許そうじゃないか。許すよ、多分な。
「ぜんらじけんのおうた、ききたい!」
怯えるアーディに容赦なく追い討ちをかけるロザ。
子供の痛恨の一撃力ってヤバイよな。
やっぱり、アレは事件だよな。イケメンだったら晒し者になってるところだ。
俺なら逮捕で済む。・・・どのみち通報ものではある事に変わりは無いがな。
「・・・ッ!英雄を見ていたのは人ばかりではない。
新たな英雄は世界に認識されると共に、精霊にも知れ渡る。
興味を示したのは、悪戯好きの精霊であった。
与えるは祝福は・・・・♪」
嫌な予感がして、アーディの顔を見る。
アーディの目は動揺で左右に震えていたが、やけっぱちのような声を上げた。
「♪みんなの~前ですっぽんぽん♪
英雄~なのにすっぽんぽん♪
笑えよ笑え、勇者は祝福に~包まれる♪」
(繰り返し)
・・・・・。
「あででででで!あででででで!!!痛い、痛いって!」
「アーディだけに?」
「笑えねーよ!あでででで!!頼むから離してくれ!!」
笑えないのはこちらである。
繰り返すうちにノリノリになって声がでかくなるのは嫌がらせか?楽しそうに歌いやがって。
こんな単純な歌、子供の前で歌ったらどうなるか、分かり切ってるだろうが。




